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23話 隠蔽工作

 とりあえず『面倒な話は食事をしながらにするか』と問題を先送りした3人は、ダンジョンの入口を横目に、大量に盛り付けられた鳥のから揚げと炊き立ての白いご飯、ワカメと豆腐の味噌汁を前に席に着いた。


『いただきまーす』と嬉しそうにザンギ風をくちいっぱいに頬張った美雪に続き、柚希もフライドチキン風を口に運ぶ。

 先ほどまでのスライムに怯えた様子は幾分か和らぎ、柚希の顔にコスモスのような優しい笑顔が咲いた。


「うん。さすがは史記くんかな。すごく美味しい。

 ほんと、女子のプライド、粉々だよ」


「料理だけが取柄のお兄ちゃんだからねー」


 褒めているのか貶しているのかはわからないが、2人とも我先にとから揚げへ箸を伸ばして笑いあってるため、美味しいと思っていることに偽りは無い様だ。


 ちなみに料理の腕は、柚希がレシピを見れば人並み程度に作れるほどで、美雪は、産まれてこの方、包丁どころか電子レンジに触ったことすらない。


 そんな美雪曰く『お兄ちゃんの唯一の取柄を奪っちゃったら、お兄ちゃんには何にも残らなくなるから、ユキは料理しないであげる。えへへー、えらいでしょー』とのこと。

 なんとも、兄思いな妹である。


 なにはともあれ、から揚げに関しては高評価なようだ。

 

『ほんと、2人とも良い顔して食べるようなー。作った甲斐があるよ』と、憎まれ口を感謝の念で弾き返した史記が、から揚げに箸をのばしたところで『そろそろ、質問してもいいかな?』と、柚希が切り出した。


 それまでの和気あいあいとした雰囲気が一変し、淡路兄妹の動きが停止する。


 そんな2人を無視するかのように、柚希が良い笑顔を浮かべながら話を進めた。


「えぇーっと、まず最初の確認。

 あそこに見えているのは、ダンジョンの入口だよね?」


 柚希の白くて細い指先が、石造りの階段を指示す。


「「…………」」


 反論する余地も無く、無言で答えた兄妹に対し、柚希がにっこりと微笑む。だがそこには、から揚げを頬張っていたころの優しさは感じられなかった。


 どうやら、追及の手を緩める気は無いようだ。


「さっきの緑色のゼリーみたいな子は、スライムだよね?」


「「…………」」


 その現場をはっきりと確認されている以上、反論の余地も無いのだが、たとえ些細な抵抗だとしても、兄妹は無言を貫いた。

『日頃から勉強面だけでなく、いろいろと便宜を図ってもらっている間柄だけに、これ以上頼りたくない、迷惑はかけたくない』そんな思いが兄妹を無言にさせていた。


 だが、そんな兄妹の思惑も、次の一言で掻き消えることになる。


「それからね。なんでダンジョンに蓋してあったの?

 物で塞いだら、すぐにモンスターが出てきちゃうよ? さっきのスライムもそれが原因でしょ?」


「ふゅ!?」


「……まじでか」


 衝撃の事実に、妹は目を丸くし、兄が天井を仰いだ。


 どうやら、バレた原因は隠蔽工作にあったらしい。


 しかし、だからと言って、隠蔽しなければ、すぐにでもバレていただろう。『どうしようもなかった。自分達は無駄なことを頑張っていた』そういうことのようだ。


 それから10分後。

 淡路兄妹と柚希の前には、1つの木箱があった。


 うえにパカっと開きそうなそれを前に、柚希が嬉しそうにほほ笑む。


「史記くんは『木の枝』で、美雪ちゃんが『鑑定の眼鏡』

 私は神様から何を貰えるのかな?」


 まるで子猫でも相手にしているのかと錯覚するような笑顔で、美雪が宝箱を撫でていた。


 結論から言えば、淡路兄弟の隠蔽作戦は失敗に終わった。


 隠し通すことも出来ず、『入ってみたい』と言い出した柚希を説得することも出来ず、『私1人でも良いから、入っていいかな?』と、強硬姿勢に出た彼女をとめることも出来なかった。


 まぁ、ダンジョンの入口が発見された時点で失敗してたとも言えなくは無いが、こうして柚希をダンジョンに招き入れる結果になっているのだから、誰がどう見ても失敗だろう。


「それじゃぁ、開くよ?」


「はーい」


「どうぞ」


 淡路兄妹の予想通り『私もダンジョンの管理、手伝うね』と言い出した当初こそ、拒否する姿勢を強めていた2人だったが、度重なる説得に失敗し『仲間はずれとか、してほしくないな。私の事、嫌いだった?』と言われてしまって以降は、むしろ有り難い仲間を得たと思うようにシフトしていた。


 そんな2人が見守る前で、瞳を宝石のように輝かせた柚希が、焦らすようにゆっくりと宝箱の蓋を開く。


「…………たまご、かな?」 


 そこにあったのは、青い縞々模様の丸い物体。しずく型のそれは、確かに卵のように見えた。

 恐る恐る手を伸ばし、持ってみた感覚もニワトリのそれと酷似する。


「あれ? もうひとつある。

 ……こっちは、ネックレスだよね?」


 宝箱の中を覗き込んだ柚希が、真っ白な指先でひょいっと細いチェーンを拾い上げた。

 その先端には、淡いピンクの石が揺れている。


 どうやら柚希の初期装備は、『手のひらサイズの卵型の物体』と『ピンク色のネックレス』のようだ。


「ふたつ、だと……」


 見るからに『ただの木の棒』よりも優秀そうな装備を2つも手に入れた柚希に対し、史記ががっくりとその肩を落とした。


 卵型のそれが何なのかはわからないが、ネックレスの方は、普通に良い物に見える。

 そもそも、『木の棒』と『卵とネックレス』のどちらを欲しいかと言われれば、どう考えても後者だろう。


「んー、使い方がわかんないね。特に卵の方」


 そんな事を呟いた柚希に対し、項垂れていた史記が『一緒に入ってる紙に説明書いてあるぞ』と伝えたものの、宝箱の中から紙が見つかることは無かった。


「……どうする? ネックレスは身に着けたらいいんだろうけど、問題は卵だよな?

 持ってるだけでいいのか、正しい使い方があるのか。現状じゃ、まったくわかんねぇよな……」


「んー、割ったら何か出てくるのかもしれないけど、取り返しがつかなくなるよね?

 とりあえず、1日様子を見てみよっか」


「そうだな。ネットで調べれば何かわかるかも知れないし。

 とりあえず今日は解散だな」


 なぜか3人とも美雪の眼鏡の存在に思い当たることは無く、そんな結論となった。これは単純に眼鏡の存在に慣れていなかったせいである。

 そもそも、ダンジョンに入るというのに、美雪は自身の装備を部屋に置いてきている。

 

 存在を忘れ去られた哀れな眼鏡さんは、美雪の枕もとでおとなしく主の帰りを待ち続けるのだった。



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