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3-12話 3階の入り口


(美雪ちゃんの眼鏡が2つになった? たぶんそういうことだよね?)


 <鑑定の眼鏡>が光に包まれた直後というタイミングから考えて、悪いものではないだろう。そう判断した柚希が、少しだけ頭を下げて、ふちのない眼鏡をあてがった。


 両手で持って位置を調整し、両サイドに膨らんだ髪を後ろへと軽く流す。

首を軽く振って位置がずれないことを確認し直後に、目を大きく見開いて、はっと息を飲んだ。


「名前に食べ方、説明と弱点……」


「えへへー、いいでしょー。鑑定さんは良い子っ!!」


「そうだね。これは本当にすごいかな……」


 自慢げに胸を張る美雪に生返事を返しながら、その瞳は周囲の状況を真剣に見詰めていた。


 史記や美雪を見れば年齢と好きな食べ物と得意な武器が、草や木を見れば使い方や食べ方が、ペールに至ってはレベルという表記まであった。


 ペールは現在、14レベルらしい。

 詳しくはわからないが、レベルが上がれば強くなるのだろう。


(これがあれば、もっと役に立てるかも)


 レンズ越しに瞳を輝かせた柚希が、手をぎゅっと握り締めた。

 


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 魔石の使い方を知ってから初めて迎えたお休みの日。

 学業と睡眠の合間に少しずつ武器を強化していった彼らは、この日初めてダンジョンの3階へと足を向けた。


 本日のメンバーは、史記と美雪、柚希、ペール、そして本日が初参加となる香奈である。


 モンスターどころか武器を見たことすらないであろう香奈のために、スライムで慣れてから3階行くか? と言った意見もあったのだが、


「大丈夫。行ける、行ける!!」


 などと香奈が主張したため、不安ながらも周囲が折れていた。


 全員が一列になって、3と書かれた紙が垂れる石の階段を下りていく。


 <木の弓>を背負った香奈が、うきうきとした表情で史記の背中を追いかけた。


「おぉ~……」


 進んだ先にあったのは、霧をまとった木々の姿。

 階段のふちから身を乗り出すように見下ろせば、分厚い雲の上にでもいるかのように思う。


 だが、そこはダンジョンの中。

 地上で目にする霧とは大きく異なり、全体がキラキラと輝いているように見える。


 金粉が舞う雲の中、そんな世界。

 濃い霧に包まれているにも関わらず、暗さとは無縁の場所だった。


「へぇー、なんかすごい!!」


「すっごく神秘的だね、お兄ちゃん」


 見通しの悪い未知の空間だと言うのに、美雪や香奈の顔に気負った気配は一切ない。

 キラキラと光る霧を眺めては、嬉しそうに笑っていた。


 そんな緊張感の薄い2人を尻目に、史記達が顔を見合わせる。


「敵の気配は……、感じない、よな?」


「はいなのです。嫌な気配はしないのですよ」


「眼鏡からの情報にも怪しいものはないかな」


 降り立った地から見えるのは、視界を遮る霧と、雑多な木々と、思い思いに生える草達。


 葉や茎はしっとりと濡れており、周囲を囲う森からは、ぴちょん、ぴちょん、と水の落ちる音が聞こえていた。


 ジメジメとした梅雨のような湿度。

 上を向けば、霧に覆われた太陽がほんの少しだけ透けて見えた。


「お兄ちゃん、ここを進むの??」


 新しいおもちゃを前にした小学生のような笑みを浮かべた美雪が、正面に伸びる細い道を指さす。


 雑多な木々と雑多な草に両脇をはさまれた、細い土の道。

 視界を真っ白に覆いながらもキラキラと輝く霧が、史記の目には自分達を森の奥へと誘い込んでいるかのように見えた。


「……ゆっくり、進むか」


「は~い」


 未知の階層に及び腰となり、岩鳥に周囲を囲まれた苦い思い出が脳内を過ぎるものの、様子見をしていては何も始まらない。


 自分のカンと鉄パイプよりも硬くなった木の枝を信じて、史記が霧の中へと足を向けた。


 史記とペールが先頭を進み、美雪と香奈が後方に並ぶ。

 中央に居る柚希を守るような形で、5人が霧の中を進んだ。


「史記様、危ないのですっ!!」


「ぉわっ!! ……悪い、助かった」


 どこまでもまっすぐな道が続くかと思えば、突然の曲がり道。

 ぬれた草に足を取られて影から滑り落ちそうになる史記の手をペールがつかんで引き戻した。


「あしもと、にゅるにゅるする……」


 ぬかるんだ地面に足を取られた美雪が眉をひそめる。


「香奈。そこにでっかい水たまりあるから気をつけろよ?」


「にゃにゃにゃ!?

 ……シキシキー、警告するならもっと早くしてよー」


 霧に隠れて現れる地味なトラップに巻き込まれながら、ゆっくりと1本道を進んでいった。


 敵意や視線のようなものは感じない。

 霧と草と木が現れては、背後へと消えていった。


 ――そんな時。


「ちょっと待って!! 何か居る……」


 目を細めて前方に注意を向けた柚希が、慌てて声を上げた。

 霧の中に浮かぶのは、人型のシルエット。


 曖昧に揺らめく黒い影を見据えて表情を引き締めた史記が、木の枝を正面に構えて足を止めた。


「…………来るぞ」


 黒い影が徐々に広がり、じらすような速度で霧の中を歩み寄る。


「……お地蔵さん??」


 やがて現れた敵の姿に、美雪が首をかしげた。

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