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2-47話 赤い岩鳥

 美雪が魔法を駆使して作り上げたお堀をものともせず、火柱をその身に浴びながら、巨大な岩鳥が転がり続ける。


 赤土を押し固めたような赤焦げたその体は、ほかの岩鳥たちと一線を画した風合いが見て取れ、

「炎の化身でも現れたのではないか」

 そう思わせる迫力があった。


(やばい!! あいつはやばい!!)


 そんな気持ちが脳内を渦巻く史記を尻目に、お堀を超えて速度を増した赤い岩鳥が、柚希たちの居る<参の壁>に衝突し、強い衝撃と破壊音を周囲にまき散らした。


「きゃっ!!」


 駆け寄ってきたペールに支えられた柚希が、揺れる壁に必死にしがみつく。


 そんな彼女たちをあざ笑うかのように、中央に渡された大きな丸太が、めきめき、と嫌な音を立ててへし折られた。


 そして、何本もの大木に体をめり込ませ、壁に大きなダメージを負わせながらも、その巨体が停止した。


「柚希!! 無事か!?」


 声を張り上げた史記の問いかけに返ってきたのは、柚希の落ち着いた声……ではなく、赤い岩鳥の鳴き声。


 岩の形態を解除した赤い岩鳥が、くちばしを空に向けて、高らかに声をあげていた。


「ギュォォォン!!」


 張り裂けるような声に、空気がびりびりと震える。


 体を覆っていた岩の翼を大きく羽ばたかせて首を伸ばし、まっすぐに空を見上げた赤い岩鳥の姿は、その体の色と相まって、グレートキャニオンの岩山が襲って来たかのように思えた。


 そんな赤い岩鳥の鳴き声に耳をふさぐ史記を尻目に、 火柱の向こうからも同様の鳴き声が発せられる。


「「「ギュォォォン!!」」」


 それは、炎の向こうに居る、大量の岩鳥たちの声。


『やつの後に続くぞー!!』


 そう言っているように思えた。


(やつら、炎の壁を超えれるのか!!)


 ひやりとした物が史記の心の中に巡り、赤い岩鳥の様子を片目に追いながら、火柱のむこうを注意深く見やった。


「「「ギュォォォン!!」」」


 騒がしい鳴き声が空に響き、火柱が風に揺らめく。


 だが、どれほど身構えようとも、それ以上何かが起こるようなことはない。


(……あの赤いやつ以外、超えられない??)


 その個体だけが、たまたま火に強かった。

 その個体だけが、美雪が作った溝よりも大きかった。


 いろいろな考えが史記の脳内をめぐるものの、重要なことは原因の特定よりも、現状への対処だろう。


 このまま、赤い岩鳥を放置すれば、柚希たちの居る壁は破壊され、柚希たちも無事では済まない。


「あいつを止めてくれ!! 撃てるやつはあいつを撃ってくれ!!」


 岩鳥たちの鳴き声が木霊する戦場に、史記の悲鳴にも似た声が響き、あっけに取られていたきつねたちが一斉に動き出した。


 幸いなことに、赤い岩鳥はその場で羽ばたいて鳴き声をあげるだけで、こちらに襲い掛かってくるよな素振りは見せていない。

 

 今がチャンスとばかりに、両サイドの森と少しだけ傾いた壁の上から、大量の狐火が飛んだ。


 飛来する狐火の数は20個以上。

 上空と左右から飛んでくる狐火が、赤い岩鳥の大きな体を容赦なく襲った。


 緩急を付けられた狐火たちは、互いを補うように飛んでおり、その巨体が避けて通れるような場所は無い。


 だが、対する赤い岩鳥は、避ける必要さえない、とばかりに、岩の羽を大きく羽ばたかせて、狐火を迎え撃った。


「ギュォォォン!!」


 岩の表面に貼りつきながらも、燃え続ける火の玉を朝笑うかのように、赤い岩鳥が高らかに鳴き声をあげ、一瞬にして岩の形に変わる。

 そして、その場でゴロゴロと転げまわり、付着した火の玉をもみ消していった。



「……効いてねぇ」



 再び鳥の形に戻った赤い岩鳥には、火の気はおろか、狐火を受けた跡すら残されていない。


「ギュォォォン!!」


 自信の力を誇示するように大きく翼を広げたその姿は、こちらの攻撃を無駄だと小馬鹿にしているようにも思えた。


 そんな赤い岩鳥の様子に史記がぼうぜんと立ち尽くしていると、不意に、そのくちばしが<参の壁>へと伸びる。


「ゃっ……」


 柚希の小さな悲鳴が聞こえると同時に、鋭い口先が大木を襲い、一瞬にして壁を突き破った。


 カツン、カツン、カツン、と次々に大穴を開けた赤い岩鳥が、その穴を見つめてうれしそうに岩の羽を羽ばたかせる。


 風圧が壁を襲い、全体がミシミシと揺れた。


(やばい!! なにか、なにかないのか!?)


 そんな思いで周囲を見渡すものの、現状を打開出来る作戦をひらめくことも無く、壁の上から聞こえる柚希たちの悲鳴だけが、史記の感情を支配していく。


 そして、不意に視界に入ったのは、腰にぶら下がった、1本の鉄パイプ。


 一瞬のためらいもなく愛用の武器を引き抜いた史記は、持ち手をぎゅっと握りしめて、砂利に覆われた地面を蹴り上げた。



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