表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/151

3-43話 いつもの光景に


 淡い光をまとう巨大なほおずきに注意を向けていれば、じわりと光が増していく。


「来るぞ!!」


 思わず叫んだ史記の声に呼応するかのようにほおずきの先が割れ、中から青い火の玉が飛び出した。


 1個、2個と青い炎がその数を増やせば、怪しげな輝きが周囲を照らし出す。


「美雪ちゃんと香奈ちゃんで先制して!!」


 柚希が慌てて指示を出せば、真っ赤な炎と黄金の矢がほおずきに向けて飛んでいった。


 そんな2人の攻撃が、見えない壁に阻まれるかのようにほおずきの前で停止する。


「え……??」


 真っ赤な炎が消え、黄金の矢が力なく地面へと落ちていった。


「鋼鉄くん!!」


「あぁ」


 飛来する青い炎たちを前に、鋼鉄が大盾をかざす。

 その背後に史記とペールが隠れるように並べば、青い炎の動きが格段に遅くなった。


(なんだ?? 遅く?? どうしたらいい!?)


 盾から飛び出して攻め込むべきか、このまま敵の動きをうかがうべきか、はたまた逃げるのか。


 まとまらない考えに史記が振り回されている間にも、青い炎は増え続けていた。


(おいおい、ちょっとまずくねぇか!?)


 次第に増えていく炎に焦りがにじむも、次の行動に答えが出ない。


(逃げるか?? いや、でも攻めるって決めたしな……)


 なんとも優柔不断な心に振り回されながら、愛用の木の枝を握り絞めた。


 そこでふとした違和感が史記の中に浮かんでくる。


(熱くない?? ってか、あれ、たぶん炎じゃないよな!?)


 鋼鉄の背中越しに見える青い炎は、その数のわりに熱を一切感じない。

 うまく説明出来ないが、いままで倒してきたスライムやガイコツたちと同じような雰囲気に見えた。


「香奈!! 炎を撃てるか!?」


「にゃ!? 炎?? ラジャー!!」


 振り返りながら大声を上げれば、香奈が素直に弓を引き絞ってくれる。

 彼女の手から離れた矢が史記たちを避けるかのように大きな曲線を描き、鋼鉄に迫る青い炎に突き刺さった。


 一瞬だけ強い光が放たれ、しだれ柳のように青い炎が地表へと落ちていく。


「……消えた??」


 次第にその光が弱まり、ゆっくりと消えていった。


 見いだした突破の糸口に、史記が声を張り上げる。


「ペール、行けるか!?」


「任せるのですよ!!」


 鋼鉄の横を通り抜けて、木の枝を切りつける。


 伝わってくるのは、確かな手応え。


 青い炎に見える部分に枝の先が触れれば、青い炎がピンポン球のように飛んでいった。 


「ぅっし!! やれる!!」


「はいなのです!! 悪い炎は消えるのですっ!!」


 視界の端ではペールが踊るようにナイフを振り回し、彼女の周囲が少しだけ暗くなった。


「やっ!!」


「おー、ユキユキ、やるねーー。カナカナも頑張るぞー!!」


 背後から遠距離組の攻撃が届き、青い炎が少しずつではあるが、その数を減らしていく。


(行けるな!! このまま、ほおずきに突っ込むか!?)


 そう思いながら前を向けば、また新たな炎が迫っていた。


 最奥では、次々と青い炎が生まれている。


(っち!! キリがないぞ!?)


 そんな思いで木の枝を構えなおせば、背後から鋼鉄の声が飛来する。


「下がれ!!」


 焦りを含んだ声に、史記が慌ててバックステップを踏めば、入れ替わるようにして鋼鉄の大きな体が視界を覆った。


 その巨体を覆い隠すようにかざされた大盾に、色鮮やかな青い炎が吹き付ける。


「っ!!」


 肌を焼くような熱量に史記が息を飲めば、鋼鉄が顔を険しくさせる。

 視界の端では、火の玉から吹き出した火柱をペールが必死に回避していた。


「鋼鉄、耐えれるのか!?」


「あぁ、今のところはな」


 焦りを強める鋼鉄の声に目をこらせば、火を吐く炎の後ろに新たな炎が迫っていた。

 

 半円を描いて炎が並び、、1匹、また1匹とその数を増やしていく。


 大盾がその熱に耐えられなくなるの時間の問題だった。


「柚希、逃げるぞっ!!」


「そっ、そうだね!! 香奈ちゃんと美雪ちゃんは、鋼鉄くんの前に攻撃を集中させて!! 隙を見て一気に後退するよ!!」


 焦る柚希の声に、美雪が真っ赤な炎の玉を周囲に浮かべていく。


 ポツポツと数を増やしていき、美雪の周囲が真っ赤に彩られた。


「えーい!!」


 そんなかけ声とともに手を振り下ろせば、30個近い炎が湾曲しながら飛んでいく。


「やぁっ!!」


 香奈も負けじと、腰よりも太い光の矢を放った。


 2人の攻撃が混じり合うように鋼鉄の前方に突き刺さり、爆発にも似た光を放つ。


 一瞬の後に、鋼鉄の前から火の手が消えた。


「逃げるぞ!!」


「はいなのです!!」


 大盾を構える鋼鉄をしんがりに、史記とペールが青い炎に背を向けた。

 後先など考えずに、すべての力を注いで走り出す。


「追いつかれるぞ!!」


「しつこい!!」


 時には崩れ落ちそうな墓石を飛び越えて、来た道を戻っていった。




「はぁっ、はっ、はっ……、もーむり……」


 周囲が夜から霧に変わり、ふらつくように美雪がしゃがみ込む。


「っ、……はっ、……、……」


 柚希や香奈も疲労困憊といった感じで、可愛い顔を苦痛でゆがませていた。


 チラリと後ろの様子をうかがえば、青い炎の姿はない。


「だいじょうぶ、みたい、だな……」


「あぁ。とりあえずは、まいたようだ」


 鋼鉄の言葉を皮切りに、誰しもが息を切らせて地面へと倒れ込んだ。


 青い炎が追いかけてくるような気配は感じない。


 霧の中には入れないのか、はたまた諦めたのか。

 その真相は定かではないが、史記たちにとっては感謝の念しかなかった。


 そうしてたたぼんやりと霧の漂う宙を見つめていると、不意に美雪が近寄ってくる。


「お兄ちゃん。あのおばけ、どうやってやっつける??」


「え??」


 思いがけない言葉に振り返れば、疲れた表情を浮かべた美雪が微笑んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