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17話 初めての痛み

 後ろに倒れこんだ史記は、無意識のうちにわき腹を抑えていた。

 あまりの衝撃に脳がパニックを起こしていて、状況がうまく飲み込めない。


『自分は何をされたのだろう?』


『何故、倒れているのだろう?』


 そんな思いが史記の脳内を占拠する。


「ぅぐ!!」


 全身に力を入れて起き上がろうとすれば、右のわき腹に痛みを感じた。


 だがそれは、起き上がれない程の痛みでは無い。


 服が血で濡れている訳でも無ければ、骨折の気配も無い。

 あるとすれば打撲程度のものだろう。


「お兄ちゃん!!」


 史記の目に、血の気が引いた顔で駆け寄ってくる、妹の姿が映った。


 兎にも角にも、美雪は無事のようだ。


 ほ、っと安堵の息を吐き出し、起き上がることを拒否するかのようなわき腹の痛みに耐えながら、ゆっくりと上半身を起こした史記は、状況を把握するために周囲に目を向ける。


「なっ!!」


 手を伸ばせば届くほどの至近距離に、スライムが居た。


『さっき倒したはずだろ!?』


 そんな思いを胸に、スライムが倒れていた場所に目を向ければ、そこには相変わらず水たまり状態のスライムの姿があった。


 もちろん、目の前にスライムがいる状況も変わらない。


 倒したスライムに気を取られて、背後から忍び寄る別のスライムに気が付かなかったようだ。


 痛みを訴える脇腹の不調も、このスライムのせいなのだろう。


(次の攻撃が来る前にやらなければ!!)


 座ったままの状態で横に転がっていた木の枝を掴むと、そのままスライム目掛けて薙ぎ払った。

 

 ブンと言う音と共に、枝がスライムへと向かう。

 

 だが、その枝が何かに当たることは無かった。


 軌道が分かっていたかのようにタイミング良く飛び上がったスライムが、迫りくる枝を飛び越る。


 クソッ、と悪態をついた史記が、力任せに木の棒の軌道を変えて、再びスライムへ向ける。


 だが、叩きつけるように振り下ろしたその攻撃さえも、ジャンプで避けられてしまった。


 それどころか、勢い余った木の棒が固い地面に触れ、パキっという音と共に折れ曲がる。


 まるで勝ち誇るかのように、折れた枝の上にスライムが着地した。


 史記の手元に残ったのは、折れて短くなった木の棒のみ。


 攻撃する手段を失い、防御の手段はもとから存在しない。

 座っている状態なので、とっさに避けることも叶わなかった。



『やられる!!』

 

 そう感じた刹那、


「お兄ちゃんをいじめるなーーーーー!!」


 美雪がスライムの前方へと、その身を躍らせた。


 普段の美雪からは想像も出来ない程のスピードでスライムに迫り、勢いそのままに右足を大きく蹴りあげる。


 ぽにゃん、といった音を響かせて、スライムが高々と宙を舞った。


 そして綺麗な放物線を描いて飛んで行く。

 ポヨン、ポヨンと弾むように坂を転がった後に、遠くに見えていた崖の下へ落ちていった。


「お兄ちゃん、大丈夫!?」


 自分が蹴りあげたボールの行方など興味がないとでも言うように、美雪が兄の元へと駆け寄る。


 そして抱きつくように、右のわき腹をぺたぺたと触った。


「……あ、あぁ、大丈夫。ドッジボールでアウトになったくらいの痛みでしかないよ。

 それよりも助かった。さすが美雪だな」

 

 優しく感謝の言葉を伝えると共に、兄が妹の頭を撫でる。


「心配かけたな」


「ほんとだよ。心臓、止まっちゃうかと思ったんだからね」


「ごめんごめん。けど、大丈夫だっただろ? まぁ、美雪のおかげだけどさ」


「うぅーー」


 半ば押し倒されているようにも見える体制で、史記はどうにか美雪の機嫌を取り続ける。


 そんな微笑ましい兄妹のスキンシップを図っていると、次第に日が傾き、辺りがうっすらと夕暮れの様相を呈してきた。


 どうやらダンジョン内にも、昼や夜があるようだ。


「うっし、もうそろそろ帰るか。

 夕飯はカレーで良いよな?」


「うん」


 ジャガイモは茹でたやつが冷蔵庫にストックされているし、玉ねぎもスライスしたものが冷凍保存されている。

 

 ごはんさえ炊けば、残りは炒めるだけの簡単なお仕事だ。


 炊き上がりと同時に、おいしい夕飯の完成となるだろう。


 美雪様の一声がなければ。

 

「ユキはシーフードがいい!!」


「…………冷蔵庫に魚介系ってあったか?

 豚小間が残ってるから、ポークじゃだめか?」


「えー、ユキはシーフードカレーがいいの!!

 エビとイカが入ったやつ!!」


「…………あいよ」


 突入から約1時間30分。


(刺身に出来るってことは、スライム入りのカレーもアリだよな? ジャンルはシーフードだよな?)


 などと、無駄な事を考えながら、史記達は初めてのダンジョンを後にするのだった。




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