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3-4話 肩のひも

 それから9時間が経過頃。

 夕暮れ迫る柿本家に、スーツ姿の律姉と制服姿の史記の姿があった。


 律姉の定時には少しだけ早いのだが、史記の要請を受けた瞬間に仕事を放り出した成果である。


 一応、部長の許可は取り付けてある。

 史記の写真の提出を対価として勝ち取った帰宅だった。


 そんな律姉に対して少しだけ目を伏せた史記が、下から見上げるように視線を送る。


「ごめんね、律姉。突然来て。

 勝から聞いてると思うけど、ちょっと相談があってさ」


 かしこまるように身を固くした史記の口から出てきたのは、そんな言葉。

 対する律姉は、久しぶりに見る史記の可愛らしさに心からの笑顔を浮かべていた。


「いいのよ。史記ちゃんのためならお姉さんは地球の裏側に居たってすぐに飛んでくるから。どんどん頼ってね。

 というか、史記ちゃんは頼るの苦手だからね。頼られる方も嬉しくなる、ってことも覚えた方がいいと思うわよ?」


 史記の頭に手を伸ばした律姉が、小さな子をあやすかのように史記の髪をなでた。

 優しい手の感触に顔を赤くした史記が、送られてくる視線から外れるように少しだけ顔を背ける。


「頼られるのは良いんだけど、迷惑かけている気がしてどうにも……」


「まぁ、それが史記ちゃんの良いところでもあるのだけれど」


 肩をすくめて小さく笑った律姉が、頭に乗せていた手を離して少しだけ下へと持って行く。

 その目的地は、史記の胸元に光る小さなボタン。


「さてと、とりあえず、脱ぎ脱ぎしましょうか」


「…………」


「はい。バンザーイ」


 ある程度は予想出来ていた事態に、抵抗の意思をなくした史記が力を抜く。

 律姉の手で持ち上げられた腕から、スルン、ツルン、スルスルと服が剥ぎ取られていった。


「今日のおすすめはこれっ!! 夏を意識して肩を出してみたわ。ズボンもいつもより短めね!!」


 パンツとシャツだけになった史記の前に取り出されたのは、律姉が選りすぐってきた女性用の洋服達。

 上着は肩から背中の部分が大きく開かれた上に肩の部分がざっくりと切り取られており、なんとも涼しそうに見える。


 ズボンも史記が今現在はいているパンツと、大差ないように思えた。


「…………」


 新たな装備品を眺めた史記の表情が曇る。着たいとは到底思わない。

 だが、それで許して貰えるほど律姉は甘くはなかった。


「史記ちゃんはお姉さんのお願い聞いてくれないの? ……前回の貸し、残ってるよね??」


「…………はい。着させていただきます」


 前回の貸しどころか、今日はこれから律姉にお願いごとをする予定である。そのうえ、日頃から律姉の世話になっている自覚もある。


 着る以外に選択肢などないのだ。


 渋々ながらも自分から女性物のズボンをはき、上着をかぶる。

 真っ白な太ももに色っぽい肩、引き締まったお腹までもが空気にさらされた。


「かはっ!! いいわ。すごくいいわ!!」


 血の涙を流さんばかりに喜びをあらわにする律姉の手によって、靴下やウィッグ、マスカラなどが装着されていく。


「真っ白な服から伸びる肌色がステキよ!! チラリと見える絶対領域も最高ね!! 

 やっぱり夏はいいわー。露出度ましましっ!!」


 ギラギラとした笑顔を見せる律姉が、顔を引きつらせる史記を写真に収め続けた。


 興奮で肌が赤く染まり、心の底から湧き上がる笑顔が浮かぶ。

 していることには賛同出来ないものの、普通に綺麗だと思った。


(……まぁ、律姉が喜んでくれるならいいか)


 そんな思いを胸に、次々と襲い来るポージングの要請とシャッター音を耐え忍ぶ。

 表情の変化を読み解き、チャンスを待ち続けた。


「……律姉、お願いごと、聞いて貰っていいですか??」


「かはぁ――――!! 小動物を思わせるその表情もいいわぁ!!!! 最高よっ!!」


「いや、あの、律姉――」


「いいよ、いいよー。すごくいいよーー。もうちょっと服の肩紐を左側にずらしてみよっかー」


「…………」


「ぐふぅっ!! 清楚なイメージの中にいじめたくなるようなエロを混ぜるなんて!! さすがは、私の史記ちゃんね!!」


「律姉――」


「もう両肩のひもを外して貰う予定だったんだけど、これだけで十分ねっ!! いいえ、違うわね、これが最高よ!! 今の史記ちゃんは最高だわ!!」


「……あ、はい。ありがとうございます……」


「ふぅ、いい絵が取れたわぁ。よし、次はこの子で撮影ね!!」


「…………」


 指示されたポージングは数知れず、納められた写真の数もおびただしい量になり、律姉が新しいカメラに持ち替える。


 カメラチェンジを3回、衣装チェンジを5回行った後に、ようやく律姉の欲求が収まりを見せた。



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