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2-13話 律姉を救え 5


「もうこの洞窟に用事はねぇ。帰るぞ」


「わかりました」


 最後尾を担当する部長を背に、来た道を戻っていく。


 時折ふともも周辺に強い視線を感じた史記だったが、気にしたら負けだと自分に言い聞かせて、前だけを見て歩いた。


「史記ちゃんも見る? テスト中の可愛い史記ちゃんの姿。お姉さんのおすすめはこれね!!

 ……ちょっと史記ちゃん? 聞いてるの?」


 隣を歩く律姉が嬉しそうにカメラの画面を見せてきても前だけを向く。


「本当に男か? 歩く姿とか、どう見ても女だぞ?」


 そんな呟きが後ろから聞こえたとしても、ただ前だけを向いて歩いた。


 女装した男。

 女装した男を眺めてニヤニヤする女。

 女装した男の白いふとももを眺めるおっさん。


 ここには変態しか居なかった。


「よし、とまれ。最後のテストを始める。調合の経験は?」


「……ありません」


「わかった」


 ダンジョンの出入り口から差し込む太陽の光を遠目に見ながら、部長が簡易のコンロを取り出した。


 手のひらサイズのボンベの上に専用の器具を取り付け、その上に小さな鍋をおく。

 ペットボトルに入っていた水をゆっくりと注ぎ入れた。


「指示は出す。やってみろ」


「はい」


 鍋の中に先程入手した<ウサギの花>を沈み込ませた後で、簡易コンロを操作してカチカチと火をつける。

 コンロに関しては、登山用品を買った時に一度試していたので、支障はなかった。


「沸騰するまでそのまま放置だ。その間にいくつか質問がある。

 まずは1つ目だ。史記くんは、収納袋は使わないのかね?」


「収納袋って、……それ、ですよね?」


 指さしたのは、先ほどから様々な物を出し入れしている不思議な袋。

 気になってはいたが、テストに影響するかも、との思いが頭を過ぎり、聞けないでいたものだ。


「仲間の1人に収納が出来る者がいるので、必要に成らなかったんですよ」


「あん? あー、そう言えば自分の家のダンジョンにだけ潜っているって言ってたな」


 一瞬だけ不思議そうな顔をしたものの、1人で納得した部長が更に言葉を続ける。


「今のところは不要なのかもしれねぇが、一応は作っといた方がいいぞ。いつもそのお仲間と一緒に居られるわけじゃねぇんだし、最低限、自分の武器と非常食くらいは自分で持っとけ。それに、今日みたいに武器を持って外出しなきゃ行けねぇ時もあるからな」


「あー、たしかにそうですね。今日もビクビクながら鉄パイプを持ってきましたよ。いつ警察に『鞄の中見せて』って言われないかと……」


「ちげーねぇ。可愛い娘さんが鉄パイプを鞄に忍ばせてりゃ、どう言い訳しようが怪しすぎるわな」


「いえ、あの、俺、むすめさんじゃ――」


「そろそろ煮えたな。残りの質問も後からだ。花を取り出して火を弱火に切り替えるぞ」


「……あ、うん、はい。わかりました」


 沸騰する鍋から<ウサギの花>を菜箸で取り出し、水洗いした青い石を鍋の中に滑り込ませた。


 時間とともに石から青い色が染み出して、全体がゆっくりと色付いていく。

 火を消して粗熱を取れば、アクアマリンのような液体が残った。


 ろ紙で不純物を取り除きながら、空のペットボトルに移し替えていく。


「即効性の傷薬として使える代物だ。採取に手間が掛かりすぎて量産が出来ねぇ、そんでもって効能も高くねぇから工業的な価値は低いんだけどよ。まぁ、あれだ、初心者のお守りレベルだ。

