3-40話 敵の殲滅
香奈が必死に駆け込み、次いで九尾が部屋の中に入った。
最後に残った麻衣先輩が、ドアの前で蹴りを放つ。
「はぁっ!!」
気合いの声と共に足の裏がガイコツに当たり、ガイコツの上半身がぐらついた。
手をバタつかせて倒れるガイコツに巻き込まれて、後続が次々と折り重なっていく。
「お姉さん、ちょっと退いてー」
ダメ押しとばかりに香奈が光の矢を打ち込み、九尾が火の玉を放り込んだ。
「先輩!!」
声をかけて先輩を引き寄せる。
麻衣先輩が駆け込むと同時に、全力でドアを閉めた。
タイミングとしては、間一髪と言ったところ。
「くっ……」
ドアを押さえる腕に、強い振動が伝わってくる。
ガシャガシャと、骨のぶつかる音が周囲を包んだ。
(ヤバいな……)
3人と1匹でドアを押さえるも、音や振動は増すばかり。
ガチャン、ガチャンと悲鳴にも似た音が聞こえる。
ドアが壊れるのも、時間の問題だと思った。
(どうにかしないと)
そんな思いで部屋の中を見詰める史記の目に映ったのは、大きなガスボンベ。
その先につながる大きなコンロを目に、史記がハッと顔をあげる。
(汚物は消毒!!)
そんな言葉が史記の脳内を駆け巡った。
「少しだけお願いします」
ドアを押さえる仲間たちに声をかけて、ガスボンベに駆け寄る。
壁につながれていた鎖を外して、1メートル近いボンベを器用に転がしていく。
「先輩、この辺で切れませんか??」
「え? あ、うん。行けるよ??」
「すぱっと、切っちゃってください」
「あいよ~」
ドアの正面にボンベを置き、先輩にコンロの根元を切ってもらった。
ホースの先を持ちあげて、九尾に視線を送る。
「火の玉を正面に浮かべれたりします??」
「造作もない。……これで良いか?」
「はい、ありがとうございます」
漂う火の玉目掛けて、ホースの先を構えた。
「離れて!!」
仲間たちに声をかけながら、バルブを開く。
ホースの先から出たガスが漂う炎に引火し、周囲がにわかに明るくなった。
徐々にバルブを開いていけば、かなりの熱量が漏れて来る。
「汚物は消毒だ――――!!」
気が付けば、叫んでいた。
扉が開き、ひしめいていたガイコツたちに火が届く。
1匹、2匹と列をなしていたガイコツが、瞬く間に消えていった。
恐れを知らないのか、ホースを構えているだけでガイコツたちが次々と炎の中に飛び込んで来る。
我先に、我先にと、ガイコツたちが消えて行った。
「…………おわった??」
時間にして10分くらいだろうか。
押し寄せていたガイコツたちが、史記の視界から消えた。
未だに火を放ち続けるホースを片手に、顔だけを外に出して廊下を眺める。
ゴォー、という火の音が邪魔で気配を探ることは叶わないが、少なくとも見える範囲にガイコツはいなかった。
「ふぅ……」
元栓を閉めて、ほっと息を吐く。
固唾を飲んで見守っていた仲間たちの空気も、少しだけ和らいだ気がした。
そんな中、九尾がピンと耳を立ってて、窓の外に目を向ける。
「奴ら、巣に帰るようだぞ?」
慌てて視線を向ければ、月明かりの中を数体のガイコツが歩いていた。
向かう先は、校舎の裏手だろうか。
誰もが同じ方向を向いて歩みを進めているように見える。
「行くか」
尻尾を開いた九尾が、雄々しく立ち上がった。
ふらふらと尻尾を揺らしながら教室を出て行く九尾を3人で追いかける。
玄関を出て、グランドを横切り、校舎の裏手に回った。
「ここか……」
建物の間に隠れるようにして、コンクリートの地面に大きな穴が空いている。
念のために周囲を見渡すが、どこにも骨の姿はない。
おそらくは、この穴の中に入ったのだろう。
ダンジョンだと思う穴をのぞき込んだ九尾が、フンと鼻を鳴らした。
「数が減ったから、帰ったんだろう」
そういうことらしい。
不気味に口を開ける穴を見詰めて、ゴクリとつばを飲む。
きっとこの中には、あのガイコツたちがひしめいているだろう。
正直な話、入りたいとは思わない。
そしてなにより、依頼された内容は、おばけ騒動の原因を探ること。
「麻衣先輩。これで依頼達成ってことで良いですよね??」
「え? あ、うん。そうね。ダンジョンがありましたー、って報告したら、もっと強い人たちが解決してくれると思うよ」
念のために麻衣先輩に確認すれば、予想通りの答えが返ってきた。
ホッと息を吐き出した史記が、香奈の方へと視線を向ける。
「香奈たちは?? 入るの??」
「うにゃ、入らないよ?? ボクたちの方は邪気払い。ダンジョン内は別料金でーす」
「魔封じは疲れるからの。正直割りに合わん」
詳しくはわからないが、香奈たちの方もこれで終了らしい。
全員が顔を見合わせて、やり遂げた表情を浮かべた。
「それじゃぁ、帰りましょうか」
「はーい」
元気に手を上げる香奈に微笑みを返す。
こうして律姉からの面倒な依頼が、無事に終わった。