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3-26話 洞窟の中へ


 プリン型の石があるT字路を右に曲がった史記たちは、程なくして霧のない空間に出た。


 一瞬のまぶしさに鋼鉄が目を細めて、振り返る。

 そこには、真っ白な霧の壁があった。


「……なるほどな」


 事前に伝えていた影響だろうか。

 霧の壁に対する鋼鉄の反応は、非常にあっさりとしたものだった。


 1つだけうなずいた鋼鉄が表情を引き締めて、再び前を向く。

 その先にあるのは、湖と洞窟。


「洞窟はまだ、だったな?」


 まっすぐな瞳を湖の奥に向けた鋼鉄が、噛みしめるように言葉を紡いだ。

 そんな鋼鉄の質問に、ビクリ、と肩を振るわせた史記が、焦りを心にしまいながら口を開く。


「あー、うん、まぁな……。昨日はそこの神々しい湖で、遊んで、帰ったからな」


 遊びの内容は極力濁した。

 まさか、妹の裸を堪能していました、とは言えまい。


「なるほどな……」


 見透かされるような鋼鉄の視線から目をそらした史記が、意図的に洞窟の方へと顔を向ける。


「進むのか??」


「あぁ、強敵の気配はない。入っても良いと思う」


 鋼鉄の言葉に視線を下げれば、手元の時計が4時を指していた。

 時間はまだ、たっぷりと残っている。


 戦闘には手間取ったものの、迷いなく進んだおかげか、昨日よりも早く到着していたようだ。


「まぁ、危なそうなら逃げればいいしな」


「そうだな」


 そんな考えのもと、緩やかな坂を下りて、湖のほとりを進む。


 ここから先は未知の空間。何が起きるかわからない場所。

 そんな思いが史記の脳内に広がり、いつの間にか肩に力が入っていた。


 率先して先頭に立ち、キョロキョロと周囲を見渡すペールの姿がない。

 その事実が、史記の中にあった不安をより大きなものにしていく。


 そんな心細さを無理矢理心の奥底に押し込めながら歩けば、洞窟の入り口が薄らと見えてきた。


 首をかしげるようにして中をのぞけば、地面から生えるつららのようなものが目に飛び込んでくる。


 地面から天井に向かってまっすぐに伸びるそれは、タケノコのように根元が太くて先が細い。

 中央には大きめの炎が浮いており、その周囲を無色透明なつららが囲っているようにも見える。


 無色透明なタケノコの灯籠。


 そう名付けたくなる代物が洞窟の両脇に等間隔で並び、洞窟内を揺らめく光で照らしていた。


「どう思う??」


「ただの明かりだろう。敵意は感じない」


「だよな」


 鋼鉄の言葉通り、危険な気配は感じなかった。


 だが、 万に一つがあるとも限らない。

 美雪か柚希がいない今、下手に触るのはやめたほうが良いだろう。


 今わかることは、念のためにと持ってきたヘッドライトは必要ない、ということだけだ。


「とりあえず、灯籠みたいなものは避けて進むか」


「そうだな」


 互いに顔を見合わせてうなずくと、鋼鉄の大盾を前にして洞窟の中へと足を踏み入れた。


 砂を踏みしめる音が洞窟内に反響し、嫌が応にも緊張が高まってくる。


 そして5分ほど歩いた頃、不意に鋼鉄が歩みを止めた。


「敵だ」


 言うや否や、身をかがめて壁に張り付いた鋼鉄が、史記の腕を引く。


「見られない方がいい」


 小声で話す鋼鉄の言葉に従って身をかがめ、細心の注意を払って前方をのぞき込む。


 見上げるほどの石像がそこにいた。


「っ……!!」


 叫びそうになる口を必死に押さえて地面に張り付く。


 高さは8メートルくらいだろうか。

 座禅を思わせる体勢で座りながらも、その高さは圧力を感じるほどに高い。

 その背後には、後光が差しているかのように光る、丸い輪が浮かんでいた。


(大仏……)


 神々しさというよりは邪悪な気配の方が強いものの、見た目だけなら修学旅行で見たものと大きな差はないように思う。


 改めて周囲に目を向ければ、大仏のために作られたかと思うような空間が広がっていた。


 入り口のような場所を堺に天井が高くなり、大仏の背後に向けてまた狭くなる。

 その先は大仏の巨体が邪魔をして、見通すことは出来そうもなかった。


(大仏が動けてもここにはこれない。大きすぎて入ってこれない。大丈夫だ、大丈夫)


 震える手を胸の前で握り込み、必死に感情を抑えつける。


 逃げよう。勝てるような相手じゃない。


 そんな感情のもと、鋼鉄とアイコンタクトを取った史記が、じりじりと後退を始めた。


――そんな時、


 不意に、大仏の頭上から淡い光が漏れ出した。


(なんだ?? 天井が光ってる??)


 どうするべきかもわからずに史記が動きを止めれば、漏れ出した光が小さく凝縮し始めた。


 そして小さな丸になったかと思えば、一瞬にして輝く石へと成り代わる。


 それは<迷い地蔵>が落とす魔石によく似た姿。


 重力に従ってコロンと石が落ちれば、大仏の足の上に載り、一瞬の輝きの後に跡形もなく消え去った。


(魔石を吸収した??)


 何が起きたのかも理解出来ないが、とりあえずはここを去ることが優先だろう。


 大仏から目を離せないまま、ゆっくりと後ろに下がっていく。


 そんな矢先、不意に史記の足が、なにやら硬いものにぶつかった。


 瞬時に目を向ければ、透明なタケノコの灯籠にかかとが触れていた。


(ぅわっ……!!)


 倒れそうになる体に力を入れて、必死に踏ん張る。


(……あっぶねー)


 ヒヤリとしたものを感じながら、ほっと一息ついた。


 ――そんな矢先、灯籠の先端から勢い良く炎が吹き出した。


「おわっ!!!!!!」


 思わず声を上げた史記の背筋がヒヤリと冷たさを感じる。


 見つかった!!!!


 鋼鉄の手を取り、全速力で後退する。

 振り返る余裕もないままに走り続け、濃厚な死の気配から逃げ続けた。


 後先など考えない。必死に走る。必死に逃げる。


 気が付けば、洞窟を抜けていた。

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