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2-4話 カップの数字

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。


 その日の放課後。


 史記は、美雪と柚希、ペールの3人と一緒に、大型ショッピングモールへと遊びに来ていた。


「次はこっちだよー」


「その次はあっちのかな」


「はいなのです」


 目に付くお店を片っ端から回り、ペールに似合う服を探す。

 本来の目的は、ダンジョン探索をより快適に行うグッズの購入なのだが、そんなものよりもペールの服の方が優先だった。


 美雪の服では胸周りのサイズが合わず、柚希の服では身長が違い過ぎる。

 そのまま連れ回していては、ペールが可哀想で仕方がなかった。


「これ可愛いっ!!」


「うん、いいかも」


 2時間にも及ぶ審査の結果選ばれたのは、黒系のフリフリとしたワンピース。オーバーニーソックスと丸みを帯びた厚底の靴。


 大きなリボンの髪留めを使って、艶やかな髪がツインテール状に結い上げられていた。


 ペールの可愛らしさを面々に押し出したファッションである。

 

 ちなみに、下着専門店の店員が測定した限りではEカップという答えが導き出されたとか、もうちょっとでFだったとか、そのくらいの大きさであることが判明しているが、それはまた別の話。


「お兄ちゃん。ペールちゃんのおっぱいが大きすぎてかわいいブラがないんだけど、大人っぽい感じのブラとセットにして、パンツも大人っぽいのにしたらいいかな?

 上は大人っぽいのに、下は子供っぽいのってありあり? なしなし?」


 などと、意見を求められたものの、正しい答えが見つかるはずもなかった。

 

『下着なんて周囲に見せる物じゃ無いんだし、どっちでもいいんじゃね?』


 などと言いたかったのだが、下着専門店で真剣に選ぶ彼女達を前にして、そのような答えなど口に出せるはずもなかった。


「ペールが好きな方でいいんじゃないのか?」


 これが正解でだったのかは定かではないが、最終的にはニーソックスの柄と合せて縞々になったようだ。


「マスター。可愛くて、動きやすくて、苦しくもないのです!!」


 そんな拷問にも似た時間が終わりを告げた。

 楽しそうにくるくると回るペールを微笑ましく思いながら、本来の目的地へと向かう。


 こんなに喜んで貰えるのであれば、各店舗前に設置されたソファーに沈んでいた時間も報われると言うもの。

 ほんの少しだけ体力が回復したような錯覚を感じながら、スポーツショップの入り口をくぐった。


「んゅ!! 可愛い!!」


 入るや否や、登山グッズ売り場へと走り出した美雪が、戸棚に陳列された小型のガスボンベを持ち上げた。

 美雪の手のひらに載るサイズで、目や口のような模様が描かれたが目を引く。


 美雪の好みに合いそうな一品だった。


「その辺はあとからな。先にリュックから決めるぞ」


「あーい。……ふぁあ~!! お兄ちゃん、あのハンモック可愛い!!」


「ゆき様、行きますですよ~」


「あいあい~。……おぉ~、ペールちゃんの手、ぷにぷにで気持ちいいね!!」


「ありがとうございますです」


 どこまでも楽しそうな美雪の手をペールが引いてくれた。

 美少女2人が仲良く歩く後ろ姿は、なんとも言えない素晴らしさがあった。


 そんな光景を眺めながら、アウトドアグッズの売り場を奥へと進んでいく。


 先にも述べた通り、今回の目的はダンジョン探索をより便利にするグッズを購入すること。

 美雪の部屋に出来たダンジョンは予想以上に広く、夕方や夜まであることを考えると、お泊まり系のグッズはどうしても必要だった。

 

 鋼鉄の言葉を借りるならば、選択肢は多い方が良い、と言うことになるだろう。


 ちなみに、その提案者は『足首のねんざを治せ』と厳命されており、強制的に不参加である。


 見上げる程の戸棚を占領した大小様々な登山用リュック達を見比べながら、必死に頭を捻る。

 もし本当に泊りがけでダンジョン攻略をするのであれば、出来るだけ大きなバックが良いだろう。

 

 備えあれば憂い無し。便利なグッズはあればあるほど快適に眠れ、安全性も高まることは間違いない。

 だが、持ち運びの点から考えれば、小さくて軽いほうが良いように思う。


 沢山入って軽くて丈夫。あとは予算内に収まるように……、などとの目安はあるのだが、修学旅行を除いてしまえば、外泊の経験など片手で足りるほどしか経験のない。


 どれが優れていてどれが駄目なのかなど、わかるはずもなかった。


「お兄ちゃん、ユキはこれ!!」


 そんな言葉とともに満開の笑顔で差し出されたのは、淡いピンク色したバッグ。

 あまり悩まずに決めたところを見ると、そのデザイン性だけで選んだのだろう。


「私はこれにしようかな。

 長くても2泊3日だと思うし、必要なのはこのくらいだよね」


 柚希も青い大きめのバックを背負ってみせる。

 その場で軽く数回ジャンプした柚希は、感触を確かめるように少しだけ体をゆすり、満足そうと頷いた。


 どうやら柚希もお気に入りの一品を見つけたようだ。

 

(うぇ? まじかよ!? 服選びと同じくらいの時間をかけてもいいんだぜ!?)


 などと願うものの、彼女達が別のバックに手を伸ばすような素振りはない。

 登山用のリュックサックの前に来てから、5分すら経過していないほどの早業だった。


「お兄ちゃんはどれにするの?」


「えぇーっとだな……」


 そうこうしている間にも、嬉しそうにリュックを背負う美雪の瞳が向けられた。


 実は迷っててさー、などと言い出しても良かったのだが、2人が即座に決めてしまった手前、なかなかその言葉が切り出せない。

 かと言って、即決出来るだけの度胸も持ち合わせてはいなかった。


(やばい。どうする? そもそも何が違うんだ? ほとんど一緒じゃねぇの?)


 見ればみるほど何を選べば良いのかわからなくなる。

 そんな優柔不断な思考を続けて居れば、美雪が軽い足取りで横を通り抜けて、戸棚に収まっていた黒いバックに手を伸ばした。


「うんしょ……」


 掛け声とともにバックを引っ張り出したかと思えば、そのバックを背中にあててくる。


「これとか、お兄ちゃんに似合いそうじゃない?」


 そんな言葉とともに、美雪が、うんうん、と頷いた。

 

 背中に当てられているため、その姿を確認することは出来ないが、妹が似合うと言ってくれたバック以上に良いバックなど、この世に存在するはずもない。


「そうだな。それにするよ」


 そう言って妹に微笑みかけた。

 

 大きさ? 重さ? 持ち運び易さ? 値段?

 そんな物は、妹のおすすめを蹴ってまで考慮するような内容ではない。


 残るのは鋼鉄とペールの分。

 鋼鉄の方は、本人の足が治ってから買いに来る予定なので、実質ペールの分だけだ。


(ペールはどんなのを選ぶんだ?

 スライムなんだし、やっぱ水色っぽい感じのやつか?)


 そんな気持ちでペールの方へと視線を向けたが、彼女の瞳はリュックが置かれた戸棚を見ていなかった。


 何かが腑に落ちないとばかりに首をかしげ、困惑の色が浮かぶ淡い瞳を宙に漂わせている。


「皆様? ペールがリュックになるですから、もっと小さい物で良いと思いますですよ?」


 その唇から、そんな言葉が紡がれた。


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