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11話 新たな可能性


 真っ先に目に留まった木の枝を無視するように、宝箱の中を隅々まで目を向ける。

 木の枝以外に見つかったのは、手のひらサイズの紙が1枚だけ。


 手のひらサイズの紙を武器にするというのはあまりにも無理があるので、史記に与えられた武器は『木の枝』なのだろう。


『小学校の時は、これを武器にして、勝と一緒に勇者ごっことかしてたよなー』などと、現実逃避染みた感想を抱いた史記だったが、小学生を基準に考えると確かに木の枝は武器だ。


 宝箱から出て来た枝はバナナくらいの太さがあり、長さは史記の腕と同じくらい。

 もし成人男性がこれを武器にして闇討ちでもすれば、良くて打撲、下手すると死に至る。


 金属バットと比較すればその威力は劣るものの、手頃な太さの木の枝はどう考えても武器だった。


 だが、どのように言葉を取り繕うとも、木の枝で盛り上がれるのは小学生まで。


『俺も魔法を使えるようになるかも!!』などと、淡い期待を抱いていた高校1年生が落胆しない理由はなかった。


「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはどんな武器を…………」


 そんな史記の隣で自分の箱を調べ終えた美雪が、いつもと変わらないふんわりとした雰囲気で、何気ない問いかけを兄へと投げかけたものの、一目でわかるほど落ち込んだその姿に思わず言葉を失った。


 その手に握られた武器を確認して、困惑の表情を浮かべる。


「…………木の、枝?」


「うん……」


 重苦しい沈黙がその場を支配した。

 

 誰がどう見ても木の枝にしか見えない物だが、それはダンジョン内にあった宝箱から出て来たものである。

 そうした事実に気が付いた美雪が、ある種の望みをかけて兄に質問を投げかけた。 


「おにいちゃん、能力とかは?」


「っ!! そうだった。忘れてた!!」


(普通の木の枝を宝箱に入れる奴なんて居るはずが無い。この枝には特殊効果があるはずだ!!)


 そんな思いを胸に宝箱から出てきた木の枝を右手に持ち、ブンブンと振る。


「…………」


 史記の予想に反して、体が動かしやすくなることも無ければ、力が強くなった感覚も無い。


 もちろん、炎に包まれたり、稲妻が飛び出すことも無かった。


「使い方の問題、だよな?」


 一縷の望みを繋ぐためにそんな言葉を口にした史記だったが、美雪の口から最終通告とも呼ぶべき言葉が飛ぶ。


「あのね、お兄ちゃん。

 一緒に入ってた紙に、武器の説明が書いてあるみたいだよ?」


 手のひらサイズのあの紙。

 あえて見ないようにしてきた史記だったが、妹からそう言及されては見ない訳にはいかなかった。


「……あぁ、そうだな。紙、見てみるか」


 箱の奥地に眠っていた紙を手に取り、ゆっくりと裏返す。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 普通の木の枝



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そこに書かれていた文字は、これがすべてだった。


「普通の、木の、枝、…………なんだって」


「そうなんだ……」


 史記の心の中に住んでいた淡い夢は、跡形もなく消え去っていった。


 先ほどよりも強く、痛いほどの沈黙がその場を支配していく。


 木の枝をじーっと見つめたまま微動だにしない史記は、見るからに落ち込んでいた。

 たとえ、気心の知れた妹であっても、声をかけれそうもない。

 

 ゆえに、その居た堪れない空気を壊すのは、状況を作り出した史記自身しか居ない。


「……それで?

 美雪の武器、なんだった?」

 

「……えーっと、……うん」


一瞬だけ史記の手に握られた木の枝をちらりと流し見た美雪が、申し訳なさそうに1枚の紙を差し出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 鑑定の眼鏡


 能力 : 鑑定が出来るようになる



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 どうやら、特殊能力が備わった眼鏡らしい。


 眼鏡は武器なのか? と問われればすこしばかり疑問に思うものの、木の枝よりは格段に良いものだろう。


 情報に勝る武器は無い、そういうことなのかもしれない。


 そんな美雪の武器の説明書を見た史記が最初に抱いた言葉は『うらやましい』の一言だったが、さすがに妹の物を欲しがるほど兄として落ちぶれてはいない。


「あたり、だよな? 美雪。ちょっと装備してみろよ?」 


「うん。えっと? これって、普通にかければいいんだよね?」


 兄の要請を受けた妹が、焦らすように後ろを向く。


「…………、どう、かな?」


 照れながら微笑む最高の美少女が、そこに居た。


 細身のフレームながら可愛らしい雰囲気を醸し出すそれは、美雪のふんわりとした雰囲気とマッチしており、彼女の魅力を何倍にも高めているように感じる。


「似合ってるぞ」


「えへへー。ありがと、お兄ちゃん」


 眼鏡をかけた(みゆき)が、はにかみながら、ふんわりと笑う。

 その表情は、男心をくすぐるには十分な破壊力を秘めており、史記(シスコン)にとっては、これ以上無い報酬だった。


 眼鏡とのコラボという妹の新たな可能性を発見出来た史記が、満足そうな表情を顔一杯に浮かべて――


「よし、やることは済んだし。帰るか」


――意気揚々と、帰宅を宣言するのであった。



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