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39話 美雪の機嫌

 勝司弁護士との焼肉ディナーから2日後。


 少しだけ傾き始めた太陽の光が差し込む美雪の部屋に、淡路兄妹と”律姉”の姿があった。


「そっかー、お姉さんが手配した免許書は役にたってくれたんだ。よかったよかった」


「ソウダネ。アリガトウ、リツネェ」 


 律姉に貰った免許書の効力に助けられたことは事実なのだが、素直な感謝は出来そうもない史記である。

どうやら3日経過した現在でも、割り切ることは出来ていないようだ。


 なんとも女々しい男だ。

 

 そんな色々な意味で女々しい兄の隣では、頬をぷくーっと膨らませた美雪が、不機嫌そうな視線を律姉に向けていた。


「律お姉ちゃんがダンジョン関連の仕事をしてるなんて、ユキ、聞いてないよー?

 全然、ひとことも、これっぽっちも聞いてないよ?」


 そんな言葉と共に、不満そうなその瞳をさらに厳しい物にさせていた。


 幼い頃から親友だった勝と史記の影響で、律姉と美雪も幼少のころから仲が良かった。


 史記ですら妹にしたがる律姉なのだ。美雪のことを本当の妹のように可愛がらない理由は無い。


 美雪の方も、頼りになる律姉のことを本当の姉のようにしたっていた。

『ゆずちゃんと律お姉ちゃんと、どっちの方が好き?』と聞かれて返答に困るくらいには、律姉にべったりだった。


 そんな姉であり親友である律お姉ちゃんに隠し事をされていたと知った美雪は、戸惑い半分、寂しさ半分で困惑しているようだ。


「律お姉ちゃんなんて、しらない!!」


 頬をさらに膨らませた美雪が、ぷいっと律姉から顔をそらす。いかにも『ユキは拗ねてるんだから!!』と言った感じだ。


 律姉としても、その気持ちは理解していた。


 隠しごとは、する方もされる方も心に影が出来るもの。


 だからか、どことなく寂しそうな美雪の視線を受け止めた律姉が、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべて、悲しそうな瞳を美雪の方へと向ける。 


「ごめんね、ゆきちゃん。

 守秘義務ってやつでね。家族にも言っちゃダメだったの」


『お姉さんのこと、許してくれないかなー』そういって、自分に対して背中を向ける美雪の頭をやさしくなぜた。


 ちなみに、恋愛勇者が彼女の情報を知っていたのは、独自のハッキング技術で抜き取ったせいであり、律姉が教えた訳ではない。


 美雪はそんな律姉に対して『うぅぅぅ』と唸りながらも、自分に向かって伸ばされたその手を払いのけることは無かった。


 律姉がなんの理由も無く隠し事はしない。どうしようも無かった事だと理解もしていた。


 だけど、寂しい思いをしたこともまた事実である。


 そんな複雑な心境をのせた視線を発し続ける美雪に対し、一度撫でていた手を放した律姉は『あ、そういえばお菓子買って来たんだった』と、わざとらしく言い切った。


 そして、美雪の元を離れ、持ってきたバックの中をごそごそと探り始める。


 そんな律姉の行動に『ふゅ? お菓子!?』と目を輝かせた美雪だったが、ハッとしたような表情を一瞬だけ作り、すっと目を逸らしたあとで、不機嫌そうな表情を取り戻す。


「ユキは、お菓子で釣られるような軽い女じゃないんだよ」


 そういって再び、ぷぃ、っと顔を背けた。そして『あたしはもう大人の女なの』と追撃する。


 そんな美雪の態度に臆することなく『じゃじゃーん』と効果音を口にした律姉は、綺麗にラッピングされたA4サイズの箱を取り出した。


 そして、必殺の一撃を見舞う。


「はいこれ。裏市さんとこの新作。美雪ちゃん、ずっと食べ――」


「裏市スペシャル!??」


 律姉の言葉を途中で遮った美雪は、キラっと輝いた瞳を律姉の手元に向け、シュタッっと音がしそうなほどのスピードで近づくと、ガシっと両手でその箱をつかんだ。


「律お姉ちゃん!! あけていい?? いいいよね? いいよね?」


 そんな美雪の行動に若干気おされながらも『……え、ええ。もちろん』と律姉が答えた瞬間、その手の中からシュパッっと箱が消えうせた。 


 裏市菓子店のスペシャル苺大福 ~ 季節のクリーム入り ~ 


 自家栽培でその日の朝に取れた大粒の苺を使ったそれは、平日の午前10時から1日5箱限定で販売されるもので、美雪はずっと食べたいとおもっていたのだが、昼間はずっと学校で授業を受けている美雪では買うタイミングが無かった。


 それゆえに、半ば諦めかけていた物だった。


 そんな和菓子を前に、美雪のテンションが上がり続ける。


「お兄ちゃんお兄ちゃん。ほら、限定の苺大福だよ!! スペシャルなんだよ!!

 お兄ちゃんも一個たべる? えへへー、あげなーい。ユキが全部食べちゃうもん」


 キラキラとした瞳でイチゴ大福を両手に1つずつ持った美雪は『いただきまーす』と宣言した後で、嬉しそうな笑顔で頬張りだした。


「んふぅーーーー!! おぃふぃぃぃーーーーー」


 頬に白い粉を付けながら、美雪が幸せそうな笑顔をこぼす。

 

 そんな美雪のことを楽しそうに見つめた律姉がタイミングを見計らい、幸せな時間を邪魔しないように、優しく声をかけた。


「隠し事しちゃってごめんね。お姉ちゃんのこと、許してくれるかな?」


「んふぅ? んー、んー、……ふはぁ。いいのいいの。大丈夫。

 しゅひぎむは大変だーって、ユキもレディだから知ってるもん。そんなことで怒ったりしないよ。はーむ」


「ん。ありがとね」


 優しく微笑んだ律姉が、美雪の髪を優しくなでた。


 どうやら姉妹の仲は今後も安泰のようだ。そう感じた史記は、若干美雪の今後が心配になったものの『まぁ、かわいいから良いか』と結論付けて、静かに美雪の部屋を後にした。



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