プロローグ
偶発的に生まれた正義感は、時として全くの無駄となる。
もっと言うと、
所詮十七年しか人生というレールを走っていない俺が
厳しい世間の中で人助けできる力なんぞ微々たるものであり、
それを分かりやすく言い換えるならば
高校二年生という若輩者が、
その場のテンションに流されるまま行動するとロクなことにならないということである。
しかし、今日という日はまさに絶好調だった。
朝に見たテレビの星座占いで一位を獲得し、
偶然、昨日予習していた箇所が抜き打ちテストにそのまんま出てきて、
昼に売り切れ必死の限定やきそばパンをゲットでき、
下校途中、道端に転がっていた500円玉を拾ったのである。
……安っぽい、大変に安っぽいが、
高校生の絶好調といえば、所詮その程度の薄っぺらい幸運の積み重ねなのである。
そんなので幸福感を味わえるのだから、
日本という国は大変に平和的な土地であり、
そんな環境下で育ててくれた両親にも感謝を示したい。
「おいっ! 大変だ! 高校生が橋から落ちたぞ!」
それが、
下校途中にお婆さんからバッグをひったくった男をテンションに任せて追いかけ、
隣町に架る大橋の上までランニングした挙句、揉みあいとなり、
そのまま俺だけが橋の下へと転落している最中であったとしてもだ。
死に際の集中力だろうか。
こんなくだらないことを長々と考えていても、
まだ体は川底にはつかない。
もう少し神様とやらは時間をくださるようなので、
色々と無茶な注文を考えてみることにする。
そうだな、もし生まれ変わるなら、
異世界で勇者とかはどうだろう。
……いや、まてよ。それはそれで面倒だな。
勇者なんてのは規律と責任、
そしてお使い的な業務が多すぎて気苦労が絶えないのではないか。
外に出て魔物をバッタバッタ倒せるのは快感かもしれないが、
そもそもそんなに魔物が徘徊するような世界で、
わざわざ危険に身を投じる必要性があるのだろうか。
もう少し楽そうで、命の危険が少ない職業がいい。
とするならば現代で言う公務員的な役割を異世界に変換すると何なのだろう。
「……ギルドマスター?」
そうだ。
冒険者に仕事を与え、それでいて自分は剣を振うことなく事務仕事を全うする。
例え危険な世界にあっても、
そこからの距離は近すぎず、遠すぎず。
極めて絶妙な立ち位置で成り立っているじゃないか。
嗚呼、もし第二の人生を始められるならそんな物語を。
そして、俺は川に落ちた。