表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/151

30話 広い背中

 来た道を戻りながらスライムの捜索をすること数分。


 天に昇る階段まで残り半分くらいの地点で『え?……きゃっ!!』という声と共に、柚希がその足をとめた。


「ゆずちゃん!?」


「どうした!?」


 何事かと大慌てで後ろを振り返った淡路兄妹だったが、悲鳴を上げた当の本人は少しだけ頬を赤く染めて恥ずかしそうにするだけで、そこに焦った様子は見られない。  


「なんか驚かせちゃったみたいでごめんね。

 ペールちゃんが服の中に入っちゃって……」

 

 柚希の言葉通り、彼女の胸の上にペールの姿は無く、その大きな胸の谷間から、にゅるん、とプルプルボディが顔を覗かせていた。


 普通にしていても強い存在感を放つ柚希の胸が、内側から押されることでさらなる攻撃力を持ち、誘蛾灯のように史記の視線を吸い寄せる。

 一番高い部分で止められているボタンは、ぎりぎり引っかかっているだけといった感じで、今にもはじけ飛びそうな雰囲気なのだが、それが余計に誘惑的な雰囲気を醸し出していた。


『なんだペールかよ。敵モンスターだったらどうしようかと……。ってか、そこに入るなんて……、ペール、勇者だな!!』などと、ペールとその周辺をガン見して鼻の下を伸ばす史記だったが、数秒後には、状況がさらに悪化することになる。


「やんっ……ちょっと、……んっ……」


 ペールがにゅるにゅると動き、おおきな胸がぷるぷる揺れ、柚希の口からくすぐったそうな声が漏れる。

 その見た目は、スライムに襲われる美少女と言うべき雰囲気なのだが、ペールも柚希もじゃれ合っているだけで、命の危機などでは無い。


 だが、その破壊力はかなりのものだ。少なくとも、史記はその魅力に抗えそうにない。


「……ぉ、ぉぉ」


 思わず口をついて出た感動のうめき声に、妹の鋭い視線が飛んだ。


「お兄ちゃん、やらしい……」


「あっ、いや……。そんなことは……」


 慌てて否定の言葉を口にしようとした史記だったが、その神秘的な光景が彼の目を惹きつけて放そうとしない。

 

 今にも零れ落ちそうなぷるぷる祭り。抗える男子高校生など居るはずもなかった。


「史記くん……、みないで欲しいなぁ……」


 だが、本人の口からそう断られてしまっては、見続けるわけにもいかない。


『任せろ、俺がペールを取り出してやるよ!!』


 そんな言葉を泣く泣く心の中に仕舞いこんだ史記は、後ろ髪ひかれるおもいで、その神秘的な光景に背を向ける。


 彼が先ほど目にした物を心のアルバムに保存したことは言うまでもないのだが……。


 そんな男心丸出しの史記が自分から背を向けたことを見届けた柚希は、胸の谷間にすっぽりと収まったペールに向けて、若干涙目になった視線を落とした。

 そして、ペールを服の上から優しく包み込むように手を当てる。


「そこに入っちゃだめだよ?

 ほーら、出ておいでー、いい子だから」 


 ビルの隙間に入っていった子猫をあやすような声でペールへと声を投げかけた柚希だったが、その言葉を無視するかのように、ペールはさらに奥へと潜って行く。


「きゃっ、……もぉー、あんまり動いちゃだめなんだからね?」


 一応、注意らしきものが柚希の口から発せられるが、当の柚希は、心ここにあらず、といった感じで、首を傾げる。


 さっきまでは胸の上でおとなしくしていたのに突然活発に動き出したペールに対して『急にどうしたんだろう』そう不思議がる柚希だったが、ほどなくして、一つの回答にたどり着いた。


 そもそも、ペールをネックレスから出ていてもらったのは、なんのためか。


「……なにかに、怯えてる? っ!!」 


 弾かれたようにペールから視線を外した柚希が、若干険しさを交えた視線を周囲に向ける。

 そこにあったのは、土と生い茂る草達。


「ゆずちゃん、どうしたの?」


「……なにか、いる」


「んゅ?」


 柚希が指さしたのは、膝下にまで伸びた草がうっそうと生い茂る一角。


 その一部が不自然に揺れていた。


「…………」


『何か居る。この子が怯える相手が、そこに居る』そう感じた柚希の足は、無意識に後ずさっていた。   


 ダンジョンにはモンスターが居て、危険な場所。

 そもそも、その危険なモンスターを倒すためにここにきている。


 脳では理解している。親友である美雪の手伝いに来たことを後悔などしていない。


 だが、脳内の考えに反して足だけが1歩、また1歩と、恐怖から柚希の体を遠ざけていった。


 狩るためにここへ来たのだから少しばかり状況が違うのかもしれないが、柚希にとっては登山中に熊と遭遇してしまったかのような心境だ。

 足がすくんでしまうのも無理は無い。


 むしろ、後ずさることが出来るだけでも優秀だろう。


 そんな柚希の肩に手を置き『あとは俺の役目だよな?』そう言って、史記が揺れる草と柚希の間にその身を割り込ませた。


「あっ…………」


 柚希の視界を埋めるのは、幅の広い男らしい背中。


『…………やっぱり史記くんって男の子なんだね』


 そんな当たり前な感情を胸に抱きながら、ぼやーっとした表情で柚希がその背中を眺めている間に、草の間から飛び出してきたペールに似た透明な生物は、史記が放つ枝の一撃により地面に沈み込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
なぁ、これダンジョン要るん? 30話で倒したのスライム1匹やぞwwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