13話 開かない扉
「扉だな」
「うん、扉だね」
武器を手にした部屋の先にあったのは、長い廊下だった。
2人が両手を伸ばしたくらいの道幅で、左右にドアらしきものが、ずらー、っと並んでいる。
その数は30を優に超えるほどで、大型のカラオケ店にでも入ったかのような光景だった。
「……押してみるか」
「…………開かないね」
1番近くにあったドアを押してみたが、開く気配は無い。
手前や横にスライドて開くドアなのかもしれないが、壁に埋まるように設置されているため、手を入れれるような隙間など無い。
もちろん、ドアノブのような物など一切なかった。
それならばと、一歩後ろへ下がった史記が、徐にドアに手をかざして目を閉じる。
「開け、ゴマ!!!」
「…………」
物は試し、ということで、ドアが開きそうな呪文を唱えてみたが、何かが起きるような気配はなかった。
恥ずかしそうに苦笑いを浮かべる兄から視線を逸らした美雪が、『ユキは何も見てませんよ』と痛々しい兄を気遣う。
そして遠くを見つめると、何度も目を瞬かせた。
「お兄ちゃん。あれ」
逸らした視線の先に何かを見つけたらしい。
美雪に促された史記が、その目をじーっと凝らすと、そこには1箇所だけ開いたドアがあった。
だが、距離がそこそこあるせいで、部屋の中の様子をうかがい知ることは出来そうにない。
「とりあえず、行ってみるか」
「うん」
そういうことになった。
唯一開いていたドアまで移動し、恐る恐る中を覗き込む。
そこにあったのは、太い木としめ縄。
2本の木が門のように並び立ち、その間をしめ縄が走っている。
しめ縄の中央には、1と書かれた紙が垂れ下がっていた。
「なんだ、これ? 門?
いや、階段か?」
そんな謎のモニュメントとも呼ぶべき物体の奥には、下へと続く階段があった。
「1階への入口だよ、お兄ちゃん」
怪しい雰囲気を醸し出す部屋の中を覗き見る史記に対し、美雪がつぶやく。
どうやら、いままでの場所は1階ですらなかったらしい。
(また、ネットの知識ですね、ありがとうございます)
などと思った史記だったが、そんな考えを美雪が打ち消す。
「鑑定してくれたー。ここを降りたらダンジョンの1階なんだってー」
眼鏡に中指を這わせてクイっと押し上げた美雪が、無邪気に笑う。
「鑑定の眼鏡か……。便利だな」
「いいでしょー」
能力を持たない兄としては、うらやましい事、この上ない。
「ここからは敵が出てくるって感じか?」
「うん、そうみたい。出てくる敵は弱いんだけど、すぐに逃げれるように準備しておいた方が良い、って言ってるよ」
「了解」
この先にモンスターが居る。
そう思うと、自然に力が入った。
未知に対する不安もあるが、それと同時にワクワクする感情が史記の心をくすぐる。
史記が本気で『勇者になって世界を救うんだぁ‼』と言っていたのは、両親がまだ生きていた頃。
今でこそ言わなくなっていたが、その時の記憶が無くなった訳ではない。
(あの頃も応援してくれたんだ。今回だって見守ってくれてるよな?)
そんな幼い頃の思い出と共に、天国へと旅立った互いの両親に向けて『美雪だけは絶対に守るから、安心してくれよ』と誓った史記は、敵がいるであろう階段の向こうを見据えた。
「それじゃ、行くか」
「うん」
木の枝を剣のように正面で構えて、ゆっくりと階段に足をのばす。
ダンジョンの1階。
モンスターが待つ場所へと、2人は降りて行った。