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35話 取り調べ

 教室を経由して職員室へと向かった史記は『すぐに応接室に行って』と担任に言われ、ノックの後に応接室のドアを開いた。


「失礼します。……勝司さん??」


 学校に似合わない豪華なソファーに腰掛けて居たのは、学年主任の先生と勝司弁護士。


「やぁ、数日ぶりだけど、元気そうだね」


「あ、はい。元気にしてますよ」


 朗らかに微笑む勝司弁護士に対して、学年主任の方は明らかなお怒りに包まれていた。


「淡路史記くん。とりあえず、そこに座りなさい」


 そういって指示された場所は、学年主任と勝司弁護士が座る椅子の対面になる場所にあった小さな椅子。


 学年主任の態度といい、座る配置といい、見た目としては、企業の面接や警察の取り調べのような雰囲気だ。


「…………失礼します」


 なぜ、勝司弁護士が学校に居るのか。

 なぜ、このような雰囲気の中に呼ばれたのか。


 いろいろ思うところはあったものの、とりあえずは学年主任の指示に従う他ない。


(保護者を呼び出して、学年主任との三者面談とか、何の冗談だよ、ほんと……。ってか、もうちょっと愛想良くても罰は当たらないと思うんだけどなぁ。はぁ……、めんどくさい……)


 そんな不満を感じるものの、うかつな言葉を口に出せる雰囲気では無い。


 史記が席についても勝司弁護士は、史記の方を微笑みながら見ているだけで動く気配はなかった。


 どうやら、事の成り行きを見守るつもりのようだ。


 ゆえに、嫌な沈黙が流れるその空気を学年主任が推し進める。


「史記くん。……なぜ、呼び出されたか、心当たりはあるかね?」


 もったいぶるような独特な間合いで、ゆっくりと攻め立てるような視線を史記へと向ける。


「……いえ、ありません」


 嘘だった。心当たりなら思いっきりある。

 つい先ほどまで、その心当たりについてワイワイ盛り上がっていたところだ。


 だが、明らかにお怒りモードの学年主任にそう聞かれれば、知らぬ存ぜぬと答えるしか無い。


 無論、それは、学年主任も承知のこと。

 問題児や不良などと言った生徒を長年教えて来た学年主任は、史記の返答に大したリアクションもせず、あらかじめ答えがわかっていたかのように話を進める。


「君は友人に対して『自分はダンジョンに行っている』と話しているそうじゃないか?

 そのことに間違いは無いね?」


「…………はい。間違いありません」


 特別隠していた訳では無いので、いずれは学校側に知られることになることは予想していたものの、史記の予想よりずっと早く、ことが大きくなっていたようだ。


「確認のために、保護者である弁護士の先生に確認をとったところ、自宅にダンジョンが出来たそうじゃないか。

 つまり、虚言では無く、本当に行っている。そういうことだね?」


「……はい」


 どうやら、完全にバレているらしい。


「念のために聞くが、免許を持たない者がダンジョン入ってはいけないと知っているね?」


「……はい。社会の授業で学びました」


「その通り。私の担当教科だ。覚えていてくれてうれしいよ」


 そう言葉を発するものの、嬉しそうな素振りは一切無い。

 私は怒ってます、と言った雰囲気をそのままに、学年主任が言葉を続ける。


「それで? いけないことだと分かっていたにも関わらず、ダンジョンに入った。……なぜだね?」


「……【家事手伝い】と【社会を知るため】です」


「そんな言い訳が通用するとでも思っているのかい?」


「…………」


 国に報告してないダンジョンなら『知りませんでしたー』で許してもらえるのは、法律重視で動いている機関だけであり、怒れる先生を説得する材料には成りえない。


 それならばと、バイトの許可を貰う際の定番で押してみたが、結果は火に油を注いだだけだった。


『本音を言うしかないか……』そう決心した史記は、美雪のわがままも含めた事情を出来るだけ綺麗にまとめる。


「あの家は、両親が残してくれた物です。私がこの手で守らなければいけないんです」


「フン、そんなものに現を抜かしているくらいなら、勉強したら良い。その方が、両親も喜んでくれると思うよ」


 本当の想いを伝えてみたものの、取り付く島もなかった。むしろ『お前に親父達の何がわかる!!』と怒鳴りたくなっただけだ。


「君がダンジョンに入ることは許されない。今後、このようなことがあれば、停学などの処置もあり得る。

 君がしていることは犯罪だ。そのことを理解しなさい」


 言葉を続ける度に、怒りのボルテージが上がり続ける。


 どうやらこの場は話し合いでは無く、一方的な通告の場のようだ。


『このまま話してても無駄だな』そう感じた史記は『……わかりました』と小さく呟いた後に、席を立つ。


「これで良いですか?」


 そう言って、徐にポケットから名刺サイズのプラスチックカード取り出して、学年主任に見えるように置いた。


「……なっ!!」


「…………」


 そのカードを目にした学年主任はおろか、横でずっとことの成り行きを見守っていた勝司弁護士も、その顔に驚きの表情を浮かぶ。


「冒険者登録のカードです。これでよろしいですよね?」


 勝ち誇ったような顔を学年主任に向けた。


「……どうやってこれを?」


「ちゃんと実力を示して、国から認可を貰って来たんです。

 本物かどうか怪しいなら、国に問い合わせて貰ってもいいですよ?」


「……わかった。事実確認の後に、もう一度話し合いの場を設ける。

 いまはもう授業が始まっている時間だ。教室に行きなさい。担当の先生には、私から事情説明してある」


「わかりました。それでは、失礼します」


 カードを学年主任に預け、勝ち誇った笑顔で応接室を後にするのだった。


「あっ、史記くん。今日の夜は焼肉に行くから、美雪ちゃんと一緒に準備して待っててくれるかい?」


 そう言葉を投げかける勝司弁護士に了承の意思を伝えながら。 



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