 うちのメンツじゃ誰も使わねぇからな、そのまま持って帰れ」


「いいんですか?」


「あぁ、受験の記念ってことにしとけ。だがな、そいつはダンジョン外に持ち出すと劣化しちまうから、収納袋で持ち歩くか、お仲間に預けとけ。そうすりゃ、1年は保つ」


「わかりました。ありがとうございます」


 出来上がった液体を嬉しそうに眺めた史記が深々と頭を下げた。

 そんな史記の様子を楽しげな表情で眺めていた部長の顔から笑顔が消え、声に真剣味が帯びる。


「あとは俺の質問に答えれば、テストは終了だ」


 部長の瞳に熱がこもり、鋭い視線が史記の姿をなでる。

 そして、怪訝そうに目を細めるて、ゆっくりとその口を開いた。




「足がすべすべな理由と、声が可愛い理由を正確に答えろ」



「…………は?」


「聞こえなかったか? 足が綺麗な理由と、声が可愛い理由だ」


 どうやらそれが最後のテストらしい。


「……あー、うん。はい。そうですね……。

 足の方は、律姉に騙されて永久脱毛されたからと思います。

 声が高いのは、律姉にりょうせいるいの特訓をさせられたためです」


 遠い日の事を思い出した史記の目から、輝きが消えた。


「なんだ? その両生類の特訓ってのは? カエルのような声になんのか?」


「いえいえ、両方の声って書いて両声類です。男性の声も女性の声も出せるようになる訓練ですね。喉仏を上にあげることで男性らしさを減らすって感じです。気がつけば地声も高くなってました」


 ちなみに、その成果報酬は、新しいパソコンと新作のゲームであった。


「良くわからんが、垣本くんが師事したとの報告に間違いはないんだな?」


 幼いころから律姉に肉体改造の指導を受けていた。そう考えれば、たしかに師弟関係と言えなくもない。


「……そういうことに、なるん、ですか、ね?」


「よし、わかった。史記くんを<Fランク冒険者>と認めよう」


 あまりにもあっさりと合格通知が出されてしまった。


「はぁ、ありがとうございます。……いいんですか?」


「あぁ、Fランクの仕事は一般人をガイドするものがほとんどだ。その容姿なら客のウケは良いだろ。戦闘力はまぁまぁ、採取も調合もやりゃぁ出来るから問題はない。師弟関係も嘘じゃないようだしな」


 釈然としない物を感じるが、どうやらテストは合格のようだ。

 その言葉を聞いて、ずっと大人しく見守っていた律姉が、1歩だけ前に踏み出す。


「私の件も納得して頂けた、ということでよろしいのでしょうか?」


「あぁ、私は納得した。だが、流石に罰則なしにすれば上の連中がうるさいからな。

 垣本くんには、これまでの活動のすべて報告して貰うとともに、これから何かしらをしでかした場合は、それの内容の提出も求める、それを罰則としよう」


「……部長、すみませんが、それはどういう意味でしょうか?」


「つまり、史記くんの写真を1番に見せろということだ」


 首を傾げていた律姉の顔に、満開の笑顔が咲き誇った。


「かしこまりました!! 謹んでお受けいたします!!」


 こうして律姉の危機は去り、史記は冒険者として新たなステージへとあがった。


「部長。今回のベストショットはこれだと思うのですが、いかがでしょうか?」


「いや、それよりもこっちだな。確かにそっちの方が良いアングルに見えるかもしれないが、トリミングして構図を変更すれば、こちらの方が史記くんの可愛らしさがより強力になる」


「なるほど!! さすがは部長です。加工修正とは思いもよりませんでした。早急に作業にはいりまして、本日中に修正した物を提出させて頂きます」


「あぁ、楽しみにしているよ」


 律姉も新たなステージへとあがってしまった。



 イラストレーター様が発表されました。


 なんとあの、カスカベアキラ先生!!!!!

 カスカベアキラ先生です!!!!


 小説の挿絵はもちろん。家庭用ゲームにケータイアプリ、

 2冊の画集に、子供は見ちゃダメなやつ、コミックの連載などなど。


 女性向け、男性向け。両方描ける超売れっ子様!!


 小説家になろうでは、佐伯さん先生の

『転生したので次こそは幸せな人生を掴んでみせましょう』

 のイラストレーターさんでおなじみですね。

 

 そんなすごい方が、イラストを描いてくださるのだとか!!

 本当にありがとうございます。


 ちなみにカスカベアキラ先生は、可愛い服を着た男性、


   = 『女装男子』 『男の娘』 =


 も手がけて居られます。


『律姉、歓喜!! 部長も歓喜!! 史記ちゃん涙目……』



 書籍の発売は、夏頃を目標に頑張っています。

 

 これからもよろしくお願いします。


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