時の妖精
ふと、視線を感じた気がした。
寝台の上で身を起こす。
何もないはずの空中で、道化が浮いていた。
赤と黒のだんだら模様の膨らんだ衣装を着て、房のたっぷりとついた巨大な帽子。その帽子の下からこぼれる銀の髪。
細面の顔は、右半分は全く色味がなく、左半分はどぎつい極彩色の模様がえがきこまれている。
左半分は余りに塗りこまれているためかの造作はよくわからない。左半分は女のように整った顔立ちだった。
テオドールはしばらく固まってそれを見ていた。
これはいったい何?
寝台の上で座ったまま石化している少年にそれはにんまりと笑いかけた。
「お前、不幸だね」
身も蓋もない言葉にテオドールは復活した。
「なんなんだよ、お前」
一応一番わかりやすい疑問を提示する。
「俺は妖精だよ」
妖精といわれてテオドールが想像したのは、小さな羽根の生えた人形くらいの少女の妖精だった。
妖精の概念をそれ以外想像したことがなかったのだ。
「妖精…?」
語尾に思いっきり疑問符がついたとしても全く不自然ではないだろう。
「つかさどるものは時間だ、お前が想像したのはお花の妖精だな」
先ほどの連想が読まれているのだろうかとテオドールは冷や汗をかいた。
「なんでわかる?」
「わかるさ、どうも一番連想しやすいのがその妖精らしいからな」
どうやら頭の中を読まれているわけではないと大きく息を吐く。
そして安どしている場合じゃないとベッドから飛び降りた。
「だから何の妖精でもいいから、なんでぼくの部屋に妖精なんかがいるんだ」
一気にまくし立てた。
「それはお前が不幸な子供だから」
時の妖精は空中で一回転した。
何かにぶつかればよかったのに。
テオドールはこの時ばかりは無駄に広くて殺風景な部屋を呪った。
「お前は不幸だ。父親はお前に興味がなく、母親はお前にすがるばかり、お前をかわいがろうとしない。周りの大人達は、そんなお前に見て見ぬふりをするばかりだ」
時の妖精の言っていることはとっくにテオドールにはわかりきったことだ。
「聞きたくないって耳をふさげばお前の気にいるか?」
テオドールはつまらなそうに笑う。
「そんなことをする可愛げも、失って久しいのだろう?」
時の妖精も嫌な笑い方をした。
「まあいい、不幸な子供に限り、妖精は手助けできるのだ」
「手助けね」
テオドールは半眼になって妖精を上から下まで見定めた。
出した結論、胡散臭い。
「なんだその疑いに満ちた視線は」
「どうして疑われないと思えるんだ?」
テオドールの心からの疑問をあっさりと無視して時の妖精は続けた。
「私は時の妖精、だから時間をさかのぼり、お前の不幸の原因を取り除こう」
そう言って踊るように一礼した。
「帰れ」
テオドールはそう言って窓を指差した。
時の妖精と打ち込むと土岐の要請と出てしまいます。なぜでしょう。