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42話 勇者の不満

 すべての教科でテストの返却が終わり、その結果を話のタネに、ワイワイがやがやと盛り上がる食堂の一角。


 そこでは、いつもの3人が、揃って日替わりランチを頬張っていた。


 本日のメインはデミグラスソースがかかった『オムライス』と、サクサクでジューシーな『から揚げ』のようで、はふはふ言いながらから揚げを頬張る『恋愛勇者』の隣では、史記がふわふわのオムライスに舌鼓をうっていた。


『このデミグラスソース。ケチャップとマヨネーズをベースにしてコストダウンしてんのか、さすがだなー』と常人とは異なる視点でランチの感想を呟く史記に対し、親友2人はその呟きを耳に入れつつも、マイペースに日替わりランチを楽しんでいる。


 史記がそのような独特な感想を抱くのも、最早日常茶飯事であり『いやいや、着眼点がおかしいから。お前どこ目指してんだよ?』と勝が聞いても『あぁ、いや。今度美雪のために作ってやろうかなと思ってさ』といった感じの返答しか返ってこないので、最近では2人とも、大した反応を見せなくなっていた。


 残念ながら、シスコンにつける薬など、この世には存在しないのだ。


 そんな妹思いの史記が独自の視点でランチの分析を進めていると、不意に勝の口から不満の声が飛び出した。

 

「なぁ、ちょっと思うんだけどさ。

 お前ら、全然進んで無くね?」


 あまりにも唐突なその言葉に、スプーンを咥えたままの史記が首を傾げる。


「んー? 何が?」


「いや、だからさ。美雪ちゃんの部屋に出来たダンジョンの攻略。

 全然進んでないよな?」


「あー、まぁ。進んでは無いかな」


 どうやら勝は、ダンジョン攻略が進まない現状を嘆いているようだ。


 潜っている本人たちにしてみれば、ゆったりとした風景を楽しみながらスライムを叩くだけの簡単なお仕事をしている現状に、これと言った不満は無いのだが、まわりで話を聞くだけの人間にしてみれば平凡すぎて面白味に欠けるのだろう。


 一応、『ただの鉄パイプ』や『採取のミニナイフ』などを手に入れたことで、少しばかり前進したと言えなくもないが、家が点在する場所まで行ったのはナイフをゲットしたあの時だけであり、森に至っては未だ手つかずである。


 ダンジョンが出来て数日で、潜った頻度だけならそれなりのものだが、そのほとんどが近くを散歩しただけ。


 たしかに勝の言う通り、全然進んでいなかった。


 ただし、史記にも言い分はある。


「いや、別に進まなくても良くない?」


 それが史記の本心だった。


「……は?」


 そんな思いがけない言葉に、驚きの表情を浮かべた勝だったが『当たり前だろ?』とばかりに、史記が言葉を続ける。


「いや、だってさ。俺達の目的はモンスターの反乱を抑えることだろ?

 しなきゃいけないのは、適度に間引くことなんだから、わざわざ攻略なんてしなくても良いよな?」


『あれ? なんか俺、変なこと言ってるか?』とばかりに不安そうな表情を見せる史記に対して『お前、マジかよ?』と言いたげな顔をした勝が肩をすくめた。


「いいか史記。お前は何にも分かってねぇ。

 そこに山があれば登る。そこに良い女が居れば告る。道があれば進む。そうだろ?」


「……いや、山や道はそうなのかもしれないけど、とりあえず告るってのは、どう考えてもおかしいからな?」


「……ん? ……え? あれ?」


 史記のそんな真っ当な答えに『恋愛勇者』の言葉がつまった。


 どうやらこの男、登山と手当たり次第の告白を同レベルで考えているようだ。


『そうだよな。かわいい子が居たら告白するよな』


と言った感じの答えが、当たり前のように返ってくると思っていたようで、それ以外の答えをまったく予測していなかったらしい。


 どこかの製薬会社が『恋愛勇者』に付ける薬を作ってくれることを願うばかりである。


 そんな予想外の史記の答えに、目を白黒させていた勝だったが、やがて『……そうか、史記の奴。姉貴の趣味の影響で男らしさが薄れて、心までも妹になっちまったんだな。ほんとすまねぇ。悪いのは俺の姉貴だ』と、そんな結論に至った。


 そして『まぁ、もとから史記に男らしさを求めるのは酷だからな。しょうがない、切り口を替えるかぁ』と、少しだけ哀れみの籠った視線を史記から外し、サラダを箸で食べている鋼鉄へと向けた。


「なぁ、鋼鉄。ダンジョンは攻略すべきだよな?

 お前もそう思うだろ? 思うよな? 先に進べきだよな?」 


 どうやら援護射撃が欲しいようだ。


 そんな勝の言葉に、少しだけ考える素振りを見せた鋼鉄だったが、ゆっくりとその首を縦に振る。


「……あぁ。現状の把握は必要だろう」


 鋼鉄もまた、現状を良しとはしていなかったようだ。


 根本にある理由は異なるものの『検索範囲を広げる』という結論だけを見れば、2人の意見は一致していた。

 

 そんな鋼鉄の言葉に『っしゃおらぁ!! これで2対1だぜ!!』と言わんばかりに、らんらんと輝かせた視線を史記へと向ける。


「ほら、ほら、ほらー!! な!! だよな!!

 なぁ、史記。鋼鉄もこう言ってるんだしさ。間引くだけじゃなくて、ちょっとくらい冒険してみようぜ。な?」


 机から乗り出さんばかりの勢いで、勝が史記へと迫る。


 顔がすごく近い。

 息がかかりそうな距離まで急接近である。


 そんな勝の勢いに押され、背もたれに倒れ込むようにして体を後ろへと大きく仰け反らせた史記は『んー、そっか。確かに、知らないうちに危険が迫ってる場合もあるのか』と小さく呟いたのちに『……そうだな。最低限、何があって、何が居るのかくらいは、知っておいた方がいいかもな』と自分に言い聞かせるように頭を横に振った。


 そして腕を前へと突き出し、勝を押しのけるようにして、鋼鉄の方へと体を向ける。


「鋼鉄、土曜日なんだけど、午前中からいけるか?」


「……問題ない」


「了解。ならそういうことで。

 美雪達には、俺の方から言っておくよ。

 そんじゃ、土曜日。よろしくな」


「あぁ、任されよう」


 そういうことになった。



『なんか、妹の部屋にダンジョンが出来たんですが』が


アーススターノベル様より、書籍化して頂けることになりました。


読んでくれている皆様のおかげです。本当にありがとうございます。


ちなみに、出版詐欺ではございません。

アーススターノベル様のホームページにも乗っちゃってます

(刊行予定の一番下です)


アーススターノベル

http://www.es-novel.jp/


全力で頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。


(評価やブックマークも頂けると嬉しいです)


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