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2-2話 謎の少女 2

 美雪と柚希の手によって少女が着せ替え人形にされている間に冷静になった史記は、恐怖心が一転して逆に肝が座っていた。


 感謝の言葉に嘘や偽りは一切なく、ぷよぷよでふかふかそうな胸を見せてくれた少女に、本気で感謝していたのだ。


 脳内への永久保存も撤回するつもりはなった。


 心の奥底から『目の前の少女に感謝せよ』という命令が、湧き出して来るのだ。


 だが、そんな心の叫びも、目の前で唖然とした表情を浮かべる少女に伝わるはずもなかった。


「……マスター。やっぱりこの人、変態なのです」


 少女が怒りと呆れを混ぜ合わせた視線を柚希へと投げれば、柚希が、あははー、と乾いた笑いを上げる。


「確かに史記くんは変態なんだけど、今回はペールちゃん(・・・・・・)にも落ち度があるから、史記くんだけを攻めるのはさすがに悪いと思うな」


 生ゴミを見るような目を史記に向けながらも、史記を擁護するような言葉を投げかけた。

どうやら柚希は、現状を正しく把握してくれているようだ。


「マスター……」


 柚希にやんわりと注意されたペールが、それならばと美雪の方へ熱のこもった視線を投げかけたものの、プィ、と顔をそらされてしまった。


 もしこれが胸の薄い少女なら、妹から兄へ罪を追求する声があがるのだが、残念ながら巨乳に関しては敵なのだ。


 鋼鉄に関しては、事の起こりからずっと、巻き込まないでくれ、と言いたげな雰囲気で胡座をかき、目を閉じて瞑想の世界へと入っているので、視線を投げかける事すら出来ない。


 頼れる相手が居ないわかったペールが、がっくりと肩を落とし、怨めしい目を史記へと向ける。


「うぅー、……確かに服を調達していなかったのはペールの落ち度ですが、じーっと舐めるように見る必要はないのですよ!!

 それに、永久保存はおかしいのです!! 変態は死すべし…………あれ?」


 何かに引っかかりを覚えたかのように首をかしげてみせた彼女は、考えるような仕草で視線を動かし、何かに気がついたようにハッと目を見開く。


 そして、驚きの表情で周囲を見渡した。


「なんでペールだってわかったですか!?」


おかしいです、事件です、と言いたげな雰囲気で、ペールの瞳が柚希の方へと向けられる。


 そんなペールの発言に、その場に居た全員が、すーっと視線を外した。


「「「…………」」」


 痛いような沈黙がその場に流れて、ペールの顔に焦りの色がにじみ出る。


「なんなのですか、この反応は……。

 もしかして、皆様にペールの正体がバレていたですか!?」


「「「…………」」」


 沈黙という名の肯定が場を支配していく。

 誰しもが気がついていた様子だった。


「そんな……。『ペールはペールなのですよ!!』って腰に手を当てて、ドヤ顔して、皆様が『ペールちゃん!?』と声を揃えて口にするというペールの壮大な計画が、失敗に終わったのです……」


 両手と両膝を床につけたペールが、がっくりと項垂れた。


 藍色の長い髪が床へと流れ、胸に引っ張られるようにしてスカートの裾が少しだけあがる。


 現在ペールが身につけている装備は、美雪からの借り物であり、さすがに下着は借りていなかった。

 それ故に、この姿を後ろから見られば大変なことになっていると思うが、幸いなことに彼女の後ろには壁しかない。


 さすがの史記も後ろへ回り込む勇気はなかった。


 残念ながらなかった。


「なぜ、わかったです?」


 うなだれた姿のままのペールが、視線だけを上げる。

 そんなペールに追い討ちかけるかのように、史記が口を開いた。


「いや、だって、不審者の割には堂々としてるし、柚希のことを主人(マスター)って呼んでるし、何より人見知りの美雪が普通にしてたからな」


「ごめんねペールちゃん。私も美雪ちゃんと普通にお喋り出来てたから、消去法でなんとなく……」


 どうやら元凶は美雪らしい。


 相変わらず無の世界へと旅立っている鋼鉄をスルーして、ペールの視線が美雪へと向けられた。


 そんなペールの視線を受け止めた美雪が、中指で眼鏡をクィッと持ち上げながら『ふふん』と得意気に笑う。


「ユキは鑑定さんに教えて貰ったの。

 ペルちゃん幼体は、ペルちゃん成体に進化したのだー」


 とどめの言葉に、ペールがその場に崩れ落ちた。


「…………はい。美雪様の仰ると通りで御座いますです」


 どうやらそういうことらしい。


「でも、でもですよ? ちょっとくらい驚いてくれてもいいじゃないですか!?

 スライムが人間の姿になったんですよ!?」


 たしかに、スライムが人の姿になったと聞けば、普通の人間なら驚きの声をあげることだろう。


 だが、残念ながら史記の周囲には、普通の人間とは程遠い男が1人居た。


「あー、それな。それに関しては、俺の友人のせいだな。

 毎日毎日、『ダンジョンに出会いはあったか!? スライム娘は? ポヨポヨのスライム娘はいたか!?』なんて言ってたからさ。

 一応驚きはしたんだけど、全裸のインパクトに負けるくらいしかなかった」


「勝様のせいですか!!

 うぅーーー、見せ場が……。必死にマスターの姿を観察し続けたペールの努力が……。

 皆様を驚かせようと、コソコソ抜け出したペールの頑張りは……」


 どうやら色々と頑張っていたらしい。

 ついでにペールの胸が大きい理由も発覚した。たしかに、参考文献が柚希なら、大きくもなるだろう。


 そんなペールの努力を労うように、史記が震えるその肩に、ぽんっと手を置く。

 少しだけ屈んで視線を合わせて、優しく微笑みかけた。


「大丈夫。裸には驚いたぞ。ほんと、ありがとうございます」


 渾身の笑顔である。


「……いえ、こちらこそ、驚いてくれてありがとうございましたです」


 そんな史記に対して、一応のお礼を行ったペールは、『ぺールは、帰りますです』と柚希の方へとトボトボと歩き出し、吸い込まれるように胸に光るネックレスの中へと消えていく。


「……あー、うん。私も帰るね」 


 そして、気まずそうに柚希がそう申告したことをきっかけに、その日は解散となり、ペールの進化のお披露目は終わりを告げた。


『やっぱりお兄ちゃんは、おっぱいが大きい方が……』


 などと寂しそうに自分の胸に目を向ける、1人の少女を生み出しながら。


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