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2-48話 決戦


「はぁぁーーーーー!!!!」


 大声を張り上げた史記が、先端にドリルを装着した鉄パイプを手に、壁に穴をあけ続ける岩鳥のもとへと駆け寄る。


 自分の倍ほどはありそうな巨体を前に、右手に握った鉄パイプ1本で立ち向かうなど、もはや自殺行為でしかないように思えるが、これ以上、その場でじっとしていることは出来そうもなかった。


 鳥居が消滅してから4時間。


 ずっと内側にためこみ続けた歯痒さを起爆剤に、史記が赤い岩鳥の懐へと走り続ける。

 そして、赤い岩鳥との距離が近付くとともに、周囲の雑音が気にならなくなり始めた。


 ――そんな矢先、


「ギュェェェ!!」


 史記から放たれる殺気を感じた赤い岩鳥が、クルリと後ろを振り返る。


 その鋭い視線を正面から受けた史記が、思わず足を止めた瞬間――史記の目の前を岩の羽が通り過ぎていった。


「くっ……」


 どうやら、振り向きざまに自慢の羽を振るったらしい。

 

 間一髪で直撃を免れた史記だったが、巻き起こった風圧はすさまじく、吹き飛ばされまいと、大きく足を広げて踏ん張った。


 風に飛ばされた大小様々な石が、史記の体を襲い、切り傷や打撲を作り上げていく。

 両手で顔をかばい、思わず目を閉じた史記が、再び視線をあげた時には、巨大なくちばしが目の前に迫っていた。


「っ!!」

 

 壁に大穴を開けていた赤い岩取り自慢の武器が、猛スピードで襲い来る。


 反射的に地面を蹴り上げて横に飛び、砂利道の上を滑る。

 右腕すれすれを通っていったくちばしが、そのままの勢いを保ったまま地面にぶつかり、大量の砂利を周囲にまき散らした。


(一撃でも食らえば終わりだよな)


 先ほどまで自分が居た場所には、クレーターと呼ぶにふさわしいような大穴があいている。

 大木に穴をあけ、地面をも粉砕する。そんな攻撃を受け止められるはずもない。


 だが、どれほど無謀だろうと、引くつもりはなかった。


(この隙にうまく逃げてくれよ……)


 念を送るのは、<参の壁>の上。


 赤い岩鳥から視線をそらすことは出来そうもないが、柚希なら大丈夫だろう、と自分に言い聞かせる。

 そしてすぐに来るであろう次なる攻撃に備えるべく、体勢を立て直した。


 ――その瞬間、


「ペールちゃん!!!!」

 

 焦りをにじませた柚希の声が、史記の耳に飛び込んできた。


 首だけで振り返った史記の目に映ったのは、壁から飛び降りる少女の姿。


「い゛!?」


 体を宙に投げ出したペールが、ビルの三階くらいの高さから落下していた。


 目を見開く史記を尻目に、重力に従ってそのまま地面へ激突し、くるんくるん、と地面を転がったペールは、何事もなかったかのように立ち上がる。


 そして、パンパンと軽くスカートのほこりをはらうと、史記の方に向けて走り始めた。


「あいつ、大丈夫なのか!? ……っ!!」


 あまりの出来事に、注意を割かれた史記の顔に、巨大な陰が落ちる。


「史記!!」


 次いで割り込んできた鋼鉄の叫び声に、はっ、と振り向けば、赤い岩鳥のくちばしが目の前に迫っていた。


「くっ!!」


 体勢を崩しながらもくちばしにによる攻撃を避け、横に飛んで転がることで迫り来る巨体を避ける。


 まさに間一髪。

 だが、赤い岩鳥の攻撃はとまらなかった。


 横を通り過ぎていった赤い岩鳥が羽を大きく広げて振り振り向くと、地面に転がる史記に向けて、再び鋭いくちばしを向ける。


 体勢を崩し、地面に這いつくばる史記に出来ることは、地面を転がることくらい。

 必死にくちばしを避けたとしても、後に続く巨体を避けることは出来そうもなかった。


(……どうしようも、ない、な)


 そんな諦めにも似た感情が、史記の脳内を支配し、全身から汗が流れ出る。

 もし出来ることがあるとすれば、自分の体を信じて、衝撃をできるだけ軽くすることくらいだろう。


(くちばしは避ける。体当たりだけなら……)


 くちばしを避けることに全力を尽くし、体当たりは甘んじて受ける。それ以外に道はない。

 そう覚悟を決めた史記が、赤い岩鳥を見据えて、腹筋に力を入れた。


 ――その瞬間、


「ふっ!!」


 突然走り込んできた鋼鉄が、足の裏で押すように、赤い岩鳥の巨体を蹴った。


「ギュェェェ!!」


 史記を突き刺そうと構えていた巨体が少しだけ揺らめき、不愉快そうな鳴き声をあげる。


 そして、グルンと鋼鉄の方に向き直った赤い岩鳥が、邪魔者を追い払うかのように、岩の翼をバサバサと羽ばたかせた。


「ギュォォォン!!」


 迫り来る風圧と大量の砂利を前に、溶けかけた大盾を両手で握った鋼鉄が、盾の先端を地面についたてて衝撃に耐える。


 時折飛来する大きな石が、鋼鉄の肩に強い衝撃を与えるものの、盾を斜めにずらしてやれば、耐えられないほどではなかった。


 そうして史記が体勢を立て直す隙を生み出して居ると、


「おふたりとも、無茶をしすぎなのですよ」


 両手に小さなナイフを握ったペールが、赤い岩鳥の背後をとった。


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