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<1巻発売記念SS> 美雪と一緒に、お家の探索  

タイトル通り、書籍1巻の発売日記念です。

 陽気な日差しが照りつけるある日のこと。


 学校帰りにダンジョンの入り口をくぐった淡路兄妹は、久しぶりにダンジョンの1階へと足を踏み入れていた。


 穏やかな草原を進み、たどり着いたのは民家らしき建物の前。


 胸の前で腕を組んだ美雪が、コテリと首をかしげてその家の風貌を眺める。

 う~ん、とうなった後で、小さく首を縦に振った。


「お兄ちゃん、ここにしよっか!!」


 晴れやかな笑みを浮かべた美雪が、堂々と胸を張る。

 そんな美雪の要請を受けた史記が、大きくうなずきを返した。


「そうだな。そうするか」


 木の枝を握り締めた史記が、1歩だけ前へと進み出る。

 敵の気配を探って周囲を見渡しながら、ゆっくりとドアノブに手を伸ばした。


 本日の目的は、1階で見つけた家の探索である。


『たまには1階でのんびりしようよ、お兄ちゃん。

 探索してないお家いっぱいあるし、お宝探ししたい!!』


 そういうことになっていた。


 ほかのメンバーは都合が合わずに2人きりということもあり、こうして散歩にも似たダンジョン探索を楽しんでいる最中である。


 周囲に敵の気配はしない。


 もし仮に現れたとしても、1階のモンスターならば問題にならないだろう。

 あの時は苦労して倒した空飛ぶ赤いスライムも、今の2人なら対処できる、そんな自信が史記の中にあった。


(いたとしても、普通のスライムだろ)


 そんな軽い気持ちでドアノブを開けた史記の目に飛び込んで来たのは、本の山。


 壁と天井しかない家の中央に、何百冊という本が山のように積み上げられていた。


「本だな」


「うん。本だね」


 不思議そうに顔を見合わせてうなずき合う。


 崩れそうにない場所を必死に見定めて、山の中から一冊を引き抜いた。


 背表紙にはダンジョンでよく目にする文字らしきものが描かれいる。

 中の紙にも同じような文字が並んでいた。


 残念ながら、1文字たりとも読むことはかなわない。


 さて、どうするか。


 腕を組み、本の山を眺めていると、不意に美雪が動いた。


「お兄ちゃん。あれ、英語じゃない??」


「ん??」


 美雪が指さす先をのぞき込むと、そこには確かに英語のような文字が躍っていた。


 ただ残念ながら、英語は1番の苦手科目である。


「どうする?? ほかの家を探してみるか?」


「ん~~」


 英語の本は見なかったことにして、山の周囲をぐるぐると回る。


(これが金銀財宝の山だったらなー)


 そんなことを思いながら、ぼーっと背表紙たちを眺めて居ると、不意に真っ白な本が目にとまった。


 背表紙、表紙ともに、真っ白。


「なんだこれ??」


「ん? 何かあったー??」


「いや、この本なんだけどさ」


 興味を向けてくる美雪に渡すために、史記が本に手を伸ばした。


――その瞬間、真っ白な本が光り輝き、一瞬にしてその色を変える。


「……は??」


「ユキと、ゆずちゃん!?」


 光が消えた本の表紙には、美雪と柚希が並んで描かれていた。


 駆られるようにページをめくれば、史記と鋼鉄の姿もある。


「なにこれ??」


「……俺たちの本?」


 首をかしげながら数ページだけ読み進める。


 どうやら美雪の部屋にダンジョンが出来てからの出来事が、小説のようなスタイルで書かれているようだった。


 少しだけ忘れていることもあるが、書かれている内容は確かに自分達が歩んできた道だ。


 そうして謎の本に首をかしげていると、瞳を輝かせた美雪が身を乗り出す。


「すごーい‼ イラスト、きれい!!!!」


 視線の先に描かれているのは、1枚の挿絵。

 美雪の部屋に出来たダンジョンを初めて見つけた日の風景だった。


「おもしろーい!! 貸して!!」


 言うや否や、美雪の真っ白な手が伸びてきて、握り締めていた本がさらわれた。


 美雪の細い指がパラパラとページをめくり、挿絵のページを見つけてはうれしそうに笑う。


「お兄ちゃん、みてみて!! 武器ゲット!!」


「あははー」


 満開の笑顔を振りまく美雪が綺麗なイラストを見せて来るものの、その場面にあまり良い思い出のない史記は、ただただ苦笑するしかない。


 そうして美雪が楽しげにページをめくる姿を眺めていると、不意に嫌な予感が脳内を過ぎった。


(ちょっとまて!! これ、俺が主人公っぽくないか!? ってことは免許の取得も!?)


 それは冒険者の免許証を手に入れるために、律姉に頼み込む場面。

 挿絵が入っているか否かはわからないが、さすがにそれを美雪に見られる訳にはいかなかった。


「み、みゆき!! もう良いんじゃないか? 日が暮れるし、帰ろうぜ」


 慌てて言葉を紡ぐも、本から視線をあげた美雪はただ首をかしげるばかり。


「ふぇ?? まだ来たばかりだよ、お兄ちゃん。どうしちゃったの? すっごい汗かいてるよ?」


「え?? あ、いや、あの。うん……」


 上手い返答が思い浮かばずにしどろもどろになっていると、美雪の視線が本へと戻った。


「あのー、みゆきさま……」


「わー、ゆずちゃん可愛い‼」


「そうですね……」


 1枚、2枚、3枚……。


 ゆっくりとページがめくられ、史記の額から汗が流れ落ちる。


(大丈夫。挿絵はない。挿絵はない。挿絵はない)


 そんな史記の思いもむなしく、問題の箇所が開かれた。


「んゅ?? お兄ちゃん、この子、だぁれ??」


 美雪の指先が、頑張る兄の姿を捉える。

 額から汗が流れ落ち、心臓が壊れそうなほど早く脈を打っていた。


「いや、あ、あれじゃないのか? おりじ、なる、きゃら?」


「オリジナルキャラ??」


「そうオリジナルキャラ!! よくあるだろ? アニメオリジナルとか漫画版オリジナルとか」


「んー? んー、うん、まぁ、そう言われれば――」


「だろ!! うん、オリキャラ。オリキャラ!!」


 おもむろに本へと手を伸ばした史記が、ペラリとページを先に進めた。


 なにか不思議なものでも見るように首をかしげた美雪が、んー?? などと疑問の声を上げたものの、


「まぁ、いっか」


 そうつぶやいて、再びページをめくり始めた。


(ふぅぅぅぅぅぅぅ――…………)


 心の中で大きくため息を吐き出した史記が、ぐったりとした体を床へと横たえる。


 パラパラとページをめくり続けた美雪が、最後の1ページをめくり終えると同時に、パタンと本を閉じた。


 兄の方へと本を差し出しながら、満開の笑顔を咲かせる。


「楽しかった!! あとでゆずちゃんにも見せてあげよっ!!」


「そ、そうだな……」


(柚希にもバレませんように!! 柚希にもバレませんように!! 柚希にも……)


 心の中で必死に祈りを捧げながら額の汗を拭った史記は、手に入れた本を<収納袋>の奥地へと仕舞い込んで、本の山を後にするのだった。


 後に、柚希を相手に冷や汗を流すことになるのだが、それはまた別のお話。

「なんか、妹の部屋にダンジョンが出来たんですが 1 」


 本日発売です。


 可愛いイラストたちだけでも、じっくりと眺めて頂ければと思います。


 よろしくお願いします。

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