2-5話 リュックはペール
ペールがリュックになる。
眼の前に居る艶やかな髪のロリ巨乳が、リュックの代わりになる。
ペールの言葉を何度も脳内にリピートさせたが、その意味が一向に理解出来い。
助けを求めるために柚希へと視線を向けたが、柚希もわからないと言いたげに首を横に振る。
美雪も首を傾げるだけだった。
「……あれか? ペールって見た目以上に力持ちだったりするのか?」
「力ですか? いえ、残念ながら種族がスライムなので、力に自信はないですよ? 見た目通りだと思ってもらって間違いはないのです」
従魔ゆえに、すっげー多くの量の荷物を持てたりするのか? などと淡い期待を抱いたが、どうやら違うらしい。
「ペールちゃんって変身出来たりするのかな?」
「変身って、姿を変えることです? ごめんなさいです。幼体のころの姿になることは出来ますですが、自由自在には変身出来ないのですよ」
「そっか……」
文字通り、ペールちゃんがリュックの姿になるのかも、と思ったようだが、どうやらそれも違うようだ。
最後の砦とばかりに美雪へと視線を向けられたが、彼女は悲しそうに首をふるだけ。
どうやらこれ以上のアイディアは出ないらしい。
お手上げだとばかりに全員の視線がペールへと注がれる。
そんな人間達の反応を見たペールはキョトンと首をかしげたものの、納得がいったとばかりに、ぽん、と手をたたき、申し訳なさそうに頬を掻く。
「そういえば、言ってなかったかもですね……」
そんな言葉とともに近くの棚に置いてあった折りたたみナイフに視線を定めたペールが、艶のある指をナイフへと伸ばし、そのままゆっくりと手の中に握り込んだ。
見えやすい位置に移動して、手がゆっくりと開らかれていくく。
先程まであったナイフの姿は、影も形もなくなっていた。
「ふぇ?」「え?」「は?」
驚きで目を丸くする人間達を尻目に再び手を握ったペールが、ふ~、と手に息を吹きかけて、手を開く。
一瞬前まで何もなかったその空間に、再び小さなナイフが戻っていた。
「すご~い!! ペルちゃん、マジシャンみたい!!」
「……どうなってんだ?」
どう見ても手品にしか見えないが、この場で手品を披露する理由はない。
ということは、種も仕掛けもないのだろう。
全員が目を大きく見開いて驚きの表情を浮かべる前で、ペールが得意げに大きな胸をはる。
「物体を魔力に変換して体内に取り込んだのです。スライムの得意技なのですよ」
魔力に変換して、の部分が良く理解できないものの、どうやらペールは体内に物を保管出来るようだ。
つまり、ペールの存在自体がリュックなのだろう。
ペールがリュックに変身すると考えた柚希のアイディアが、一番近かったらしい。
「それって制限とかはあるのか?
量とか、大きさとか、生き物はダメとか」
「ですです。ペールよりもおっきな物は無理なのです。生き物もダメダメで、量はペールの成長しだいなのですよ。
今ですと、美雪様が背負っておられるリュック4つ分くらいなのです。ちなみに出し入れは自由自在なのですよ」
「それじゃなにか、ペールより小さくて生き物じゃなければ、4人分の物が持てる、ってことか?」
「はいなのです。リュックを買ってもらえるのなら、背中にももう1人分持てるですよ」
そう言ってペールが微笑んだ。
たしかに、前回の冒険時には、自分の体積以上の食事をその身に取り込んでいたのを全員が目撃している。
その事実を考えると、登山用リュック4つ分も嘘ではなさそうだ。
「……それって疲れないのか?」
「背中のは疲れるかもですが、体内収納は重さを感じないですよ?」
どうやらデメリットらしきものもないらしい。
思わず、おぉー、声を上げれば、少しだけ照れたような表情を浮かべながらもペールが胸を張る。
それならばと、展示スペースに広げられている大きなテントを指さした。
「あれ2つ、収納出来るか?」
「小さく折りたためばノープロブレムなのです」
なんとも頼もしいペールの言葉に、人間達が歓喜した。
彼女が居てくれる限りは、運搬の悩みから開放されたと言ってしまっても過言ではないようだ。
リュックのコーナーに用はないとばかりにその場を離れて、売り場を見て回る。
テント2つに人数分の寝袋。バーベキュー用のコンロに折りたたみ式のテーブルと椅子、美雪が気に入ったランタンやヘッドライトなど、次から次へと買い物かごの中に放り込んでいった。
「ペール。鉄とかアルミとかも行けるのか?」
「もちろん、いけますですよ」
「うっし!! なら、これとこれと、……これもいるよな!!」
持ち運びに便利な鍋やフライパン、刺身用の包丁など、これ本当に必要なのか? と思う物もあったが、軽量化を考えなくても良いのであれば、それこそ備えられば憂いなしであろう。
予算という悲しい現実もあるのだが、人数分のリュックサックを買う必要がなくなったため、それなりの金額が手元にある。
本当にペール様々だった。
必要最低限の装備とはかけ離れた豪華な装備達を両手に抱えて、ショッピングモールをあとにする。
ひと目の付かない物陰に入りってペールに渡せば、抱えるほどの荷物を一瞬にして消し去ってくれた。