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3-8話 バリバリ、もぐもぐ


 麻衣の案内で地下鉄を3駅進み、人の流れから外れて、階段下の物陰をのぞき込む。

 『冒険者以外立ち入り禁止』と、真っ赤な文字で書かれた扉に免許証をかざせば、下へと続く土の階段が姿を現した。


 ゴクリと息を飲む史記を尻目に、麻衣がスタスタと中に入っていく。

 

 もらった剣の柄に軽く触れた史記が、慌ててその後ろを追いかけた。


「天使ちゃんはここに来るのは初めて?? 水の上を歩くなんて、びっくりするでしょ」


「はい……」


 進んだ先にあったのは、水に満たされた空間だった。

 床や天井、左右にある壁までもが水を固形化して作ってあるかのようで、不意に水族館の水中トンネルを思い出す。


 だが、水族館よりも遙かに薄暗く、肌を刺すようなひんやりとした空気が恐怖感を強く感じさせた。


「なんか、沈みそうで、怖いですね……」


「この辺は大丈夫っ!! 走り回っちゃってもいいよ??」


「いや、走り回るのはちょっと……」


 恐る恐る水の空間に足を踏み出した史記が、恐怖で身を縮める。

 そんな史記の様子を眺めた麻衣が、首からさげたカメラを構えた。


「タイトルは『水面に降り立った天使』ねー!! くふぅ――っ!!」


 早くもやりたい放題だった。


 1枚、2枚と、心の赴くままに写真を撮り続けた麻衣が、突然ピクリと動きを止めて、ごほん、と軽く咳払いをする。


「え~っと、とりあえず、私は攻撃しないから、天使ちゃんだけで頑張ってね」


「え?? …………っ!!」


 弾むように背後に回り込んだ麻衣に不思議そうな表情をする史記だったが、数秒遅れて迫り来る殺気を感じた。

 薄暗い奥に、水の地面を歩くものがいる。


「…………カエル??」


 ゆったりとしたスピードで姿を見せたのは、頭に大きなツノを生やした青いカエルだった。


 大きさは史記の腰くらいで、スライムより大きく、岩鳥より小さい。

 だが、角という明確な武器がある分、いままで出会ったどのモンスターよりも強そうに思えた。


「頑張ってね、天使ちゃん」


 背後から聞こえる声に背中を押され、1歩、また1歩と慎重に前へと出る。

 貰った剣を正面に構えれば、鉄パイプとは違った確かな重みを感じ、浅く反射する光が頼もしく思えた。


 1歩、また1歩と、歩みを進めるにつれて弱々しかった足取りが次第に強さを帯びて、速度が増して行く。


「天使ちゃんの実力なら普通に勝てるからねー」


 背後から聞こえる麻衣の声援と、手元に感じる剣の力強さ。

 不思議と気分が高揚し、気が付けばカエルに向かって走り出していた。


「はぁっ!!」


 心を高ぶらせながらも、脳内は冷静に。

 鋭いツノに細心の注意を向けて、突きの体勢で構えた剣を軽く振り下ろす。


「ゲベッ!!」


 接近を嫌がるようにひと鳴きしたカエルが、首を大きく揺さぶって角を振り回す。


 ツノと剣が交わった瞬間、カエルの鋭いツノが輪切りになった。


「なっ……!!」


 予想以上の結果と手応えに一瞬目を見開いた史記が、ふっ、と息を吐き出して心を整える。

 右足を大きく踏み出して剣を振り下ろした。


「……グェベッ」


 ツノをうなったカエルに抵抗する力などなく、鋭く振り下ろされた剣がカエルの胴体を切り裂く。

 熱した包丁でバターを切ったかのような手応えだけが感じられた。


「……すげぇ、もしからした岩鳥もスパッと切れるんじゃないか??」


 惚れ惚れとした瞳で剣を見る。

 そのかたわらでは、動きを止めたカエルが、角だけを残して水の中へと沈んでいった。


「天使ちゃん、かわいいっ!! くへへっ」


 史記はただまっすぐに、カエルが沈んでいった空間を見るように心がける。


 周囲をくるくると走り回ってシャッター音を響かせる麻衣のことは、極力無視する。

 この手の人物は反応しないのが正しいと、律姉を見て学習した。


(カエルを食べたいと思わないし、勝手に消えて便利と言えば便利か……。普通に美味しいって話も聞くど……。あ、でも、中にある核くらいはお土産に持ってけば良かったかもな)


「麻衣先輩。ここってモンスターの部位は持ち帰れないんですか??」


「沈む前につかめば解体出来るよ。……天使ちゃん、カエル食べるの??」


 鶏肉みたいって話も聞くし、けど私は……、などと顔を引きつらせる麻衣に、史記が慌てて手を振った。


「いやいや、違いますって。まぁ、から揚げが美味しいって話も聞くんで食べてみたい気も――、じゃなくて、中にある核みたいなのを持って帰りたいんですよ。仲間のモンスターが好きみたくて」


「んんん?? 中にある核?」


「はい。あの石みたいなやつです。バリバリもぐもぐと美味しそうに食べるから、どうせならって思ったんですが」


「んんんん??

 ……モンスターの体内に石なんてないよ??」


「ん??????」


 何気なく言ったこの一言が、嬉しくもあり、面倒でもある状況を作り出すことになる。



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