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3-10話 初めての魔石


 結論から言えば、麻衣の願いはかなわなかった。

 美雪の顔を見た瞬間に土下座を決め込み、あふれ出る思いをそのまま口にしたせいで、美雪がひどくおびえてしまったのだ。


 最終的には、定期的に魔石をプレゼントすることと、史記が剣術を学びに行く約束を条件に、秘密を守ると約束して、渋々帰って行った。


 そんなことがあった翌日の放課後。

 淡路家のダンジョンの1階に、史記と美雪、柚希、ペールの姿があった。


 来る途中に見つけた3階への階段を無視して1階へとやってきた史記達の目的は、魔石の話を実際に確かめてみること。

 2階は閉じ込められるのが怖いから1階にしておこう、ということになっていた。


 お昼寝をぐっと我慢して草むらを歩き、きょろきょろと周囲を見渡す。

 どことなく悩ましげな表情を浮かべた柚希が、真剣な瞳を史記の方へと向けた。


「魔石かぁ……。そんなすごいものがあるって知られちゃったら、大変なことになるよね……」


「だよな……。とりあえずは魔石で装備を強化して、さっさとダンジョンを攻略するのが良いのかなって思うんだよ」


「そうだね。ちょっともったいない気もするけど、史記くんやゆきちゃんの気持ちを考えると、それが1番良いと思うよ」


「律姉や麻衣先輩のことを考えると、いろいろ複雑だけどな。まぁその辺は、本当にあの透明な石がそんなにすごいものなのかを調べてからだけどな」


 考えを振り払うかのように頭を左右に振った史記が、再び周囲へと視線を向ける。

 そんな彼らの先頭を進むペールが、後ろを振り返ることなく史記へと声を飛ばした。


「ペールはずっと魔石だって言ってたですよ?? 食べるですか、って聞いたのです」


「あー、まぁ、そう聞かれた気がするけど、食べると剣に使うのではまた別だと思うぞ?」


「そうなのですか?」


 きょとんとした顔でペールが首をかしげる。

 ん~、と悩む素振りを見せながら、無邪気な笑顔で振り向いた。


「過ぎたことは気にしたらダメなのですよ。敵を発見したのです」


 歩みを止めて前方へと視線を戻したペールが、ガサガサと揺れる草むらを指さした。

 そこにいたのは、幾度となく戦闘を繰り広げた小さなスライム。


 草むらをかき分けながら飛び跳ねる姿を確認した柚希が、すかさず声を飛ばす。


「美雪ちゃんの魔法だと火事になっちゃうし、史記くんは武器に不安があるから、ペールちゃんにお願いしていいかな?」


「任せるのです」


 両手に持つ小さなナイフを握り締めたペールが、ツインテールをなびかせて草むらを駆け下りる。

 ぷるぷると身構えるスライムに接近すると、舞い踊るように切りつけた。


「やぁっ!!」


 すくい上げるような軌道で放たれたナイフが、スライムの体に吸い込まれる。

 ナイフが後方へと通り過ぎた一瞬の後に、スライムがぺったりと地面に崩れ落ちた。


「最初はあれだけ苦労してたのに、今なら瞬殺か。これも魔石の効果なのかねぇ」


 何度も見慣れた姿にほっと息を吐き出した史記が、軽い足取りでスライムに近付き、<採取のナイフ>をあてがう。


 手早く取り出した青い魔石を手に持ち、食い入るように見詰めた。


「これを武器に食べさせると強くなる、ねぇ……」


 うさんくさそうに首をかしげた史記が、ペールの方へと視線を移す。


「どうやって食わせるかわかるか?」


「はいなのです。ツンツン、と2回触れさせるのですよ」


(いや、おまえはバリバリもぐもぐ食ってたよな?? どう考えてもツンツンなんて可愛らしいものじゃなかったよな??)


 だまされているような気分になりながらも声には出さない。

 その代わりとして、美雪と柚希に視線を向けた。


「俺が最初にやってみてもいいのか?」

「うん」「気をつけてね」


 2人の言葉に背中を押された史記が、<普通の木の枝>の先を魔石に押しつける。


 ツン、……ツン、ツン。


「うぉっ!!」


 一瞬にして強い光が放たれ、反射的に目を閉じる。

 まぶたの裏に感じる光が徐々に収まり、ゆっくりと目を開けた。


「おっ!! 姿が変わってる!! ……木の枝のままだけど」


 史記の手にあった枝が、少しだけシャープになっていた。

 不格好に伸びていた枝が切り落とされ、曲がりも緩やかになったように見える。


 <鑑定の眼鏡>の情報によると、<まぁまぁの枝>に変化した、とのこと。

 ほんの少しだけ硬く、ほんの少しだけ振りやすくなったようだ。


「すごーい」「……本当に変化しているね」


 史記が握る枝をまじまじと眺めた美雪と柚希が、目を輝かせる。

 ほんの少しだけの成長ではあるが、着実に良くなっている。その事実が、彼らの心に火を付けた。


「うっし、それじゃぁ、どんどんと狩って、どんどん進化させるか」


「そうしよっか」「らじゃ!!」

「はいなのです」


 本格的なスライム狩りが始まった。


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