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3-18話 文字の意味

 ゆっくりとプリン型の石に近付けば、その表面に絵と文字らしき彫り込みが見えて来る。


 中央には蛇に似た文字が躍り、左右にはそれぞれ異なった絵が描き込まれていた。


 文字の方を読むことが出来ないが、絵の方はなんとなくわかる。


「こっちに描かれているのは地蔵だよな。そっちのやつは、家、か??」


 丸い頭に、末広がりの四角い体。

 右側は、どう見ても<迷い地蔵>だった。


「ふゅ? 左はきんつばじゃないの?」


「え? きんつば??」


 左側は、長方形をいくつも並べたとしか表現出来ないような模様であり、首をひねるしかなかった。


 地蔵ときんつばでは共通点がなさ過ぎるため、さすがにないと思うが、情報が少なすぎるために、思い当たるものがありすぎる。


 豆腐、いや、消しゴムか?? などと、少々美雪に引っ張られたような候補を史記が脳内で思い描いていると、不意にペールが石の表面へと手を伸ばした。


「右は<迷い地蔵>であってるですよ。左はお墓って書いてあるのです」


 指先で文字のような部分をなぞりながら、ペールが言葉を紡ぐ。


 そんなペールの様子を不思議そうに見詰めた美雪が、小首をかしげて指先を文字らしき部分にはわせた。

 当然、読めるはずもない。


「ペルちゃん、この蛇さんたち、読めるの??」


「はいなのです。種族的に難しい言葉は無理なのですが、このくらいなら行けるのですよ」


 尊敬念が籠もった美雪の視線を受けて、ペールが得意げに胸を張った。


「ペルちゃん、すごーい。それじゃぁ、ここの部分も読めたりする?」


「もちろんなのです。このくらい朝飯前なのですよ。

 己が信じる道を進め、って書いてあるのです」


 再び石の表面をなでたペールが、そんな言葉を口にした。


 信じる道。

 なんとも抽象的な言葉に、史記が眉をひそめる。


「信じる、信じるねぇ……。要するに直感で選べってことか?」


「そうなるのかな??」


 柚希を筆頭に、全員が首をかしげて視線をそらした。

 ペールもただ文字が読めただけで、その意味まではわからないようだ。


「んー、まぁ、考えててもキリがないし、とりあえず多数決にしとくか」


「いいと思うー。ユキは右が良いっ!!」


「りょーかい」


 先走って意見を口にした美雪に苦笑いを浮かべながら、美雪を含めた全員の顔を見定める。


「……ん?」


 そこでふと、香奈が悩ましげな表情をしていることに気が付いた。


「どうしたんだ、香奈? なんかわかったか?」


 素直に問いかけてみると、香奈は、ん~、などと、どっちつかずな反応を見せた。


 首をひねりながら視線を宙に漂わせて、散らばった文字を拾い集めるかのように、ゆっくりと言葉を選び出していく。


「なんかさー。ボクとしては、まっすぐ行くのが良いと思うんだよねー」


「…………は?」


 このまま、まっすぐ。石の向こう側へ。


 そこにはうっそうと生い茂った木々が広がっているだけで、道などは存在しない。

 それでも、真剣な瞳を正面へと向けた香奈が、訴えかけるように石の向こうを指さした。


「行けそうな気がしない?? すごいするよー!! ビンビンするよー!!」


 語尾に強さが増し、瞳が力を帯びていく。

 どうやら自信があるらしい。


「まっすぐ、ねぇ……」


 不思議そうに前を眺めても、史記の目に映るのは、太い木々と霧ばかり。

 どう考えても行ける気がしなかった。


 だが、信じる道を進め、と言う石の言葉もある。


「とりあえず、行けるところまで行ってみてもいいかもな。ペール、帰り道、任せても良いか??」


「はいなのです。ペールがバッチリ覚えるですよ」


 ペールから返された自信満々の笑顔を受けて、全員の顔を見渡せば、戸惑いながらもうなずきが返ってきた。


「うっし、なら決まりかな」


 そういうことになった。


 水滴が載る草をかき分けて、木々の隙間を縫うようにして先へと進む。


 手を伸ばした先にあった幹は、じっとりと濡れていて、落ちてくる水滴が首筋を冷やすたびに、帰りたい気持ちが大きくなる。


 だが、そんな不快感も服に関しては別世界。

 水滴がその身に付いた瞬間から、即座に乾燥しているかのようであった。


 そうして、普通の服ならグチョグチョになっていそうな道なき道を進んでいると、不意に視界が開けてくる。


「え……?」


 信じられないとばかりにしゃがみ込んで確かめるものの、そこにあったのは、先ほどまで進んでいたものと変わらない、小さな土の道だった。


 大木にして6本分。

 周囲を深い霧に覆われていなければ、T字路から見えたのではないかと思うほど近くに、道が続いていた。


「やーったねっ!! ボク偉い!!」


 香奈が胸を張り、両手を大きく広げる。

 楽しそうな声の中に、少しだけ安堵の色が混じっていた。


 隠されるようにあった道。石に書かれた文字。

 ゲーム的に考えるのならば、ここが正解の道だろう。


 史記がぼんやりと霧が覆う道の先を予想していると、ペールがその手の中にタオルを出現させて近寄ってきた。


「皆様はとりあえず髪の毛を拭くのです。風邪を引いてしまうのですよ」


 1人1人近付き、手の中から出てくるタオルを渡していく。


「ありがと、ペルちゃん。ねぇ、お兄ちゃん。このタオルも進化させたら便利じゃない!?」


「いいかもな。余裕が出てきたら、家のバスタオルも進化させるか」


「さんせー!! くまちゃんたちも綺麗にしてあげようかな」


 どうやら美雪は、部屋に飾られているぬいぐるみたちにも魔石を使用するつもりらしい。


(舞先輩が聞いたら怒るだろうな。たぶん)


 そんな他愛もないことを思いながら水分を拭き取った史記が、再び前を向く。

 美雪達も、乱れた髪を整え終えていた。


「うっし、行きますか」


「はーい」


 ぬれたタオルを手の中へと消し去るペールの姿を流し見ながら、1歩目を大きく踏み出す。

 そしてまた、霧の中を慎重に進んで行った。

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