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6話 新たな選択


「……とまぁ、そんなことがあってさ。困ってんだよ」


 コストパフォーマンス満点の美味しいランチを食べ終えた史記は、勝を連れ添って体育館の裏に向かい、昨日起こった出来事を包み隠さず伝えた。


 なぜ、体育館裏なのかと言えば、人気が少なく、周囲を建物や木に囲まれているため、変な横やりを入れられる心配が無いからだ。


 ある意味、たばこを吸いに来る不良達と同じような考えである。


 話の内容は『妹の部屋にダンジョンが出来た事』と『対処が面倒な事』だけなので、人に聞かれても別段問題無い話なのだが、自分の不幸を赤の他人に聞かれたくは無い。


 そんな史記の気持ちを知ってか知らずか、体育館が作る影に座りながら、苦労話に耳を傾けていた勝は、ドッジボールに興じる学友達の声を遠巻きに聞きながら、肩を竦めて苦笑した。


「自分家にダンジョン出現とか、よくもまぁそんな面倒事を引き込んだな。

 しかもそれが美雪ちゃんの部屋とか……。なぁ史記さんよぉ。ちょっと、お払いとか行ってきた方がいいんじゃねぇか?」


お手上げだとばかりに、勝が両手を高々と上げて見せ、史記の口からは、本日18回目の深い溜息が漏れた。


 自分でも厄介事を引き込んだと感じている史記だったが、たとえ言った相手が親友であっても、面と向かって自分の不幸を肯定されては面白くない。


 いや、親友だからこそ、面白くないと思う部分もある。


 だが、そんな感情とは裏腹に、彼の口から飛び出したのは、親友の言葉を追随する物だった。


「……たしか、星城さんの家って神社だったよな?」


 星城 香奈(せいじょう かな)、2人と同じクラスに所属する少女である。

 あまり強い接点はないが、実家が有名な神社だと聞いたことがあった。


「ん? おぅ。そのはずだぜ? なんだ? お祓い行くのか?」

 

「……うん、まぁ、……行ってみようかなー、なんて……思わなくもない」


 お祓いなど、どこか古臭く感じる物ではあったが、『呪われてても可笑しくない』と思ってしまうような出来事が頻発してるのも事実である。


「おう、いいんじゃねぇか? あの神社って結構デカイから、御利益ありそうだし。

 けどまぁ、史記の不幸体質レベルを改善するのは難しい気がするけどな」


「…………」


 勧めてはみたものの、勝自身、お祓いで現状が改善されるとは思っていないらしい。

 適当に思った事を言ってみただけなのだろう。


 たしかに、神社で祈りを捧げた程度でダンジョンが消滅するのなら、すでに日本からダンジョンが無くなっているはずである。


「まぁ、史記の不幸体質は一端置いといて、現状で解決しなきゃいけないのはダンジョンだよな。

 放置はできないし、神社で祈ってもダメだろ? やっぱ自分で間引くしか無いんじゃね?」


「そうだよな…………」


 何気なく話す勝の言葉を聞き流すように同意した史記だったが、何故か勝の言葉に強い引っかかりを覚え、首をかしげる。


 そんな史記の態度を気にもかけず、勝が続きの言葉を紡いだ。


「たしかに面倒だけど、依頼は美雪ちゃんの許可が出ないからな。そうなると――」


「いや、ちょっと待て。

 駆除って自分でやれんの!?」


 慌てた様子で、史記が勝の言葉を遮り、素直に驚きの声をあげた。


 専門家に依頼するのでは無く、自分でやる。

 勝司弁護士に相談した時には、一切出てこなかった選択肢だ。


「ん? おう。知らなかったのか? たしか15歳以上なら大丈夫だったと思うぜ?

 それに、すっげー儲かるって話しだろ?」


「マジでか!! そこんとこ詳しく――」


 目を輝かせながら勝に詰め寄ったものの、その動きを牽制するかのように、『キーンコーンカーンコーン』と、少し間延びしたような独特の鐘の音が、史記の耳に飛び込んできた。


 それは、昼の休憩の終わりを告げる合図。 


 遠くから聞こえて居た騒ぎ声も消え、一瞬にして辺りが静寂に包まれる。

 風に揺れる木の葉の音だけが、周囲を奏でた。


「っと、予鈴……、ん? 5時間目って移動教室じゃ無かったか!?」


「やっべ、音楽じゃん! 走るぞ!」


「おうよ」


 予鈴が鳴ってから授業開始までの時間は5分。


 体育館裏から教室まで行くだけなら、さほど問題になることは無いのだが、教室で教科書やリコーダーを探した後に、音楽教室まで移動出来るような時間では無い。


「誰だよ、人の居ない場所に行こうって言ったやつは!!」


「お前だよ、おま……、いや、俺だっけか?」


 人気の無い場所に移動した事を悔いながら、2人は競い合うように次の授業へ向かうのだった。



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