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3-44話 なぞの光

 驚きに視線を向ければ、美雪が真面目な顔で微笑んで見せる。


「頑張れるのか??」


「うん!! 次は勝つからね!!」


 霧に包まれた森につぶらな瞳を向けて、美雪がぷっくりと頬を膨らませた。


 美雪の横顔を見る限り、怒っているというよりは、難しいゲームがクリア出来なくてむくれているようにも見える。


 少なくとも、命の危機さえ感じた青い炎との鬼ごっこに疲弊した様子は見られない。


 その瞳はただまっすぐに、あの巨大なほおずきを見詰めているように見えた。


 予想以上にダンジョン攻略の決意が強いのか、それとも別の何かが美雪の中に芽生えたのか。

 理由はどうあれ、他に行く道がないのも事実。


「……あいつを倒さなきゃ、先に進めないもんな」


 これまでの経験から考えると、あのほおずきの向こうに祭壇があり、そこにある大きな魔石を入手すれば4階への扉が開くのだろう。


 どうあっても、あの大きなほおずきを避けて通ることは出来ない。


(妹のやる気を支えてやるのが、兄の使命だよな)


 そう心が決まった。


 頬を膨らませる美雪の髪をポンポンとなでながら、柚希へと視線を向ける。


「ってことで、もう一度挑戦したいんだけど、どう思う??」


「ん~、そうだね。私も美雪ちゃんに賛成かな。負けっぱなしは悔しいもんね」


「はいなのです!!」


 柚希もペールも気合い充分と言った様子で微笑んでくれる。

 香奈と鋼鉄もハッキリとうなずいてくれた。


(あんな大変な思いをしたのに、みんな元気だねぇ……。ってまぁ、俺もおんなじ感じだけどさ……)


 みんなと一緒に戦って、強敵を倒して次に進む。

 自分が徐々に強くなっていることを実感出来る。


 炎に追いかけられて死にそうな思いをしたのも事実だが、このまま逃げ続けたいとは思わなかった。


「そんじゃ、どーするかだけど。……どーする?? 相手は動かないし、遠距離攻撃なら普通に当てれるから、やっぱ問題はあのバリアか??」


「うん、そうだと思う。美雪ちゃんの魔法も、香奈ちゃんの弓も防がれちゃったしね。残る攻撃は、史記くんの木の枝と、ペールちゃんの短剣なんだけど、近付くのは危ないから……」


「だよな。唯一の救いは鋼鉄の盾が炎を防げることか。一瞬で溶かされたら終わってたな」


 冗談交じりに苦笑したものの、1歩間違えれば大惨事になっていただろう。


 おびただしい数の圧力と、迫り来る熱量。

 無事に逃げることが出来て本当に良かったと思う。


 その時の状況を思い出しているのか、鋼鉄が苦い顔で大盾に手をはわせていた。


「長時間は耐えられないがな。5匹以上は到底無理だろう」


「だよな……」


 遠目に見ても、大盾の表面は黒くすす汚れており、ところどころ溶けて変形しているような部分も見受けられる。


 このまま挑むのは不可能だと思えた。


「……1度帰宅して、良い方法を考えてみるか。時間をかけるとダンジョンが成長するって話だから急ぎたいところだけど。無謀なことは出来ないしな」


「そうだね。ちょっと休憩しよっか」


「…………わかった。がまんする……」


 不服そうに唇をとがらせながらも、美雪も同意の言葉を発してくれた。


 もう一度、ほおずきがいた方角に視線を向けて、史記が、ふぅ、とため息を吐き出す。


(倒す手段、ねぇ……)


 あのバリアを破れるような強力な攻撃手段は必要不可欠。

 おびただしい数で攻め来る炎に対しても、何かしらの対策が欲しい。


(……律姉に相談してみるか)


 もしくは麻衣先輩に……。


 輝く瞳でカメラを向けられる未来が安易に予想出来るが、美雪のためなら仕方がない。そして、自分のためでもある。


 そんなことを呆然と思い浮かべていると、不意に不自然な光が視界の端に映り込んだ。


「……ん??」


 霧の中に身を乗り出して目をこらせば、地面近くに小さな光が集まっているように見える。


「なんだあれ??」


「どうしたの? お兄ちゃん??」


「あ、いや……」


 美雪の問いかけに生返事を返しながら近付けば、地面の上に転がる魔石の姿が見えてきた。


 周囲の光を反射して、キラキラと特有の輝きを放っている。


 なぜ、ここに魔石が??


 一瞬だけそんな思いが脳内を過ぎったものの、次いで答えが脳内に浮かび上がってくる。


 青い炎から必死に逃げる最中、少しでも数を減らせればと、香奈と美雪が攻撃を行った結果だった。


「あのときに何体か倒してたもんな」


 ほんと、逃げれてよかったよ。

 そう口の中でつぶやきながら、史記が魔石に手を伸ばす。


「鋼鉄。これ1個で直るか??」


 そんな言葉と共に少しだけ大きな魔石を背後に投げ渡せば、霧の中を舞った魔石が鋼鉄の大きな手の中に収まった。


 その輝きを見詰めて、鋼鉄がコクリとうなずいて見せる。


「おそらくな……」


 そう小さなつぶやきを返しながらコンコンと盾にぶつければ、魔石が光になって吸い込まれていった。


――瞬間、鋼鉄の手元が青い光に包まれる。


「なっ!?」


 驚きに声を上げる史記を尻目に、光が強さを増していった。


 それはこれまでに何度か見た光景。


「強化されるのか?」


 史記の口から漏れた言葉を肯定するかのように、光の中から姿の変わった大盾が姿を見せた。


 まず目を引くのは、周囲をまとう青い輝き。

 大きさや形に変化はないものの、そのまわりを淡い光が包み込んでいた。


「…………」


 表情を引き締めた鋼鉄が、ゆっくりと盾を掲げる。

 いつものように大盾が大きさを変えて鋼鉄の体を覆えば、青い光がすこしだけ濃くなったように見えた。


「……史記」


「あいよ」


 盾越しの鋼鉄の言葉に、史記が木の枝を振りかぶる。


 パン、という乾いた音が周囲に響き、木の枝がはじき返された。


 手のひらを介して伝わってきた感覚を確かめるように、史記が手元を確かめる。


「多分だけど、バリアを張れるようになったんじゃないか? 鋼鉄の動きとは関係なく、枝が押し返された」


 ほおずきがまとっていたバリアと同じものか、それとも別のものなのか。


 どちらにせよ、鋼鉄の防御力が格段に引き上げられたのは間違いない。


 その青い光を眺めながら、史記がゴクリとつばを飲む。


「……様子を見ながら、残りも拾いに行くか?」


「さんせー!! どんどん強化しよー!!」


 明るい声をあげる美雪の言葉に、誰しもが笑みを見せながら自分の武器を握り直した。


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