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3-41話  ランクアップ


 廃校でガイコツと戦闘を繰り広げた翌日のこと。


 昼休みの食堂に、日替わりランチを頬張りながら目をこする史記の姿があった。


「はぁ……」


 目はうつろで、くっきりとしたくまが見える。

 口から漏れるため息さえ、どことなく疲れが混じっていた。


 そんな史記の正面に座った勝が、見かねて声をかける。


「どうしたよ? お前が眠そうだなんて珍しいな。なんだ? フェルメヌンちゃんの抱き枕カバー抽選会に張り付きだったのか?? ダメだぜー、金出せば買えるんだから、しっかりとお布施をしないと」


 どこかバカにしたような雰囲気を醸し出す勝に向けて、史記が肩をすくめる。


 ため息を吐き出して、首を横に振った。


「なんだよ、抱き枕って。律姉に頼まれた仕事してたんだよ」


 ふわぁー……、と大きなあくびをかみ殺した史記が、お茶碗に手を伸ばす。

 疲れを取るように肩を回して、白いごはんに箸を付けた。


「深夜の仕事でさぁ、帰ってきたのが夜中だったんだよね」


「そういえば、昨日は姉貴のテンションがおかしかったな。なるほど。うちの姉貴が無茶を言ったようで悪かった」


「いや、愚痴とかじゃないよ。ただの寝不足なだけ。それに、ほれ。ランクもアップしてもらったしな」


 財布の中から1枚のカードを取り出して、勝の前に置く。

 <冒険免許証>と書かれた文字の隣に、大きくCランクと書き込まれていた。


 そっと手に取った勝が、手の中でもてあそびながら不思議そうに文字を眺める。


「Cランクねぇ……。そんで?? 何が変わったんだ??」


「協力店の割引サービスと、オークションに参加出来る権利だってさ。それとは別に、お金ももらったしな」


「へー、割引とオークションねぇ。とりあえずはタダ働きじゃなかったみたいで、良かったよ」


 心底ホッとしたような表情を浮かべた勝が、「頭良いくせにバカだからなぁ、姉貴は」などとつぶやいて、遠くを眺めた。


 オークションは売る側も買う側も参加可能で、月に1度のペースで冒険者関連のものが売りに出される。


 割引の方はなぜか飲食店が多く、会計から5%引きが主流らしい。

 こちらは完全におまけだろう。


「律姉にはお世話になってるから報酬はなくても良かったんだけどさ。部長がどうしても、って言うからもらっといた」


「高校生にタダ働きさせるのも世間体が悪いしな。よかったんじゃねぇか??」


「だな」


 寝不足特有のだるさを感じながら、史記が重たげに頭を振る。


 鮭の塩焼きをひとくち食べて、隣に座る鋼鉄へと視線を向けた。


「それでな。そろそろ3階を攻略してしまおうと思うんだよ。どう思う??」


 何気なく話しかけて見れば、鋼鉄の目が一瞬だけ大きく開いた。


 驚く鋼鉄を余所に、史記が言葉を続ける。


「調べてないのって、T字路の左側だけだろ? 行っても良いと思うんだよね」


 地蔵の体内にあった魔石を使ったおかげで、装備は格段に強くなっている。

 多少の無茶は許容の範囲内だと思った。


 そんな史記の意見に、鋼鉄が眉を寄せる。


「悪い案ではないな。理由は??」


「いや、それがさぁ。冒険者の先輩に聞いたんだけど、ダンジョンって時間と共に強くなるらしいんだわ。1階でひなたぼっこしてた時間が長かったし、結構面倒なことになってる可能性が高いんだってさ」


 年数を重ねたダンジョンは間引きをし続けて維持することしか出来ないが、出来立てのものであれば、浅い階層で消滅させることが出来るらしい。


 人間の滞在時間も少なからず影響するんだとか。


『消したいのなら急いだ方がいいかもね』


 麻衣先輩にそうアドバイスされていた。


 鋼鉄の瞳をまっすぐに見据えた史記が、視線をそらさずに言葉を紡ぐ。


「出来そうなら頑張る。無理そうなら諦める。そんな作戦にしようと思うんだよ」


「なるほどな」


 漠然とした作戦だが、目標もなく動いていたこれまでよりは良いと思う。


 そんな史記の宣言に、鋼鉄が首を縦に振る。


「わかった。最善を尽くそう」


「よろしく。柚希たちの方にはそれとなく言ってあるからさ。放課後集合な」


 そういうことになった。


 これで話しは終了。と思いきや、鋼鉄の目が鋭さを増した。


「期末テストの準備は出来ているのか?」


「あ、や、うん。……ぼちぼちかな」


 ドキリと心臓が跳ね、思わず視線をそらした。


 真横から鋼鉄のため息が聞こえる。


「攻略の合間に進めよう。柚希も力になってくれるはずだ」


「……はい。よろしくお願いします」


 1学期も残りあとわずか。

 夏の足音がすぐそこまで迫っていた。


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