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3-11話 進化の時

 スライムを探して魔石を取り出し、武器の変化に喜ぶ。

 目に見えて強くなる心地良さに酔いしれてスライムをさくさくと狩り続けていたものの、あるときを境に木の枝の変化が止まった。


「結構硬くなったけど、この辺が限界か?」


 史記の手元にあるのは、<漆黒の枝>。

 漆塗りのような光沢が美しく、しなやかで丈夫。持ち手も<普通の木の枝>の頃と比べれば、格段に握りやすくなっていた。


 だが、しょせんは木の棒である。

 麻衣から譲り受ける予定だった剣と比較すれば、いくぶんにも劣っているように思えた。


 そうして史記が手元を見詰めてぼやいていると、少しだけ離れたところからペールの声が飛んで来る。


「魔石に限界はないのです。2階に行った方がちょっとだけ効率が良いのですよ?」


 ペールの声に顔を向ければ、両手一杯にスライムを抱える柚希とペールの姿があった。


「あ~、やっぱそういうやつか。強いやつからは良い魔石が手に入るのな」

「はいなのです」


 近付いて少しだけ腰を曲げた2人の腕から、ぽてぽてとスライムが転げ落ちる。

 柚希は4匹、ペールが6匹。合計10匹のスライムが草の上に横たわった。


「お願いしても大丈夫かな?」

「あいよ」


 ナイフで切り込みを入れて腕を突っ込み、周囲から引き剥がすように魔石だけをやさしく引き抜く。

 今日だけですでに20個以上の魔石を取り出しており、最初の頃と比べれば半分以下の時間で取り出せるようになっていた。


「あ――、お兄ちゃんの武器、また変形してる!! むぅ、ゆきのはまだなのに……」


 かけられた声に後ろを振り向けば、柚希達に競い合うかのように、両手一杯にスライムを抱えた美雪の姿があった。


「うぃしょ、っと……。ふぅ~、おもかったー。これもよろしくー」

「りょーかい」


 ぽいっ、と投げられたスライムが草の上を転がる。

 史記が倒した分も合せて、合計20匹のスライムが山積みになった。


 流れるような手つきで魔石を取り出し、処理が済んだスライムはペールが引き取る。


「いただくのです」


 両手でひょぃ、と持ち上げて口を近づける。


 ぷるぷるの肌にキスでもするかのような素振りで唇を近づけたペールが、にゅるんと吸い込み、そのまま飲み込んだ。


「んふふっ、美味しいのです。新鮮なスライムは最高なのですよ」


 妖艶な笑みを浮かべたペールが、ほっぺたに両手を当てて目を細める。


「マスターも食べるですか? 美雪様の分もあるですよ?」

「お刺身は美味しかったけど、さすがにそのままは抵抗あるかな」

「食べるっ!!」

「え??」


 思わず振り返った柚希を余所に、スライムを強奪した美雪がぷるぷるの肌にキスをする。


 だが、いくら吸い込んでもスライムが口の中に入っていくことはない。それならばと大きな口を開けた美雪が勢い良くかみついた。


「…………むぅ~、かみ切れない。くずもちじゃない……」


 しょんぼりと眉をひそめて、スライムをペールへと返す。

 ふふふ、とやさしく笑う柚希に見守られながら、ペールがにゅるんと食べきった。


 そうこうしているうちにスライムの山が消え去り、20個の魔石だけが残る。


(ペールのやつ、あれだけの量を全部食ったのか?? 口から収納しただけか??)


 そんな疑問を浮かべながらも、


(まぁ可愛いからいいか)


 などと勝手に納得した史記が、魔石を半分に分けて美雪へと差し出した。

 ひと抱えもある魔石が美雪の前に転がる。


「ほい、美雪の分。柚希とペールはほんとにいらないんだな?」


「はいなのです。ペールは今までにいっぱい食べたのですよ」


「私もいまは良いかな。<狐の結界>は最初から強力みたいだし、<籠のペンダント>の方は急ぐ必要はないと思うしね」


「2人がそう言うならありがたく使わせて貰うよ」


「使っちゃお――!!」


 待ちきれないとばかりに<神事の魔導書>を本の形に戻した美雪が、その背表紙を魔石に押しつけた。

 だが、<神事の魔導書>が光ることもなければ、魔石が消えることもない。


 手当たり次第にほかの魔石に押しつけてみたものの、何かが起きることはなかった。


「むぅ――」


 不満げに唇をとがらせた美雪が、がっくりと肩を落とす。


「お兄ちゃんが言うように、この子だけ特殊なのかなぁ?」


 これまでも魔石を手に入れるたびに試していたのだが、結果は同じ。

 魔法系だから、もしくは特殊な場所で拾ったものだから特殊な魔石以外は受け付けない、というのが史記の見立てだった。


 ふぅ、と残念そうにため息を吐き出した美雪が、眼鏡を外して魔石に押しつける。


 1個、2個と光の粒になった魔石が<鑑定の眼鏡>の中へと吸い込まれていき、最後の1個が消えた瞬間、眼鏡全体が鮮やかな光に包まれた。


「んゅ!?」


 弱まっていく光の中から姿を見せたのは、それまでと変わらない<鑑定の眼鏡>の姿。


「ぅゅ?? ……光ったら変身するんじゃないの?」

「枝の場合はそうだったけど、見た目が変わるとは限らないんじゃないか?」

「ん~、とりあえず使ってみる」


 少しだけかがんで落ちてくる前髪を払った美雪が、眼鏡をかけて前を向く。

 レンズ越しに見えるのは、これまでと変わらない説明文と見慣れない赤い文字(・・・・・・・・・)


「んゅ? 共有する人を1人だけ選んでください??」


 言葉の意味を理解出来ないまま、柚希へと助けを求めて視線を送れば、『彼女が共有者で良いですか?』と赤文字が切り替わった。


「ん~?? ……ゆずちゃんなら大丈夫っ!!」


 何の根拠もないままに、美雪が自信満々にうなずく。


「え? きゃっ!!」


 突然現れた小さな光が、柚希の胸ポケットへと飛び込んだ。


「……なに、これ?」


 恐る恐る胸ポケット目指して、柚希の白い手が伸びる。

 指先に摘ままれた、ふちのない眼鏡が姿を現した。



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