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3-24話 勇者のすすめ

 翌日の早朝。

 教室の扉を開けば、友人たちの雰囲気がいつもと違っていた。


 おびえと恐怖、好奇心が入り交じった、そんな気配。


 眉をひそめる者や顔を引きつらせる者、ひゅぅ!! と息をのむ者。

 いつもと違う友人の姿が、至る所に見受けられた。


(なんかあったのか??)


 そんな疑問を心に浮かべながらも、平然を装って自分の席へと向かう。


 席に座るや否や、先に来ていた勝が、ウキウキとした笑みを浮かべて近付いてきた。

 勝もまた、クラスメイトたちと大差のない表情を浮かべているように見える。


「聞いたか?? 幽霊のこと」


「幽霊??」


 聞き覚えのない話に史記が首をかしげれば、勝がニヤリと笑った。


「聞きたいか? 聞きたいよな!? 詳しく聞きたいよな!?」


 机から身を乗り出した勝が、ぐいぐいと顔を寄せてくる。

 話をしたくて仕方がなかったのだろう、史記が何かを言う前に、勝が朗々と語り出した。


「俺も聞いた話なんだけどさ。隣のクラスの奴らが山の上にある廃校に肝試しに行ったらしいんだわ。んでもって、見たんだとよ」


「幽霊をか??」


「おうよ。泣きながら帰ってきたって話だぜ?」


「へぇー……」


 もったいぶるように話す勝に合いの手を入れれば、勝の顔に笑みが増す。


「でもって、見てきた全員が休みらしい。マジですごくね!? 幽霊だぜ、幽霊!!」


「幽霊、ねぇ……」


 勝のテンションが上がり続けるものの、史記の方はそうでもない。


 廃校に幽霊がいる。

 なんともありきたりな組み合わせに、史記が肩をすくめた。


「そりゃまた、なんともうさんくさい。ってか、そもそも、廃校に肝試しなんてそんな面倒なこと良くやるなぁ」


 そんなことをするくらいなら、ホラー系の映画を見る方がどう考えても手っ取り早いだろ。

 そんなことを思いながら史記が苦笑を浮かべていると、突然、勝が勢い良く立ち上がった。


「いや、ちょっと待てよ!! 良く考えろ。幽霊だぞ?? どう考えても色白の美少女な訳だ!! 黒髪の貧乳美少女な訳だ!! これはもう行くしかねぇ!! 行くっきゃねぇ!!」


 ぐっと手を握り締めた勝が、抑えきれない欲望と共に拳を突き上げる。


「ってな訳でだ。行こうぜ、肝試し合コン!!」


 綺麗な笑みを浮かべて、勝が右手を差し出した。

 無駄な爽やかさが、にじみ出ているように思う。


「いや、行かねーよ。合コンの相手が幽霊ってなんだよ。ってか、フェヌなんとかちゃんはどうしたんだ?? 浮気する気か??」


 フェヌメノンちゃん。

 勝が嫁と称するアニメのキャラクターである。


 嫁がいるのに合コンに行くのは、どう考えても浮気だろう。


 そんな史記の問いかけに、勝が得意げに胸を張る。


「何を言っているのかね。我々の世界に浮気など存在しない。あるのはハーレム展開だけだ!!」


 キラキラと輝く勝の瞳は、不思議と自信に満ちあふれていた。

 痴情のもつれから刺されないことを祈るばかりである。


「あー、うん。まぁ、頑張れや」


 投げやりながらも、史記が背中を押した。


 幽霊の彼女を紹介された際には、心からの祝辞を述べようと思う。

 そんな人生もありだと思う。


「それでな。いくら幽霊っていっても廃校に1人でいるのはさみしいと思うんだよ。そこで俺は考えた!! やっぱ……」


 何やら勝が喋っている気がするが、とりあえずは放置することに決めた。

 その代わりとして、鋼鉄の方へと体を向ける。


「鋼鉄。盾は直ったか??」


「あぁ、おかげさまでな」


 ポケットから収納袋を取り出した鋼鉄が、太い手をその中へと入れた。

 程なくして修繕の終えた大盾が姿を見せる。


 狐火に溶かされた跡はどこにもない。宝箱から出てきた時と同じ姿。


 そんな大盾を見詰めた史記が、ほっと安堵の息を吐き出した。


「綺麗に元通りだな。修行の方は??」


「師匠の許しは出た。ダンジョン攻略への参加は可能だ」


 どうやら修行の方も一段落付いたようだ。

 最高の吉報に、史記の頬が緩む。


「了解。それじゃぁ、早速で悪いんだけど、明日から来てくれるか??」


「それは構わないが、明日か?」


 鋼鉄が不思議そうに眉をひそめた。

 おそらくは今日からだと思っていたのだろう。


 そんな鋼鉄の視線を受けた史記が、恥ずかしそうに頬をかく。


「美雪たちが水着を買うって張り切っちゃってさ。今日はメンバーが集まらねーんだよ。美雪か香奈がいないと地蔵に勝てねーからさ」


「なるほどな」


 どう考えても湖の影響だった。


 小さくうなずいた鋼鉄が、顎に手を当てて悩むような素振りを見せる。

 そして何かを決意したように表情を引き締めると、まっすぐに史記を見た。


「1つ試してみたいことがある。付き合ってくれるか?」


 年に数度もない鋼鉄からの頼み事に、史記の目が大きく開かれる。


「試し?? まぁ、鋼鉄の頼みならどれだけでも付き合うけどさ。

 とりあえず美雪たちの方には行けねーって連絡しとくよ」


「あぁ、よろしく頼む」


 そういうことになった。


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