3-45話 魔石拾い
鉄が、月明かりに彩られた墓場を進んでいく。
初めて訪れた時と同じように、燃え残ったロウソクがひとりでに火を点し、彼の周囲を怪しげに照らしていた。
そうしてゆっくりと前に進んでいれば、やがて大きな青い炎が見えてくる。
「…………」
腰を落として、1歩、また1歩と慎重に歩みを進めれば、青い炎の意識らしきものが鋼鉄へと向いた。
表情と共に緊張をまとい、鋼鉄がドッシリと重心を落とす。
そんな鋼鉄の元へと飛来した青い炎が、息を吸い込むかのように、その体を膨張させて見せた。
「ふっ!!」
青い炎の中心から火の手が吹き出し、目を覆いたくなるほどの光と熱を周囲にまき散らす。
そんな炎を正面から浴びながらも、鋼鉄は必死の形相で大盾を握りしめていた。
――刹那、青い光が大盾の表面を覆い、鋼鉄の体も包み込んでいく。
険しかった鋼鉄の表情が和らぎ、吹き付けていた火柱が、青い炎へと跳ね返された。
「史記」
「あいよ!!」
ホッとした空気が漂う中で、後方に構えていた史記が鋼鉄の隣へと飛び出した。
握りしめていた銀色に輝く剣を大きく掲げて、燃え盛る炎へと切りかかる。
「はぁぁーー!!」
気合いの声と共に剣を振るえば、巻き起こる風に押されて青い炎の姿が消えていった。
「はっ、はっ、はっ…………。やっぱいい!! やっぱ、剣だよな!! 枝とは違う!!」
両手から伝わる確かな手応えを胸に、史記が心の声を叫びに変える。
鋼鉄の盾に続いて史記の枝までもが、魔石の恩恵を受けて剣と呼べる状態にまで進化していた。
どうやら風を起こす追加能力まで備わっているらしく、その切れ味に自然と胸が躍る。
「ふふっ、ふふふふ……」
足元に落ちた魔石を拾い上げながらも、史記の脳内は切り裂いた感触で満ち足りていた。
「……お兄ちゃん。気持ち悪い……」
「なっ!?」
あまりの浮かれ具合に、美雪からそんな言葉が出るほどだった。
大きく目を開いて柚希に視線を向けるも、苦笑を返されるばかり。
ペールや香奈に関しても同様な反応を見せている。
そんな中で史記がペールに向けて魔石を放れば、2本ある短剣の中に宝石のようなそれが消えていった。
「すごく軽くなったですよ。スーパー進化なのです!!」
光に包まれた後の短剣を両手に構えたペールが、踊るように具合を確かめる。
見た目に大きな変化はないものの、性能は良くなっているらしい。
ここに来るまでの道中に弓が強化された香奈も、心なしか表情が冴え渡っているように見えた。
そんな中で不服そうに頬を膨らませる少女が一人。
「むぅー……。ユキも強くなりたいのにぃ……」
唇をとがらせながら、美雪が一人でうなっていた。
魔法が使える本はもとより、柚希用になった眼鏡を生み出してからは、美雪用の眼鏡までもが魔石を受け付けなくなっていた。
バカなクラスメート曰く、強化の限界に達したか、魔石のレベルが足りないか、どっちかだろ。とのこと。
理由はどうあれ、ひとりだけ仲間はずれになっているようで、それが不満らしい。
そんな美雪の髪を撫でてなだめながら、柚希が史記へと視線を向けた。
「ん~っと、それでどうかな? 大きなホオズキは切れそう??」
腰に抱きつく美雪をそのままに問いかければ、史記が表情を曇らせて頬をかく。
「あー、うん、まぁ、……たぶん、ダメだと思う」
愛用の剣に視線を落としながら、史記が苦笑いを浮かべて見せた。
魔石のおかげで切れ味は向上し、心躍るものにはなった。
だが、明確な根拠はないものの、巨大なホオズキが見せた青いバリアには遠く及ばない気がする。
そんな思いで史記がペールへと視線を向けたものの、ペールもただ首を横に振るばかり。
「ダメダメなのですよ。あのバリアには弾かれる気がするです」
どうやらペールも同じらしい。
巨大なホオズキから産み落とされた青い炎は、先ほどの1体が最後。
逃げるときに落としてきた魔石も、そのほとんどを見つけ出してそれぞれの武器に吸い込ませていた。
「やっぱ、美雪の魔法に賭けるしかないか……」
墓場の奥には巨大なホオズキが史記たちが来るのを待っているかのように、ぼんやりと淡い光を放っていた。
ホオズキの奥には祭壇があり、美雪の持つ魔道書を進化させる魔石があると思う。
どんな魔法を得られるかわからないものの、それぞれの戦力が向上した今なら、ホオズキを倒せはしなくとも逃げ帰れるだけの力はあると思えた。
「はいはーい。がんばっちゃうよー」
美雪の通る声が墓場に響く。
気負いのないその声に、誰しもが肩をすくめて笑ってみせる。
「それじゃみんな、無理はしないこと。危なそうならすぐに逃げる。いいかな??」
「あいよ」「あぁ」「はーい」「ラジャなのです」「イエッサー」
まとまりのない声を返して、史記たちは再び巨大なホオズキのもとへと足を進めた。