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1話 妹の部屋のダンジョン

高校生が部活気分でダンジョンに入る。そんなお話です。

ほのぼの、ゆったり、のんびりです。


更新は『月・水・金』を予定しています。

よろしくお願いします。


アーススターノベル様より、書籍化が決定しました。

(2016/11/25)


「みにゃぁーーーーーーーーー!!!」


 ある晴れた昼下がり。


 高校に入って初めての日曜日を迎えた淡路 史記(あわじ しき)は、奇妙な叫び声を聞き、夢の世界から現実へと引き戻された。


 なんだよ、まったく、と口の中でぼやいてみるも、悲鳴の発生源など史記が暮らす家には1つしかない。


 妹の美雪である。


 彼は2日前にも同様の悲鳴を耳にしており、その時はバッタが部屋に入り込んでいたことが原因だった。

 ホコリが蜘蛛に見えたことが原因の叫び声は、4日前のことである。


 今週に入って3回目の悲鳴。

 またかよ、とぼやくのも仕方がなかった。


 だが、そんな慣れ親しんだ状況であっても、史記は律儀に妹の部屋に足を向ける。

 無視することで妹が不機嫌になるのを嫌った結果だった。

 

「どうしたー?」


 コンコンと妹の部屋のドアを叩くと同時に声をかけ、中からの返答を待った。


 寝起きの不快感が声に乗ることを嫌い、出来るだけ優しい声を心掛ける。

 面倒だと思いながらも、ノックは欠かさない。


 それが史記の流儀だった。


 妹からの返事を待つ僅かな間にも、史記の脳内を過去の記憶が駆け巡る。

 

 それは美雪が初めてこの家に来た日の事。

 晩御飯が出来た事を知らせるために妹の部屋を訪ねた史記は、着替え中の美雪と遭遇してしまった。


 当然のように響き渡る悲鳴。不機嫌になる美雪。

 

 最終的には『1時間を超えるお説教』と『ご機嫌取りのためのお菓子代』を引き換えに、命辛々許して貰った史記だったが、それ以降、ノックだけは何があっても欠かすことは無くなった。


 あれから数年たった今でも、妹の部屋のドアをみるたびに当時の記憶が蘇ってくる。

 その事実を鑑みると、当時の出来事は彼の脳内に深く刻み込まれているようだ。


 そんな過去のトラウマと言うべき思い出に脳内を揺さぶられながら、


(あれから3年たつけど、美雪の胸ってぜんぜん成長してないよな)


 などと少々危険な思考に支配されていた史記だったが、ドアの向こうからの声が届き、その危険な思考が停止した。

 

 もし美雪に史記の脳内を知る能力があったなら、彼の周囲は血の海になっていたことだろう。


 乙女の胸を酷評するなど、死刑以外有り得ない。


 たとえそれが事実であったとしても……。


「ぉ、お兄ちゃん? …………お兄ちゃん!!

 お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!!!!!!!!!」


 扉の向こう側から次々と飛来するお兄ちゃんコール。どうやら美雪はパニック状態のようだ。

 

 明確な答えでは無いが、一応の返答は貰った。あの時のように、1時間を超える説教と詫びのお菓子を要求されることはないだろう。

 そんな判断した史記が、目の前にあるドアノブに手を伸ばす。


 だが、伸ばしたその手がドアノブに触れることはなかった。


 史記が触れる前に、ドアが勢いよく開いたのだ。


「がふぁ!!」


 咄嗟の判断で腕を引き、後ろに飛び退いたものの、突然動き出したドアを避けることは出来なかった。


 ドアの角がぶつかった鼻を抑えて、崩れ落ちるようにその場でうずくまる。

 鼻血こそ出ていないようだが、かなりの衝撃だった。

 痛みのせいで、立ち上がることすら出来そうもない。


 だが、そのような状況を生み出した原因であり、今しがた開いた部屋の主である美雪は、目の前に広がる光景が理解出来なかったらしい。


ショートに切りそろえられた髪を揺らしながら、コテンと首を傾げてみせた。


「どうしたのお兄ちゃん?

 廊下とお友達になりたいの?」


 天然丸出しである。うずくまっていたからと言って、廊下とお友達になれるはずがない。


「いや、お前が勢いよく開けたドアで、鼻をぶつけたんだよ!!」


「ふーん、そうなんだ。ごめんね」


 一応の謝罪は行われたものの、ふわふわと飛んでいきそうなほど軽いものであり、美雪の表情にも反省したような色は一切見られない。


 そんな妹の態度に少しだけイラッとした表情を滲ませた史記だったが、彼が言葉を発する前に美雪が言葉を続けた。


「って、そんな場合じゃないんだよお兄ちゃん!!!

 これ見てよ!!」 


 そんな場合扱いである。どうやら鼻を痛めた兄に興味は無いようだ。


 思わず殴りたくなる衝動を必死に抑えながら、史記は促されるままに部屋の中を覗き込む。


 部屋の中にあったのは、大きめのタンスとピンク色のベット、所狭しと並べられたぬいぐるみ達、


 そして、地下へと続く無機質な階段。


「…………」


 鼻の痛みなど忘れて吸い寄せられるように階段へと近付いた史記が、妹の部屋に似つかわしくないそれをそっと指でなでてみる。


 階段の材質は石。それも一枚の岩からくり貫かれたかの様で、つなぎ目などは一切ない。


 昨日の夜、少女漫画の最新刊を借りるためにこの部屋を訪れた時には、階段などなかったはずだ。

 つまり、昨日の夜から今日の昼までの短時間で、ずっとそこに居た美雪に知られる事なく、いつのまにか地下に続く階段が出来ていたことになる。


 その事実が史記の頭の中を巡り、1つの答えを導き出した。 

 

「…………ダンジョンか?」


「うん……。そうだと思う」


 どうやら面倒なことになったらしい。

 そんな考えが史記の脳内を巡っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 部屋のドアは普通外に開くのではないでしょう。
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