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2-1話 謎の少女

 

 全員が満足そうな表情を浮かべながら刺身の余韻に浸る。


 空になった皿を台所へと引き上げた史記が、突然、意味の分からない言葉を口走った。


「……どちら様ですか?」


 目の前には、身長140センチくらいの可愛らしい女の子が立っている。


 全裸で。


 より詳しく説明するとすれば、『衣服を一切身につけていない見知らぬ少女が、腰くらいまである大きなゴミ箱に両足を突っ込んだ状態で立っていた』となるのだが、どう考えても意味不明だろう。


 この子、だれ? などとパニクる頭で考えても、答えは出ない。


 腰まで伸びた髪にパッチリと開いた目が特徴的で、美少女と言って差し支えない。

 ちらりとでも見たことがあれば、記憶の中に強く残っている自信があった。


 特に小さめな身長に似合わず巨乳と呼ぶべきその胸は、惹きつけてやまない最高級の魅力を保持しており、忘れられるような存在ではなかった。


 つまり、


『こんなに可愛いロリ巨乳、一度でも見たことあったら忘れないよな。絶対知らない子だわぁ』


 と確信出来るような美少女だったのだ。


 今現在、目の前にいる美少女の肌を守る物は、へそのしたまでの大きなゴミ箱と胸にかかる艶やかな髪だけ。


 太ももの付け根までもがうっすらと見えており、そこから上はほとんどの場所が肌色だった。


 薄っすらと見える鎖骨から突然始まる急勾配。


 悩ましい曲線を描くそれは、美しいお椀型で重力なんて感じない。どう見てもぷるぷるのモチモチであった。


 髪の毛の隙間からチラリと見えることが、より多くの魅力を引き出していた。


 ……全裸ゆえに、その素晴らしさが良くわかる。


(ごちそうさまです。ありがとうございます)


 何度も感謝の言葉を述べながらその絶景を心のアルバムに収め続けて、幸せの絶頂を噛み締める。


 その感動は、柚希の着替えに出くわしてしまったとき以来のものであった。


(あの時は許してもらうのが大変だったなぁー)


 などと、苦い思い出まで呼び起こしていると、不意に美少女と目があった。


「…………、ひゃーーーーーーー!!!!」


 呆然としていた美少女の瞳に理性が戻り、家中に甲高い叫び声がこだました。


 落とし穴に落ちるようなスピードで、全裸の巨乳少女がゴミ箱の中へと体を隠す。


 顔だけをゴミ箱の上へと出し、恨めしそうな顔を史記の方へと向けて、涙を浮かべる。

 口からは、うぅぅぅ、と可愛らしい唸り声が漏れ出ていた。


「お兄ちゃん!?」「史記くん、どうしたの!?」


 目の前には、必死に体を隠す少女が1人。

 遠くからは、駆け寄ってくる2人の足音が聞こえる。


 出口は美雪達が来る方向に1つだけ。

 ほかは小さな窓が2つあるだけで、体が通る大きさではなかった。


 シンクの下にある収納場所は、フライパンや醤油のストックで埋め尽くされている。

 天井から飛び出るように取り付けられた収納棚は、皿でいっぱいで、隠れられそうな場所はない。


 全裸少女がその身を隠しているゴミ箱であれば、入れなくもないが、そこに隠れるわけにもいかなかった。


(……あっ、これ、詰んだな)


 状況を正しく理解した史記が、今後起こるであろう出来事を予測し、赤いスライムを前にしたときよりも濃厚な死の気配を感じる。


 台所の扉が開かれ『……ふぇ?』と目を丸くした美雪の視線が、全裸少女と史記との間を行ったり来たりするのだった。

 


 それから20分後。


 白を基調としたワンピースに身を包んだ元全裸少女の前で、史記が正座をしていた。


「史記様、なにか言いたいことはあるですか?」


 そう問いかけた少女は、指先まで覆った袖を邪魔くさそうに捲り、窮屈そうな胸周りを整えたあとで、腰に手を当てて史記のことを見下ろす。


 おそらく彼女は、謝罪の言葉を要求しているのだろう。それは誰の目からも明らかだった。


 今回の件に関しては、史記に裸を見ようなどという思惑は一切なかった。

 普通に皿洗いをしようと台所へ行っただけであり、落ち度はないと思う。


 不慮の事故どころか、台所で全裸になっていた少女の方が悪いとさえ言える。

 名前も知らない少女が、台所で全裸になっているかもしれないから注意しよう、などと思う人間が居るはずがない。


 だが、『裸を見られた可憐な少女』と『見てしまった平凡な男子高校生』


 どう考えても勝ち目はなかった。


 それ故に史記は、両手を前に出し、床に頭をこすりつける。そこには恥も外聞も存在しない。


 そして――


「ありがとうございます。アルバムに永久保存させて頂きました」


 ――感謝の言葉を口にした。


 偽らざる本音である。


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