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3-39話 敵の姿

「我が巫女よ。弓を」


「うぃうぃ~」


 真っ暗な廃校の廊下に、九尾と香奈の声が響く。


 恐怖で息をのむ麻衣先輩を尻目に、香奈が袋の中から弓を引っ張り出した。


「やぁっ!!」


 犬のような骨を見据えて、香奈が光の矢を解き放つ。

 闇を切り裂くように飛んだ矢が、骨の犬に突き刺さった。


 そんな犬の姿に、史記がハッと息を飲む。


「消えた!?」


 気が付けば、初めからいなかったかのように、犬の骨が消えていた。


 そんな史記のつぶやきに呼応するかのように、九尾がフン、と鼻を鳴らす。


「やはり魔より生まれしものであったか……」


「え?」


 なにそれ、と問いかけるよりも先に、九尾が地面を蹴った。


 一瞬にしてガイコツの懐に飛び込んだ九尾が、細い首を目掛けて牙をむく。


 骨の砕ける音が周囲に響き、頭蓋骨だけが床へと落ちた。


「少々厄介だな……」


 骨が消え去った空間をにらみ付けた九尾が、ふぅー……、と大きくため息を吐く。


 そんな九尾の姿を見詰めていた史記の隣で、麻衣先輩が静かに動き出した。


「…………」


 音もなく九尾の横をすり抜けて、腰に刺さった2本のナイフを引き抜く。

 暗闇の中から現れたガイコツ目掛けて、麻衣先輩がナイフを振るった。


 膝が切れ、手首が切れ、肘が切れる。


 ガシャリと音を立てて廊下に倒れ込んだガイコツの首に、麻衣先輩のナイフが刺し込まれた。


「……そうだよね。おばけなんているわけないよね!!」


 手応えを確かめるように手のひらを見詰めた麻衣先輩が、力強くうなずいく。


「天使ちゃんの言う通り、モンスターでした!!」


 振り向いた麻衣先輩が、恥ずかしそうに笑った。


 廃校を歩き回る骸骨など、おばけ以外のなにものでもない気もするが、どうやらモンスターらしい。

 九尾の言葉を借りるならば、魔から生まれしもの。魔物だろうか。


 モンスターと言えばダンジョン。魔物と言えばダンジョン。


(やっぱり近くにダンジョンが……、ッ!!)


 そんなことを考えていると、不意に背後から嫌な気配がした。


「ぅぉぅ!!」


 振り返った先に見えたのは、真っ白い歯と空洞の目。

 目と鼻の先にガイコツがいた。


「くっ!!」


 反射的に、木の枝を振るう。


 先端がガイコツの頬に当たり、ビリビリとした手応えが手に伝わった。


 だがそれは、枝の方がミシリと音を立てただけ。

 ガイコツに怯んだ様子はない。


「ちょっ!! 固くね!?」


 思わず叫び声を上げれば、勝ち誇ったようにガイコツが右手を掲げた。


 殴られる!! 


 そんな思いでバックステップを踏んだ史記の横をヒュン、と言う風の音が通り過ぎる。


 次いでガイコツの右肩に光の矢が刺さり、右手が崩れ落ちた。


「はぁぁぁっ!!」


 一瞬で気持ちを立て直した史記が、愛用の木の枝を両手で握り絞めて大きく踏み込む。

 野球のスイングでもするように枝を振り回せば、むき出しの肋骨に当たった。


 ビリビリとした手応えを感じながら力の限り振り抜けば、ガイコツの体が宙に浮く。


 そのまま後ろへと勢い良く飛んでいったガイコツの体が壁にぶつかり、うなだれるようにガクリと首を落とした。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 肩で大きく息をする史記の目に映るのは、2階から下りてくるガイコツの姿。


 慌てて振り返れば、麻衣先輩が新たなガイコツ目掛けてナイフを振るっていた。


「囲まれた!?」


 史記がそう叫んでいる間にも、ガイコツは徐々にその数を増やしているように見える。


 前に6体。後ろに4体。


 迫り来る圧力に、背筋にヒヤリとして汗が流れ出した。

 そんな背後の異変に気が付いたのか、先を進んでいた九尾がチラリと後ろを振り向く。


「4人では厳しいか」


 その言葉が的確に状況を現しているように思えた。


 倒せない敵ではないが、見える範囲だけでもすでに10体はいる。


 前方では九尾と麻衣先輩が代わる代わる仕留めているものの、順番待ちでもしているかのようにガイコツが闇の中から出て来ていた。


 階段を下りるガイコツたちは、1歩1歩確かめるように下っているためにその歩みは遅いものの、いずれは1階に到達する。

 そうなれば面倒なことになる。


(はさみ撃ちはまずい!! どこかに逃げないと!!)


 そんな思いで走り出した史記が、1番近くにあった部屋の中をのぞき込んだ。


 暗闇の中に動くものはいない。

 現状より悪くなることはないだろう。


 そんな思いで、部屋の中へと飛び込む。


(敵は……、いないな)


 暗闇の中にあったのは、独特な雰囲気を醸し出す縦長の机。

 その上にはカセット式のガスコンロが置かれていた。


 黒板の前には、炊き出しにでも使いそうな大型のコンロまである。


(家庭科室か??)


 ほんの少しだけ様子が違っているものの、元々は家庭科室だったように思う。


 何はともあれ、敵はいないようだ。


「みんな、こっちに!!」


 扉を全開まで開きながら、史記が仲間たちに声をかける。


 ほんの少しだけ目を離した間に、ガイコツの数は20体ほどにまで増えていた。



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