剣と魔法とスマホ-2-
岩田遼太郎はひとりごちた。
「今日も一日、無事におわったな……って、『剣と魔法』の世界にいること自体、無事でもなんでもないじゃないか」
ふとしたことからスマホを持って「剣と魔法」の世界にトリップしてしまった、高校2年生の岩田遼太郎と恋人の永山 純。
盗賊団を退治したので、村長を始め、村の人たちから感謝されていたが、いつまでもタダで食事と宿を提供してもらうわけにもいかない。
「なにか、仕事をしなくちゃいけないかな」
そんなある日、村長の元に立派な法衣を着た客が訪れた。
ほどなく、魔法使いのアデラから、「遼太郎さん、純さん、村長の家に来てください」と呼ばれる。
「なんでしょうか」遼太郎は村長のいる部屋に入った。
村長は「おお、遼太郎さん、ご紹介します。こちら、隣町の寺院の管長です」
「はじめまして、岩田遼太郎です」
「永山 純です」
「私は隣の町で寺院を管理しています。実はここのところ、墓泥棒が出現しておりまして。私たちの町では、亡くなった方を土葬するのですが、その際、金銀など、高価な宝飾品を一緒に埋葬するのです。ところが最近になって、それらが掘り起こされ盗まれていくのです」
「墓泥棒とは人騒がせですね」
「村長から、あなた方お二人が盗賊団を退治されたとうかがいました。ぜひ、私たちにお力を貸してもらえないでしょうか」
「はあ、俺たちで役に立てるかどうかわかりませんが……あのう、こんなことを言うのも何なのですが、俺たちはお金を持っていません。いまでもタダで食事と宿を提供してもらっているんです。もし成功したあかつきには、報酬をもらえないでしょうか」
「もちろんですとも。墓泥棒を退治してくれたら、それ相応の謝礼はいたします」
「そうですか、ありがとうございます」
「ではさっそく、隣町の寺院に出かけましょう」と遼太郎。純もうなずく。
「おお、遼太郎さん、先日取り返していただいた『伝説の剣』をお持ちください。きっと役に立つでしょう」
「それではお借りしていきます。ありがとうございます」
遼太郎、純、魔法使いアデラの3人は、管長に連れられて、隣の寺院へと向かった。
「あいにくですが、私どもの寺院は修行僧がたくさんおり、遼太郎さんには相部屋となっていただきますが、よろしいでしょうか」
「もちろん結構ですよ」
「では、こちらへ」通された部屋には、遼太郎と同い年ぐらいの青年僧侶がいた。
「はじめまして。私の名前はバリーです」
「バリーさん、こんにちは。遼太郎です」
「遼太郎さんはどちらからやってきたのですか?」
「えーと……説明すると長くなるのですが、異世界からやってきたとでも言いましょうか」
「はあ」バリーは半信半疑でいる。
「バリーさんはどういうきっかけで僧侶の道に?」
「実は幼くして父を亡くしまして、そのとき弔っていただいた僧侶の方に、この道を紹介されたのです」
「本当ですか? 俺も小さい頃父親を亡くしているんですよ」遼太郎はバリーに親近感を感じた。
遼太郎はスマホのYouTubeを見ながら、剣の稽古をした。
そして数日後。寺院から純の姿が消えた。
「純、純、どこへいったんだー」遼太郎は叫んだ。「そうだ、スマホがあった。電話してみよう」
しかし何回コールしても純は電話にでない。
メールを送ってみる。しかし返事は来ない。
「いったいどうしたんだ」
管長に相談する。「もしや、邪教集団にさらわれたのでは」と管長。
すると、遼太郎のスマホが鳴る。メールの着信音だ。
「こちらは邪教集団。墓泥棒をしたのはわれわれだ。金を30キロ、『こだまの森のほこら』に持ってこい。ただし、僧侶1人で来ること。娘を誘拐したのもわれわれだ。金を持ってきたら娘は解放してやる」とメールには書かれている。
遼太郎は再度、純に電話をかける。しかしあいかわらず電話にはでない。
管長にメールを見せる。「これは何ですかな」と管長が訊く。
「まあその、遠く離れていても瞬時に手紙が送れるような道具です」
「なるほど、金を30キロ持ってこいとありますな。いなくなった純さんの身に危険が迫っているのかもしれない。だれかに金を運ばせましょう」
「僕がやります」そう言ったのはバリーだった。
「バリー、きみがやってくれるのかい」
「純さんの命にはかえられないよ」
「ありがとう、バリー」
しかし管長は、「私どもの手元には金が10キロしかありません」と言った。
バリーは「しかたありません。10キロだけでも相手に渡しましょう」
管長は、「これはのろしを上げる発煙筒だ。なにか危険な目にあったら、これを使うとよい」と発煙筒をバリーに渡した。
「わかりました」そう言ってバリーは、『こだまの森のほこら』を目指した。
そしてほこらに到着する。まわりから突然、5人の僧侶が現われる。
「おまえたちは何者だ」バリーが叫ぶ。
「墓泥棒をしていた邪教集団だよ。おまえたちの寺院をつぶそうと考えてな。どうだ、約束の金30キロは持ってきたか」
「うちでは金10キロしか用意できなかった」
「ははーん、約束違反ってことだな。悪いがお前には死んでもらう」
バリーはのろしを上げる。
