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3-29話 1回転、2回転、3回転。


 焼きたての塩鮭とごはんにお味噌汁、大盛りの冷しゃぶサラダをお盆に載せた史記が、リビングへと足を向ける。


「出来たぞー。って、あれ……?」


 リビングの入り口をくぐった史記を待っていたのは、物音が消えた無人の空間。


 投げ捨てられたかのような紙袋と綺麗にたたまれた紙袋を前に、テーブルに載った味噌汁が悲しげに湯気を立てていた。


「どこいった??」


 軽く首をかしげながらお盆をテーブルへと載せた史記が、周囲へと目を向ける。


 そんな矢先、美雪の部屋へとつながる扉がタイミング良く開かれ、扉の向こうから美雪がひょっこりと顔をのぞかせた。


「んゅ?? お兄ちゃん? もう出来たの??」


「出来たぞー。なにして…………」


 ゆっくりと部屋の中へと入ってきた美雪に顔を向ければ、言葉が詰まった。


 無防備に投げ出された滑らかなお腹。

 細いヒモだけが通る肩。

 むき出しの足。


 フリルがふんだんにあしらわれた可愛らしい水着に身を包んだ美雪の肌に、史記の心臓がドキリと跳ねる。


 そんな史記の反応がお気に召したのか、笑みを浮かべた美雪が大きく胸を張った。


「えへへー、似合うでしょー」


 無邪気な笑みを見せた美雪が、楽しげにウインクをしてみせる。


「髪型も水着に合わせたんだよ?」


 そんな言葉と共に美雪がくるりとターンを決めれば、胸元に飾られたフリルがひらひらと宙を舞い踊り、片方だけ結ばれた髪が尻尾のように揺れ動く。


 水着に合わせたという美雪の言葉も納得の出来映えだった。


 一瞬にして変な力が入ってしまった肩を伸ばすように、ん~、とのびをして気持ちを落ち着かせた史記が、ふぅ……、と息を吐き出す。


 真っ白な肌に、すっきりとしたお腹。

 膨らみの薄い胸は、フリルがカバーしてくれている。


(天使だな。間違いない)


 改めて眺めた美雪の水着姿は、本気でそう思ってしまうほど可愛かった。


 いくら心を落ち着かせようと試みても、成功しそうにない。


(俺の妹は天使だった)


 半ば本気でそう思った。


 そうして史記が美雪の姿を堪能していると、不思議そうに首をかしげた美雪が、1歩だけ距離を詰めてくる。


「んゅ?? 似合わない? だめ?」


 本気で心配しているのか。わざとなのか。

 そんなもの、どちらでも構わない。


 のぞき込むように見上げてくる美雪は、最高に可愛かった。


「お、おぅ……。似合ってる、と、思うぞ??」


 思わずどもった史記の言葉に、美雪が幼さを残す笑みを浮かべる。


「えへへー。ありがと、お兄ちゃん」


 わーい、と両手を高く上げた美雪が、くるくると舞った。


 1回転、2回転、3回転……。


 回るたびにフリルが揺れて、髪の毛が揺れる。


「……うぅー、酔った」


 一瞬にしてふわりとした表情を消した美雪が、ぐったりと腰を下ろす。


 両手両足を床に投げ出して、ぐでー、と天井を見上げた。


「うぅー、お兄ちゃんのせい……」


(いや、どう考えても違うだろ!? まぁ、いいか。天使だし……)


 可愛いは正義である。


 そうして史記が萌えていると、不意に美雪が上半身だけを起こした。


 何かを探すようにキョロキョロと周囲に目を向ける。


「んゅ?? ゆずちゃんは??」


 コテンと首をかしげた美雪がドアの方へと視線を向けた。


「ゆずちゃーん??」


 美雪が楽しげな声をドアの外へと飛ばせば、その声に導かれるかのように柚希が顔だけをのぞかせた。


 恐る恐るといった感じで、表情も少しだけ固い。


 そんな柚希の方へ、ごろん、ごろん、と転がった美雪が、ドアの向こうへと手を伸ばす。


「ゆずちゃーん? 出ておいでー」


「えぇ、っと……。やっぱりね。恥ずかしいかなー、なんて……」


 呼びかけに拒否を示すかのように、柚希の顔がドアの向こうへと引っ込んでいった。


 柚希の反応から考えるに、おそらくは水着姿なのだろう。


 気が付けば、喉がゴクリと鳴っていた。


(柚希の、水着……)


 可愛い妹の水着姿を眺めるだけでは飽き足らず、脳内に様々な妄想が広がっていく。


 お腹は出ているのか? 肩は? 太ももの出具合は? 胸の谷間は!?


 そうして史記が本気で妄想を膨らませていると、美雪に手を引かれた柚希がゆっくりと姿を見せた。


「えぇ、っと……」


 即座に目が行くのは、やはり胸の盛り上がりだろう。

 肩紐付きのチューブトップが、豊かな胸の膨らみを上へと押し上げてくれている。


 おそらくは谷間が見えにくいタイプを選んだのだろうが、その豊かさは少しも失われてはいない。


「どう、かな??」


 胸に手を当てた柚希が恥ずかしそうに横を向けば、大きく開かれた背中が目に飛び込んでくる。


 染み1つない、健康的な背中。


 腰に巻かれたパレオから顔をのぞかせる太もも。チラリと見える黒いビキニのパンツ。


 最高の女神様だった。


「お兄ちゃん、ちょっと見過ぎ!! けど、可愛いでしょ!!」


 少しだけふてくされたような表情を見せながらも、美雪がキャッキャと笑う。

 恥ずかしがる柚希と腕を組んで、口元にピースサインを作った。


「あぁ、どっちも可愛いぞ?」


「でしょでしょ!! やったね!!」


 美雪が笑顔を咲かせ、柚希の顔が赤く染まる。


 誇らしげな表情を浮かべた美雪が柚希の腕を引いた。


「ゆずちゃん、ごはん食べよー!! はやく、はやく!!」


「え? わわっ、ちょっと!!」


 そのままテーブル席へと、柚希を連れ込む。


「……え? そのまま、飯食うの??」


「うん!! お腹すいたんだもん!!」


 美雪の行動に思わず口を挟めば、楽しそうな笑みを返された。


 天使と女神に囲まれた食卓。


 この幸せは、もう少しだけ続いてくれるようだ。


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