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49話 ペールの戦い

 道の上へと姿をあらわしたスライムは、ターゲットを定めたかのように、ゆっくりとしたスピードでペールの方へとその歩みを進める。


 対するペールは、まるで反復横とびでもするかのように、両サイドへと跳ねながら待ち構えていた。

 

「……ペールのやつ。俺達の方に敵が来ないように『俺はここだぞ』ってアピールしてんのか?」


「いや、ウィービングかもしれん」


「ん? ……あぁ、攻撃され難くするために動き続けるとかそういうやつだったか? なるほどね」


 男たちがそう分析する中で、ペールに近寄ってきていたスライムまでもが『……お前、なにしてんだ?』とでも言いたそうな雰囲気で、ペールの側で立ち止まった。


 見方によっては、ペールが動き続けることで、攻撃のタイミングが掴めず困惑しているようにも見えるが、ペールとスライムのどちらも言葉どころか表情をうかがい知ることも出来ないため、真相を確かめる事は出来そうもない。


 そんな中、『動くみたいだぞ』という鋼鉄の言葉を皮切りに、それまで同じところを行ったり来たりしていたペールがその軌道を変えた。


 反復横とびのスピードを維持したまま、円を描くようにスライムの周囲を回る。


 そして、スライムが前に動いた分だけペールが後ろへ下がり、後ろに下がった分だけ前に出る。一定の距離を保ちながら、ペールがスライムの周囲を回り続けた。


「へぇー、ペールって以外に素早いんだな」


「悪くない動きだ」


 そう口々に感想を漏らす男たちは、戦闘が開始した頃の緊張感を失っていた。

『ペールちゃんカッコいい!!』などと感想を口にする女性陣同様、もはや観戦モードである。


 そうして、人間達が和気あいあいと見守る中、周囲を回り続けるペールに向かって、スライムが飛び出した。


 それまでの細々とした動きを一新させ、本気でペールに飛びかかるような動き。


 対するペールは、それを察したかの様に『きゅ!!』と一声鳴いたかと思えば、それまで続けていた円運動をやめ、一瞬にして逆方向に飛びのいて見せた。


「作戦勝ちだな」


 そんな鋼鉄の言葉を裏付けるかのように、ペールの動きに翻弄されたスライムは、ペールの横を通りすぎていく。

 そして、着地に失敗でもしたかのように、こてん、ころん、ころん、と踏み固められた土の上を転がった。


「「おぉ~」」


 綺麗に決まったペールの作戦に、淡路兄妹の口から感嘆の声が漏れる。


 そんな歓声を追い風に、一瞬でスライムとの距離を詰めたペールは、勢いを保ったままスライムへとその体を追突させてみせた。


『ぱちゃん』という柔らかい物同士がぶつかったような音が鳴り響き、スライムがコロンコロンコロンと後方に跳ね飛ばされる。


「「おぉーー!!」」


 再び湧き上がる歓声。


 そして次の瞬間……何事も無かったように状態を起こしたスライムが、『なんかしたか?』とばかりにその場でぽよんぽよんと跳ねて見せた。


「……あれ? なんか、様子おかしくねぇか?」


「…………」


 そう心配ごとを口にする史記を余所に、スライムがお返しとばかりに、ペールへと体当たりする。


「ペールちゃん!!」

 

 スライムの攻撃を正面で受けたペールは、その勢いを殺しきれずに後方へと転がり『きゅ?』と疑問の声をあげた。


 そこには、ダメージを負ったような雰囲気は無く、どちらかと言えば、疑問に近い。『あれ? 反撃?? 倒せてなかった?』とでも言いたげな雰囲気である。

 

 そんなペールをさらに威嚇するかのように、スライムがひと際高く飛ぶ。


 道端に生える草よりも高く、ペールの4倍程高く飛び上がったスライムは、その高さを維持して数回弾んで見せた。


『小賢しい作戦で隙をついたつもりかも知れないが、俺様の豊満なボディの前ではお前の攻撃など、無意味なんだよ』とでも言いたげな様子である。


 そんなスライムの姿に気圧されたかのようにポンポンポンと後ろへ飛んだペールは、『きゅ~~』と何処となく情けない声を発したかと思うと、美雪の方へとその進路を変えて跳ねだした。


「あっ、逃げた」


「逃げたな」


「逃げちゃったね」


 距離を稼いで仕切り直し、と言った雰囲気では無く、誰がどう見ても単純な逃走でしかない。


 恐らくは先ほどの体当たりが、ペールの中での最大火力だったのだろう。その攻撃を無傷で防がれてしまっては、逃げる他無い。


 成長しているとは言っても、スライム退治はまだ荷が重かったようだ。


「……史記」


「っ!! おぅ」 


 鋼鉄の呼びかけに答えた史記は、一瞬にしてペールを追いかけるスライムとの距離を詰めると、躊躇うことなく鉄パイプを振り下ろす。

 どうやらペールを追いかける事に真剣に成っていたようで、たいした抵抗も見せることなく鉄パイプが突き刺さり、スライムが地面へと沈んだ。


 これで本日5匹目。

 

 初めてスライムと出会ったあの頃と比べれば、史記もまた、各段に成長しているようだ。


 結局、史記の手で切り込みを入れられたスライムは、何事も無かったかのような雰囲気を醸し出すペールのおなかの中に収まり、『立ち向かっただけでも偉かったよね?』という柚希のフォローと共に、ペールの初戦闘は終わりを告げた。


 そして、再び森の中を歩き始めた史記達は、不思議な場所へとたどり着く。


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