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2-11話 律姉を救え 3


「はぁっ!!」


 上空からまっすぐに振り下ろされた鉄パイプが部長の額へと向かう。


(どうやって避ける? 右か? 左か? 後ろか?)


 そう自分に言い聞かせるようにパイプを振るう史記だったが、対する部長は一向に動く気配を見せない。

 鉄パイプが勢い良く振り下ろされようとも、その場から動かず、同じ体勢で立ち尽くしていた。


(やばい、当たる!!)


 そんな思いと共に振るう力を弱めたものの、本気で振るった鉄パイプは止まりそうもない。このままのスピードで頭に直撃すれば、惨事は免れないだろう。


(やばい、やばい、やばい。殺人はマジでやばい。美雪に会えなくなる!!)


 どんなに止まれと願おうとも、勢いが乗った鉄パイプは止まらなかった。

 そしてついに、無防備に立ち尽くす部長に鉄パイプの影がさす。


(面会の時には、おにぎりを持って来てくれるんだったよな……)


 最早これまでか、と史記が諦めたものの、鉄パイプが部長に当たることはなかった。

 少しずつスピードを落とした鉄パイプは、史記の心を反映するかのように、誰もいない空間でその動きを止めた。


(……あれ? 助かった? 美雪に会える?)


 不思議そうな表情を浮かべて鉄パイプの先を見つめる史記の前には、相変わらず無防備に立ち尽くす部長の姿があった。


 だが、それは何も史記が無理やり鉄パイプの軌道を変えたわけではない。鉄パイプが額に当たりそうになった刹那の時間で、部長がほんの少しだけ後ろに下がった成果である。


 目を見開いて驚く史記に対して、ニヤリと笑った部長が手招きをした。


「力いっぱい振っても当たらないから安心しな」


「……そうですね。頑張らせてもらいます、よっ!!」


 お返しとばかりに、軽い気持ちで鉄パイプを切り上げて見たものの、部長はあっさりと避けてみせる。

 力量の差は十分に理解していたつもりだったが、どうやら予想以上だったようだ。


(とりあえずは、自分が出来ることをするしかないよな)


 覚悟を決めた史記が、鉄パイプを上段に構え直し、余裕の態度を崩さない部長の顔目掛けて鉄パイプを振るう。


 先ほどと同じようにほんの少しだけ後方へと動いた部長の目の前を鉄パイプが通り過ぎていった。


「はっ!!」


 そのままの勢いで地面に叩きつけた鉄パイプを部長の足目掛けて振り上げる。


 その攻撃を部長が後ろに避けようとした、刹那、――強く握りしめていた手を緩めて、鉄パイプを部長目掛けて投げつけた。


 手元を離れた鉄パイプが、上下に回転しながら部長目掛けて飛んでいく。


「おっと」


 だが、その鉄パイプすらも、その場でしゃがみ込むことで、難なく避けてみせた。


「考えたな。おも――い゛!!」


 相変わらず余裕の表情を浮かべる部長目掛けて、右足を大きく蹴り上げた。

 スカートから覗く白い足と共に、大小様々な石が部長へと向かう。


「ぐぇ……」


 驚いた表情を露わにした部長の体に数個の石が当たり、遅れてやって来た史記のつま先が、部長の顔面を捉えた。


「……え!?」


 予想外の成果に、思わず声が出た。

 鉄パイプ、小石、足、どれか1つだけでもガードしてくれれば良いな、などと思っていたが、直撃はあまりにも衝撃的だった。


「す、すみません。大丈夫ですか?」


「あはは、いやなに、問題ないよ」


 慌てて駆け寄れば、鼻から血をにじませた部長が和やかに笑った。

 よっこいしょ、と言いながら立ち上がった部長が、スボンの汚れを手で払って、数回ジャンプをする。


「うん、大丈夫だ」


「そうですか」


 ほっと安堵の溜息をつく史記に対して、どことなく罰が悪そうな表情を浮かべた部長が、フラフラと視線を彷徨わせた。


「史記くん。一つだけ質問があるのだが、構わないかな?」


「え? あ、はい。なんですか?」


 おほん、と一つ咳払いをした部長が何かを決意したような表情を浮かべ、力の篭った視線を向けてくる。




「なぜ、スカートの下にスボンを履いているのかね?」




 部長の言葉通り、スカートの下にはショートパンツが装備されていた。


 女性物の下着だけは、それだけは勘弁してください、と泣きながら頼んだ結果だった。


 どうやら、そのショートパンツがどうにも気に食わないらしい。


「スカートの下には楽園が広がっているべきなんだ。男のロマンがあるべきなんだ。

 君も同じ男ならばこの気持がわかるだろ!? なぜそこに、防壁が存在するんだ!!」


 当たらないと思っていた攻撃が当たった理由を知れた気がした。


「…………部長さん。娘さんの連絡先を教えてもらっていいですか?

 あなたの父親は『テストの最中に男が履いたスカートの中を見たがる変態です』って教えてあげないといけないんです」


「……いや、私が悪かった。『見えないからこそ無限の可能性がある』きみはそう主張したいわけだな?」


「……ん? あ、いや、そういう訳では――」


「いや、みなまで言うな。趣味は人それぞれだ。否定するつもりはない。

 よし、テストを続けるぞ。次は、史記くんの耐久テスト……、の予定だったんだが、さすがにその姿の者は攻撃できそうないな。よし、耐久性は合格で良いだろう」


「…………」


 可愛いは正義であった。


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