3-3話 嫉妬
ゴールデンウィークが終わった月曜日。
誰しもが1週間ぶりに見る友人の姿に嬉しそうな表情を見せ、連休中の思い出話に花を咲かせていた。
退屈な授業は嫌いでも、気の許せる友人達に会えるのは嬉しかったりする。
そうして史記達もまた、激動だったゴールデンウィークの出来事について盛り上がっていた。
「いやな。ずっと、返信ねぇなー、とか思ってたけど、ずっとダンジョンに閉じ込められたって、ほんと何してんだよ。無茶苦茶し過ぎじゃね?」
「まぁ、事実関係だけを伝えればそうなるけどさ。実際はそこまで切羽詰まってなかったぞ?
さすがに岩鳥の大群に襲われた時はやばいと思ったけど、寝る場所はあったし、食べるものもあったし、なぁ?」
「あぁ、問題はなかった」
首をもたげた史記に対して、鋼鉄が素直にうなずく。
目頭を押さえた勝が、軽く肩をすくめた。
「あー、まー、おまえらがそう言うならいいけどさ……」
はぁ、とため息を吐いた勝が、珍獣でも見るような目を友人に向ける。
5日もの時間をダンジョンに閉じ込められていた。そのうえで、大量のモンスターを倒してきた。
どう考えても大事なのだが、本人達からすれば、そこまでのことではないらしい。
「果実とかキノコとか、すっごいうまくてさ。赤い岩鳥の肉は最高だったぞ?」
一応の苦労もしたのだが、頑張ったご褒美とでも言うべき食事のおいしさに、すべてがかき消されていだ。
「そうそう、岩鳥の肉が大量にあまったからさ、焼き鳥にして持ってきた。勝も食う??」
「おっ!? マジで!? 食う食う!!」
親友が大変な目にあったと聞いて気を揉んでいた勝が、うまい飯の相伴に預かれると聞いて目を輝かせた。
授業の開始までは数刻の猶予があるということで、焼き鳥を受け取った勝が、生唾を飲み込みながら大きな口を開けた。
目を閉じてうま味を口いっぱいに噛みしめた勝が、口角を吊り上げる。
「……おまえ、これめっちゃうまいな!! 出来れば熱々が食いたいけど、冷えててもめっちゃうまいぞ、これ!!」
「だろ? ペールに持ち運んで貰わないと日持ちしないのが難点だけど、ぶっちゃけ、ダンジョンも悪くないかなー、とか思ったよ」
「だな!!」
顔をほころばせながら1本分を食べきった勝が、名残惜しそうに串を口先に咥えて悩ましげな視線を史記へと向ける。
もう1本、いや、何十本でも、腹いっぱいに食べたいのだが、それ以上に聞かなければいけないことがあった。
「それで? ボクっ子が仲間になったんだろ?? 人数制限とかやばいんじゃなかったのか??」
「あー、それは、あれだ。現状じゃ全員が集まる日なんてなかなかないしさ。入れ替わり、立ち替わり、譲り合いの精神でなんとかなるんじゃね? ってことになった」
「ふーん。まぁ、いいけどさ」
そんな言葉を口にしながら、もう1本だけと断りを入れた勝が、次なる串へと手を伸ばして奪っていった。
「それで?? ボクっ子は今日から参戦か??」
「あー、それなんだけどさ。ちょっとだけ休もうかと思ってんだよね」
「ん? そうなのか??
まぁ、連休中はずっと潜りっぱなしだったみたいだし、休憩も必要か」
「いや、まぁ、うん。それもあるんだけどさ。
ぶっちゃけ、俺らよりも武器の方が限界っぽくてさ」
「あー、そういえば、鉄パイプがボコボコになったって言ってたな。
新しいものでも買うのか??」
「そういうこと。……でな。悪いんだけど、律姉って、暇だったりしない?? 相談事があるんだけど……」
「は? 姉貴?? いや、おまえが会いたいって言えば、2秒で飛んでくると思うけどさ。
おまえが、姉貴に、相談事??」
理解出来ないとばかりに目を見開いた勝が、史記の額へと手を伸ばして自分の額と比較する。
……どうやら熱はないようだ。
「いや、冒険者関連だと勝司弁護士に相談してもだめだろ?
ほかに頼れる人いなくてさ」
「あー、そういうことな。りょーかい。とりあえず、今日の放課後ってことで連絡しとくわぁ。
後で骨は拾ってやるから、安心して死んでこい」
「あはははー。……はぁ」
力なく笑った史記が、早くも疲れたかのような表情を浮かべてため息をついた。