雪山の一軒家
初めてホラー系に挑戦してみました!!
…とは言っても全然怖くないですが…(-_-;)
でわ、どうぞ!
――ねぇ、知ってる?
――〇〇山のどこかには、不思議なひとがいて
――何でも願いを叶えてくれるんだって……
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窓の外の真っ白い雪景色――ここでは日常の風景を見ながら、わたしはほぉっと息をはきました。
外の寒さがまるで嘘のようにこの小屋の中はぽかぽかと暖かく、思わずウトウトとするくらいです。
「眠いのかい?」
わたしの様子を見てか、そういって彼女はクスリ、と笑い、暖かくしたミルクを一口飲みました。
彼女は、長い黒髪の美人さんなのに、どこか中性的な感じがします。それはきっと、自分のことを『ボク』っていったりする…男の子っぽい喋り方のせいだからでしょう。
わたしは少しむっとした顔を作って言い返しました。
「この部屋があんまり暖かいからです。今はシチュー温暖化?とかでしーおーつーの削減が求められてるのに、こんな生活でいいんですか?全然『えろ』じゃないです!!」
「シチュー温暖化じゃなくて『地球温暖化』。『えろ』じゃなくて『エコ』だよ。…まぁ、CO2の削減って言えたから50点ぐらいかな?」
「うぬぬ…と、とにかく!!もうちょっと地球さんのためにやさしいことしましょうよ」
「ほほう…じゃあ、キミはここの気温が外と同じくらいになってもいいのかい?
ま、ボクはあんまり気にしないけどねぇ」
「うにゅう……」
そういわれると、何も言い返せません…。悔しいです。
彼女は、いつもこんな風にわたしをからかいます。いつか、見返してやる!!…と思っているのですが、今のところはたせていません……。
ちょっぴり怒ったのでぷいっとそっぽを向くと、たまたま窓の外に目が行きました。
少し急な斜面を、4人の人影が登ってきます。1人は知っている人――ここまでの案内人の『すみれ』ちゃん。もう3人は知らない女の人たち。…ここの噂を聞いてきた町の人たちでしょう。つまりは『お客様』です。
彼女も気づいたらしく、いそいそとものを片付けてお客様を迎える準備をし始めました。久しぶりのお仕事なので、彼女も心なしかうきうきとしています。
やがてコンコンと扉を叩く音がしました。「どうぞ」と彼女が言うとキィ…という軋んだ音がして扉が開きました。
「いらっしゃい。貴方は何をお望みかな?」
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彼女は、『人の願いをかなえる』お仕事をしています。
ずうっと昔から、先祖代々に渡って続けているので、いつしか『〇〇山の都市伝説』として下の村の方まで広がっていきました。
きっといつからか『ネット』とかで情報が一気に広まったのでしょう。最近はこうして色々なところから人がきます。
本来なら商売繁盛で嬉しいことだと思うのですが…
「アハハハハ!ほんとにいたよ。都市伝説じゃなかったんだぁ。」
「マジだとは思わなかったねぇ?」
「じゃあさじゃあさ~オネガイゴトでもさっさと叶えてもらおうよぉ。ね、リカ、トモコ」
…こんなふうに冗談半分とかで来る人たちも増えてきてしまいました。
正直に言うと、わたしはこんな人たちが好きではありません。だいだい、まずは連れてきてくれたすみれちゃんにお礼を言うべきでしょう!?礼儀知らずにも程があります!!
彼女も同じ気持ちなのか頬がぴくぴくと動いています――が、あくまで『営業スマイル』を崩しません。さすがはプロ。けど、ちょっと…いえ。かなり怖いです。
その顔のまま、もう一度彼女は繰り返しました。
「貴方たちの望みは、なんだい?」
「んーとね。じゃあ、『銀色の眼』が欲しいなぁ~。」
「り…リカ!?なにその願い!」
「ふふん。だってそうすればカラコンなんか要らなくなるじゃ~ん」
女の人たちの代表らしい『リカ』と呼ばれた人が下品にギャハハ、と笑いながら、一気にまくしたてあげました。
彼女は小首をかしげました。
「それは…『瞳の色を銀色にする』ってことでいいのかい?」
「そうそう、そーゆーこと!!」
「……毎度あり!」
彼女はにっと笑いました。
いけすかない相手でも『仕事』ができれば嬉しいのでしょう。私が女でなければ惚れてしまいそうな笑みです。
「じゃあ、準備が少しかかるからね。その間、下の方でスキーでもしているといい。板はそこら辺に置いてあるから。」
「え!?いいの?ってどのくらいかかる?」
「今日の夕方には準備できるはずだよ。」
「意外とはやぁ~い。さっすが『何でもかなえてくれる人』だね」
「じゃあ、早速外でも行こぉ~。ちょーど晴れてきたみたいだしぃ。」
そういうとリカさんたちは勢い良く外へと飛び出して行きました。
それと同時にすみれちゃんが、がくりとひざをつき倒れました。
私は慌ててかけよります。
「すみれちゃん!!」
「だ…大丈夫です。少し……疲れただけですから」
「無理はしないほうがいいよ、すみれさん。キミはもうだいぶ高齢なんだから。
…別に、案内役は居てもいなくてもどちらでも構わないんだから。」
「いえ…ただ、私がここに来たいってだけですから。」
「そう…じゃあ、あいつらが来るまで休んでいるといい。
さて、と…あの人の願いをかなえる準備をしなくちゃいけないね。手伝ってくれるかい?」
「分かりました。すみれちゃん、しっかり休んでるんですよ?無理したら針5000本飲ましちゃいますから!!指折りです!」
「怖い怖い!針は千本、指切りだよ」
「どっちでもいいじゃないですかぁ!!」
こ…こんなときまで私の言い間違いは続くのですか…!!
