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3-13話 3階の初戦闘

 警戒心をにじませる史記達の前に姿を見せたのは、ニッコリと微笑んだ石像。


 目尻を下げて口角を上げ、人の良さそうな笑顔で手を合せたそれが、ぬかるんだ道をゴトン、ゴトンと歩み寄る。

 そのゆっくりとしたスピードと優しげな表情が相まって、張り詰めていた緊張感が解かれた。


 誰しもが動くことを忘れて、霧の中から現れる謎の石像をただぼんやりと眺める。

 顔文字を思い出す棒のような目が、ただまっすぐに史記達を見詰めていた。


「…………敵、か??」


 悩ましげに眉をひそめて声を絞り出した史記に対し、ハッと顔をあげた柚希が、慌てて言葉を紡ぐ。


「<迷い地蔵>。皮膚が石のため剣などは効き難い。魔法系が効果的。

 美雪ちゃん!!」


「あいあいさー」


 どうやら敵らしい。

 

 柚希の要請を受けた美雪が、左手をまっすぐに伸ばして、そこにはまる指輪を掲げて目を閉じた。


「えい……」


 体内に流れる魔力を指先に集中させ、指輪を介して小さな火の玉に変換する。

 指先に漂う小さな火の玉に向けて、ふ――……、と静かに息を吹きかけた。


 吐息に乗ってゆっくりと動き出した火の玉が、史記とペールの横を抜けて<迷い地蔵>へと向かう。

 始めは手のひらサイズだった火の玉が、<迷い地蔵>に近付くに連れて少しずつ大きくなり、やがては道を覆うほどのサイズまで大きくなった。


 前方から発せられる熱気を肌で感じながら、香奈が目を大きく開いた。


「にゃにゃ!? ユキユキ、魔法使い!?」


「えへへー、かっこいいでしょー」


 のんきな笑みを浮かべる美雪を尻目に、彼女が生み出した巨大な火の玉が<迷い地蔵>に迫る。

 周囲を明るく照らしながら熱気を拡散させ、ぬかるんだ地面の水気を飛ばしていく。


 道幅いっぱいにまで広がった火の玉から逃れる場所もなく、<迷い地蔵>の体が炎に包まれた。


 ――その瞬間。


「ふぇ??」


 火の玉が突然かき消えた。


 体内に感じていた魔法の手応えが消え、あっけにとられる美雪を尻目に、<迷い地蔵>が火傷1つない石の体をボテンと弾ませる。


「美雪ちゃん、もう1回お願い。今度は小さくて良いから」


「うん!!」


 柚希の声に応えた美雪が、指輪を掲げて火の玉を生み出す。

 自分達の視界を遮らないように注意して、手のひらサイズのまま。


 先ほどよりも少しだけ早いスピードで飛び出した火の玉が、<迷い地蔵>へと向かった。


 5メートル。3メートル。2メートル。


 着弾する。誰もがそう思った瞬間、足を止めた<迷い地蔵>の目が強い光を放ち、見えない壁にぶつかるようにして火の玉がその姿を消した。


「うそ、防がれた……」


 思わず口元を押さえて声を漏らした柚希が<鑑定の眼鏡>からの情報を読み返すも、そこに書かれているのは、物理はダメで魔法が良い、という文字だけ。


(魔法なら効くんじゃないの?? えっと、どうしたら……)


 選択肢を失った柚希が頭を抱える。

 自分に攻撃手段はない。ペール、史記、香奈は物理攻撃で、美雪の魔法は効かなかった。


(魔法を消す時には足を止めるみたいだから、美雪ちゃんに弱い魔法を打ち続けて貰って、その隙に逃げる。……うん、それがいいよね?)


「史記くん、美雪ちゃんを抱えて!! 美雪ちゃんは抱えられながら――」


「来るですよ!!」


「え??」


 割り込んできたペールの声に顔をあげれば、<迷い地蔵>の目から青い光が漏れ出ていた。


 <迷い地蔵>の頭上に小さな水の玉が浮かび上がり、目の光りが強くなるに連れて頭上の玉も大きく成長していく。


「みんな避けて!!」


 柚希の叫び声とほぼ同時に<迷い地蔵>の頭上から動き出した水の玉が、ただまっすぐに史記達のもとへと飛んだ。

 必死に逃げて進路から体をそらすも、水の玉はその動きを修正して史記達を追いかける。

 

「跳ぶのですよ!!」


 最後尾を走るペールの合図で、全員が土の上へと身を投げ出す。

 全身に泥をかぶりながら、ほんの少しだけでも遠くへと転がれば、一瞬前まで彼らがいた場所に水の玉がぶつかった。


 ぱしゃ、と水の玉が割れ、シュー、と音を立てながら着弾ちた場所が溶けていく。


「ちょ、これ、シャレにならないやつ!!」


 大きな穴のあいた地面を見詰めた香奈の顔から血の気が遠のく。

 慌てて立ち上がろうとした史記達に向けて、<迷い地蔵>の目が再び青い光を漏らし始めた。


「やっばっ!!」

「みんな、逃げるよ!!」


 慌てて立ち上がり来た道を走り出す。

 チラリと後ろを振り返れば、先ほどの5倍はあろうかという水の玉が<迷い地蔵>の頭上に浮かんでいた。


(まって、まって、ほんとシャレになってないから!! 死ぬ、死んじゃう!!)


 焦りだけが脳内を占領し、体が思うように動かない。

 霧に視界を遮られているせいもあり、逃げる速度は上がりそうもなかった。


 ――そんな時、


『我が巫女よ。あの玉を打ち抜け』


 不意に、九尾の声が脳内に響いた。

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