邪教集団は、「真空の刃」の攻撃魔法を使ってバリーのことを襲う。バリーは治癒呪文を使うが、5人を一度に相手にすると、とてもかなわない。
「これはもらっていくぜ」金を手にして、倒れたバリーにそうひとこと言い残し、邪教集団のメンバーは去って行った。
一方の遼太郎がいる寺院。
「のろしが上がりました」「うむ、皆でほこらに行ってみることにしよう」管長以下、僧侶5人、遼太郎、魔法使いアデラがほこらへ向かうことにした。
僧侶たちは長い棒を手にしている。
「それは何ですか」と遼太郎が尋ねる。
「これは『六尺棒』と言いましてな。棒術で相手を攻撃し、自分の身を守るのです」
そして遼太郎は「伝説の剣」を持った。
管長たちはバリーが殺されているのを見つけた。
「なんとむごいことを」
すると遼太郎のスマホの着信音が鳴った。純からの電話だ。
「もしもし、遼太郎? 私、今、捕まっているの」
「おまえ、なぜ『僧侶一人で来い』なんてメールを書いたんだ」
「あれはこちらの僧侶たちに脅されて書いたメールなのよ。信じて」
「おまえは今どこにいる?」
「『こだまの森のほこら』から東1キロの地点の崖にある神殿よ。早く助けに来て。あっ、敵が近づいてきたわ。ぐっ……」
「もしもし、もしもし」通話は切れた。
管長たちは急いで神殿をめざすことにした。
息をきらせながら、「ようやく着いたぞ」と管長が言う。
「でてこい、邪教集団。よくも仲間を殺してくれたな」
すると黒い法衣に身をつつんだ僧侶たちが、5人、現れてくる。
「なにをこしゃくな。返り討ちにしてくれるわ」
管長が連れてきた僧侶たちは、六尺棒を使って相手になる。
アデラも「炎の矢」の攻撃魔法を使う。「あちちっ」敵に命中し、やけどを負わせる。
一進一退の戦いがつづく。攻撃を受けた相手も、治癒呪文を使い、傷をふさいで参戦してくる。
遼太郎は「俺の出番だ」と伝説の剣を抜く。
アデラが「武器強化」の魔法を唱える。伝説の剣が青色発光ダイオードのようにに輝き始める。
「やあっ」一閃のもと、相手に斬りつけていく。
やっとの思いで敵を倒す。「純を探さなければ」一行は神殿の奥をめざす。
「よくここまできたな」邪教集団の首領が言う。
純はベッドに寝かされている。
僧侶たちが六尺棒を構える。
「おっと、無駄だよ。私には「物理防御」の魔法がかかっているからね。物理的に攻撃しようとしても私にとどかないよ」
僧侶の一人が首領に棒を振りかざす。しかし、首領には届かない。目に見えない壁に、
はね返されてしまうようだ。
首領は強力な攻撃魔法を使ってくる。「真空の刃!」
僧侶たちの法衣が切り裂かれ、血が噴き出す。
管長が回復呪文を使う。みるみる傷がふさがれていく。
遼太郎は管長に「俺が相手をひきつけますから、その間に純を助け出してください」と言う。
「よし、わかった」管長はうなずく。
遼太郎は「魔力解除」の呪文をスマホで検索する。「アデラ、一緒に『魔力解除』の魔法を唱えてくれ」
「わかったわ」
遼太郎は「倒したかったらここまで来てみろ」と、首領を神殿の外におびき寄せ、アデラと一緒に「魔力解除」の呪文を唱える。
そして「伝説の剣」で斬りつけていく。
首領は「真空の刃」の呪文で、遼太郎たちを攻撃してくる。
目に見えない刃で切り裂かれる恐怖。
遼太郎たちはじりじりと追い詰められ、僧侶の一人が崖から転落してしまう。
「落下制御」すかさずアデラが呪文を唱える。
落ちていく速度が遅くなり、僧侶はふわりと着地した。
首領がアデラに注意を向けている間、遼太郎は間合いを詰めて、首領に斬りかかる。
ざん、っと一撃をくらわす。魔力解除の呪文が効いていたのか、見えない壁に、はねかえされることはなかった。
「これまでか……」首領は倒れて動かなくなる。
「さあみんな、寺院に戻るぞ」と遼太郎は声をかける。
僧侶たちが純を救い出してくれる。
そして金10キロを取り返し、寺院に戻る。
純が意識を失ったままだ。顔も青ざめている。
アデラが「魔力感知」の呪文を唱える。どうやら魔法の力で眠らされているようだ。
「この魔法を解除する方法を知っていますか」と遼太郎は管長に訊く。
「うむ、魔方陣を作って祈りをささげれば、きっと眠りから覚めるだろう」と管長は応える。
さっそく寺院の中庭に、大きな魔方陣が描かれた。
真ん中に純を寝かし、僧侶たちが呪文を唱え始める。
だんだんと純の顔に赤みがさしていく。
やがてぱっちりと目を開け、「ここはどこ?」と純が尋ねる。
「純、純、無事に治ったか。もう安心だ」遼太郎が駆け寄る。管長も汗をぬぐう。
「さて、バリーを弔ってあげなければ」
管長の一言で皆が現実に引き戻される。
「遼太郎さん、このたびは私たちに力を貸してくれてありがとう。これはお礼の報酬です」
「ありがとうございます。これでしばらくは食事と宿に不自由しないで済みそうです」
「遼太郎、私たち助かったんだね」と純が遼太郎に抱きついてくる。
遼太郎は顔を赤くしながら、「よせよ、みんな見ているじゃないか」と言った。
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