恥ずかしすぎます……。
「ふふ…分かりました。あなたにそう言われちゃあたまりませんね。
年寄りは黙っておとなしくしてますよ。」
すみれちゃんはおかしそうに笑うと、私と指お…ではなく指切りをしてくれました。
そして私は彼女に頼まれた物を取りに、下の方にある倉庫まで降りていきました。
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倉庫から帰る途中、スキーをしているあの人たちを見かけました。
雪だらけになっているところを見ると、何回も転んだのでしょう。目を凝らすと、鼻の頭などが真っ赤になっています。いい気味です。
ただ…本当に楽しそうにきゃいきゃいと笑っていて、羨ましいです。
だって私は、スキーはできませんから。
どんなにやりたくても、私のこの体では…絶対にできませんから。
「羨ましい、なぁ……」
思わず、本音がポロリと出てしまいました。
その瞬間、3人のうちのひとりがこちらを振り向きました。
「!!!」
まさか…私に気づいたのでしょうか!?
心臓がばくばくと鳴り、呼吸が速くなります。
そのひと――確かトモコさん――は私の方をじぃぃっと見ていましたが、やがて小首をかしげながらぷいっとあちらを向いて行ってしまいました。
私は大きく息を吐き出しました。
目と耳がいいのかと思ったけれど…どうやら今回も違ったようです。
「…誰か、私を見つけてくれる人はいるのでしょうか?」
呟きは、今度こそ誰にも聞いてもらえませんでした。
ふと日を見ると、もう高々と登っていました。急がなくては、準備が間に合いません。
私は先ほどよりペースを上げて道を戻っていきました。
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「ちわーっす!!準備、できましたか?」
彼女たちが帰ってきたのは、日がとっくに沈んだころでした。
早く来られるよりはいいのですが、少し気持ちがむかむかしてきます。
そんな私を尻目に、彼女はとびきりの営業スマイル(でもやっぱり頬が引き攣ってる)で言いました。
「随分な遅刻だね…。まぁいい。
さぁ、手術をするからこちらへおいで。他の人はそこでしばらく待っていてくれ。」
「はーい」
「リカ、頑張ってねぇ」
「フフッ出てきたときにびっくりしても知らないわよ?」
そういって、リカさんと彼女は奥の部屋の中へと消えて行きました。
『じゃあ麻酔を打つから、じっとしてて…。
術後は、火の取り扱いには十分に注意するんだよ?』
『はいはーい。さっさとお願いしマース』
そんな言葉が、扉の向こうから聞こえました。
それきり、小屋は静まり返りました。
しばらく経った後、私は少し希望を抱いてトモコさんに質問をしました。
「どうして、願い事をしなかったんですか?」
「ウチはねぇ、ホントはさ。しようと思ってたオネガイゴト、いっぱいあったんだぁ。」
「ふうん?」
「……え?」
私は間抜けな声をあげてしまいました。
一瞬私の質問にトモコさんが答えてくれた気がして…。
けれどすぐにもう一人の人――アカネさんに向けて言った言葉だと気づきました。
アカネさんは軽くうなずきました。
トモコさんはそのまま続けます。
「でもここに来たとき、まぁ正確にはあの人の言葉を聞いたときかな?
絶対おかしいって思ったのよ。」
「なんで?」
「あの人さ。『望みは何?』って聞いたあとに、『毎度あり』って言ったの。
ただ無条件に願いを叶えてくれるんだったら『毎度あり』なんて商売するときに使う言葉、言わないでしょ?」
「確かに…言われてみればおかしいかもねぇ」
「ってことはさ」
「ここは…何かと引き換えに願いを叶える場所なんじゃないかなって思うの」
トモコさんはなかなか鋭いようです。
確かにここは無条件に願いを叶える場所ではありません。何かと引き換えに願いをかなえる、それが彼女の仕事なのです。
では、今回の『代償』とは一体…?
