枯れていく
萎れた苗を見下ろしてセシリアはため息をつく。
この苗はセシリアのお気に入りの軽く黄色のかかった赤い花が咲くはずだったのに。
がっかりしたセシリアは、シャベルで、苗を掘り返した。
あいた隙間に何か植えられるものは。
「カルミアに何か用意してもらわないと」
花の苗を手に入れるつては、カルミアに頼むしかない。夫となったカーマイケルは園芸に興味がないようだ。
主がそうなら、部下もそれほど詳しくはない。それにこの館に雇われている庭師は」専属ではない。
月に一度の割合で、庭木の手入れに訪れるだけだ。
「ああ、ついていない」
貴族の娘でなければ舌打ちをするところだ。
セシリアが自由にしていいのはこの花壇だけだ。他の庭は手を出すことを許されていない。最も許されていたとしても、体力的に庭すべてを管理するなどできはしないのだが。
掘り出した苗は別の場所に埋める。
最近枯れる頻度がひどくなってきている。何か悪い病気がはやっているのかもしれない。
そう思ってため息をつく。
そんなセシリアをテオドールは見ていた。
セシリアを見ていても何もわからない。
裏切り者のセシリア、でもいったい何を裏切ったというのだろう。
セシリアは、女中に用事を言いつけて、枯れてしまった苗を別の場所に埋める。
なぜ話した場所に埋めるんだろう。
そんな疑問は次のセシリアの言葉で氷解した。
「何か病気がはやっているのかしら」
枯れる頻度の高さに、伝染病を疑っていたらしい。
そんな無邪気な姿を見ているとテオドールはわからなくなる。
今のセシリアがいったい何を裏切れるというのだろう。
テオドールは心から疑問に思った。
セシリアは何もわかっていない。今父がどう政治的危機を抱えているかも今この家の現状も、そして実家の問題も。
ただ花壇を世話しているだけだ。
何も知らないのに、裏切るもへったくれもあるんだろうか。
そこにいる。ただの世間知らずなお嬢様に父を裏切るなんて高度な真似ができるのか、それとも、これは彼女の芝居なのか。
それとも、何かが間違っているのか。
そこまで考えて、テオドールは首を横に振った。
今考えてどうにかなる問題じゃない。
セシリアは泥に汚れた手を、ハンカチでぬぐう。
そして、テオドールの横をすり抜けて言った。
その後ろ姿をテオドールはしばらく見送っていた。




