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14話 新たな武器

「おぉー」


「すごーーーい!!」


 眼下に広がる光景に、2人が息をのむ。


 澄み渡るような青い空に、うっすらと流れる白い雲。


 視界一杯に広がる草原には青々と茂った木々が生えており、遠くには切り立った山々が雄大に聳え立っていた。


 真夏の避暑地。


 そんな言葉が思い浮かぶ光景が、2人の前に広がっている。


「見てみてー、見たこと無いお花がいっぱい咲いてるよー」


「ここで寝たら、気持ち良い夢が見れるんだろうな」


 両手を伸ばして、胸一杯に空気を吸い込んだ。


 少しだけ思い出してみよう。


 高校生の兄妹は、妹の部屋に出来たダンジョンに入り、1階の階段を下りていたはずである。

 ゆえにここは、ダンジョンの1階のはずだ。


 決して『真夏のアルプス』や『夏休みの軽井沢』へ遊びに来た訳ではない。

 だが、今の2人にはダンジョンに入った当初の緊張など、欠片たりとも持ち合わせていなかった。


 特に美雪に関しては、きゃっきゃと笑い、目をらんらんと輝かせて踊るように飛び回っていた。

 その口からは1970年代に放送された国民的アニメの主題歌が流れ出る。


 そんな可愛らしい歌声に惹かれるように、史記も心穏やかに草の上へと寝転がり、草原を駆けあがる爽やかな風を全身で感じる。


 胸いっぱいに吸い込んだ空気は、すがすがしい草の香りがした。


「平和だねぇ。……後ろを見なければ」


「もぉー、ほんとお兄ちゃんってば、お兄ちゃんなんだからー。

 どーして、そういうこと言っちゃうかなー」


 無邪気な2人の後ろ側。

 そこには、周囲の雰囲気には不釣り合いな、無機質な石の階段があった。


 爽やかな空にぽっかりと大きな穴が開き、その穴に向かって石の階段が伸びている。


 開いた穴から虹色の光でも差し込んでいれば、天使でも降りてきそうな雰囲気なのだが、現在は虹色どころか普通の光すら差していない。

 真っ暗な大きな穴が、石の階段をのみ込んでいるようにも見える。


 それゆえに、『神秘的』と言うより『怪しい』と表現した方がニュアンス的にはあっていた。


 草原に突如出現した天へと上る怪しい階段。それは、2人が降りてきた階段だった。


 美雪が装備する眼鏡曰く、ここはダンジョンの1階で間違いないらしい。


 空や雲は魔力が籠った天井が見せる幻影であり、遠くに見える山々はダンジョンの壁とのこと。


 つまり、2人が心穏やかに楽しんでいる風景は、ダンジョンが作り出した偽物ということだ。


 ちなみに『雄大な景色を前に、偽物とか、本物とか、そんなちっぽけな疑問を覚えるなんて、お兄ちゃんはロマンが足りないないの‼ ダメダメだよ‼』とのこと。


 魔法的なロマンはダメで、アルプス的なロマンは推奨される。女心とは難しい物なのだ。


「……ん?」


 そんな雰囲気の良さに避暑地気分を味わっていた2人だったが、不意に史記が1本の木を見つめて歩き出した。


 そして、力強く枝を伸ばすその木の前で、その歩みをとめる。


「美雪。ちょっとこっちに来てくれるか?」


「うゅ? いいけど、どうしたの?」


「いや、ちょっとした実験をしょうかと思ってさ」


 不思議そうな表情をする美雪をしり目に、史記が手の届く範囲に生えていた枝に手を伸ばす。

 そして少しだけ手に力を入れると、パキっという音とともに枝が折れて1本の枝がその手の中に納まった。


「……うん、これで大丈夫だろう」


 その枝を妹へと差し出す。


「なぁ、美雪。

 これを鑑定してもらえないか?」


「ふゅ? ……っ!!

 …………うん」


 どうやら美雪も史記が確かめたい事柄を察したようだ。


 恐る恐る眼鏡越しに枝を見た美雪は、すーっと視線を逸らすと、言い難くそうに下を向く。


「…………ただの木の枝。……ランク1」


「…………ですよねー」


 宝箱から見つけた、由緒正しき勇者の武器。

 そんな伝説の武器をまたしても見つけたようだ。


 はぁ、と小さくため息をついた史記は、知りたい情報は得られたとばかりに短い方を木の根元へと投げ捨てる。


 放り出された木の枝は、コロコロと牧草が生える地面を転がって史記のもとを離れて行った。


「…………はぁ」


 無意識のうちに、小さなため息ばかりが、史記の喉を震わせる。

 そんな兄の行動を妹が心配そうに見つめていた。


「お兄ちゃん……」


「うん? どうした?」


「……うんうん。なんでもない。

 長閑な良い風景だね」


「……そうだな」


 明らかに落ち込んだ様子の史記だったが、それを指摘したところで得をする者など居ない。


 つらい現実を忘れるように、2人は避暑気分へと戻って行くのであった。



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