「……ぁ」
分かってしまいました。今回の代償が。
それはきっと……
ガラリ
「手術が終わったよ」
いつの間にそんな時間が立っていたのか、彼女が部屋から出てきました。
「ね…ねぇ。リカはどうなったのよぉ!?」
「ああ、手術は大成功だ。ただ麻酔が覚めるまで――つまり明日までいてもらって、日がまた昇ったら帰ってもらうよ。今度は案内人なしで…ね。」
トモコさんたちは彼女に詰め寄りました。それにしても…まるで私たちがリカさんを拉致してる悪役みたいないい草です。
彼女はじぃぃっと見ているこちらに気づくと、ふわっと笑いかけました。
久しぶりに見る営業スマイルではない本当の笑顔です。
私も釣られてにっこりと微笑みました。
― こ れ で 仕 事 は 終 わ り ま し た ―
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仕事が終わって私は片付けを手伝いました。
生臭い血がこびりついた壁、床。そう言ったものを雑巾でキレイになるまで拭き取ります。次に来たお客様がこういうのを見て、逃げてしまっては困りますから。
彼女は同じく血がこびりついた手術道具を丁寧に洗ってふいていました。
そして…今回の代償も、しっかりと手術台の上に上がっていました。
「私…分かっちゃいました。」
私は手を休めないまま、彼女にそういいました。
「何がだい?」
「今回の代償と『銀色の眼』のことです。」
私はそこで一段言葉を区切りました。
「『銀色の目』って、義眼のことだったんですね。貴方はあの人の目をくりぬいたんでしょう?
火の取り扱いを注意しろって言葉も、目が見えなくなるから注意しなさいってことを忠告していたんですね。」
「……お見事。今のは100点だよ」
飄々とした態度で彼女は言いました。
…初めての100点なのに、あまり嬉しくはありません。
「だいたい、代償も無しに願いがかなうなんざ、あるわけないんだよ。
この世の中は、全てが等価交換だからね。」
そういって、割り切れる彼女はすごいと思います。
私も、もう長い間彼女の仕事っぷりを見ているのに、こういった人から大切なものうばうことに抵抗感が未だにあります。
「…貴方には、一生勝てない気がします……」
そう小さくつぶやいた言葉は、彼女に聞こえたでしょうか?
それきり私も黙々と仕事をこなしていきました。
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「ありがとォね。願いをかなえてくれてさ~。」
「いや、礼は要らないよ。ボクは人の願いをかなえることが仕事だから。
ただし。包帯はまだ取らないでおくんだよ?最低でも一週間…その間は彼女のこと、君たちが支えてやってくれ。」
「…う…ウン」
「それぐらい分かってるわよぉ!」
「気をつけていくんだよ?」
翌朝、昨日言ったとおりリカさんたちは帰っていきました。
その後姿を見ながら、私はあの人がこれからどうなるのだろう、と考えました。
一週間後。望むものを手に入れたのにそれを自分の目で見れないことを――もう永遠に光を感じることができないと知ったら、その時リカさんは、どんな絶望をあじわうのでしょうか。
「それで?今回はキミに気づく人はいたのかい?」
ふいに彼女がそう言いました。
私は首を横に降り、続けました。
「やっぱり、私の姿は見えないし、声も聞こえないんですね。
…トモコさん。一瞬『この人なら』って思ったんですけど、違いました。」
「しょうがないよ。
だってキミは、この山で死んだ子供の幽霊なんだから。
キミの姿はボクと…何故かは知らないけどそこにいるすみれおばあさんにしか見えないんだから。」
「すみれちゃんは私の双子の妹なんだから、見えて当然です!!」
「その姿で言われても、なぁ。」
彼女は苦笑しました。
確かに私の成長は死んだその日――7歳の姿で止まっています。そしてそれから半世紀以上が経ち、私とすみれちゃんの見た目の年齢差は孫と祖母ほどに離れてしまいました。
けれど…それでもいいんです。私の分まですみれちゃんが生きててくれてる。これほど嬉しいことはありませんから。
ただ、やっぱり二人しか話し相手がいないのは寂しいので、お客のなかに誰か私を見れる人がいないか探し続けているのですが、今のところは誰一人としていません……。
「姉さん。じゃあ、私もそろそろ帰ります。」
いつの間にかすみれちゃんが起きてきて、帰る準備をしていました。
名残惜しいけれど、次のお客が来るまで会うのは我慢です。
私は一種の自縛霊みたいなもので、この雪山から出ることができないので。
「うん。気を付けて…じゃあね!!」
過ぎていく妹にぶんぶんと手を振りながら、私は彼女と一緒に小屋に戻りました。
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悩みを持った人、興味本位できた人、はたまた偶然迷いこんだ人が今日もこの小屋を訪れる。
そこにいるのは美しき女主人と――幼き少女の幽霊。
さぁ、よってらっしゃい、見てらっしゃい?
どんなものでも取り扱っていますよ?
何でも願いは叶います。
代償を払う、勇気があればね……?
--fin--
いかがでしたでしょうか?
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