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阿呆の子  作者: 哉村 明
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飯の値段と授業態度には気を付けろ

 おれはいつも阿呆だ阿呆だと言われ続けてきた。親の顔は知らんので親が阿呆だったかは不明だ。

それなのに仇名は「阿呆の子」である。いちいち理解不能だ。

 

 実際、おれは阿呆などではないと自負している。むしろ、おれの事を阿呆だ阿呆だと決め付ける視野の狭い奴等の方がよっぽど阿呆だと思う。あいつらは一人では何も出来ぬくせに、やたらと強がっている。そして、一人でいる奴をよってたかって虐める。可哀そうな奴等だ。

 

 その奴等とは、この間こんな事があった。おれが一人で飯を食っている時に例の阿呆軍団がやって来て、よう阿呆の子お前の飯は随分安っぽくてまずそうだなと言った。腹が立ったので馬鹿を言うなこれは三百円もしたぞと言うと、ほらやっぱり阿呆の子だハハハと笑われた。何がハハハだ。おれは貴様らのように親の脛を齧って生きていないから三百円の価値がわかっているんだ。いつまでも親に甘えて飯を買ってもらうなんて恥だ。その旨を伝えたら、お前の親も阿呆だからお前の世話が出来なかったんだと言った。どうやらおれが悪いという事らしい。

 それからしばらく言い合いを続けていたら、また一人誰かがやってきた。随分地味な奴だ。こいつも大方一人で飯を食うつもりだろう。そう思っていると、阿呆軍団が今度はその地味な奴に声をかけた。お前も一人で飯を食うのか、寂しい奴だなとかなんとか言っている。おれはそいつがあんまりにも不憫に思ったので、どれそれならおれと一緒に飯を食おう、それなら一人じゃなく二人だと言った。するとようやくその地味な奴が口を聞いた。

「すみません、一人にしてください」

 こいつはおれの心遣いを台無しにするつもりか。みろ阿呆軍団が笑っているではないか。貴様なんぞに気を使ったお陰でおれが恥をかいた。そう言おうと思ったがあまりにもそいつが怯えているのでおれも黙った。

 その後は散々であった。阿呆軍団には馬鹿にされ、地味な奴は一人で気まずそうに飯を食う。そのせいでおれの飯までまずくなった。おまけに、その地味な奴にまで俺は馬鹿にされた。君は話し方が変わっていますねと嘲笑されたのだ。今考えると嘲笑ではなく奴なりの微笑みだったのかも知れないがそんなことなど関係ない。結局どうであろうとあいつはおれの心遣いを無駄にしたのだから。なのでおれはあいつとは友達になれそうもない。

 

 そんなこんなでひと悶着あった昼休みだったのだが、もうこれから五時限目だ。なんとしてでもあいつらには馬鹿にされんようせねばならんものだ。講師に指されたときは直ちに起立し、答えを言う。これで完璧な筈だ。今度こそは失敗しないぞと思い、古文の時間に指差されたときおれは素早く立ち上がった。今までは当てられたときに大概失敗して奴等に馬鹿にされていたからだ。

 しかしおれの考えが甘かった。勢いよく立ち上がりすぎたのだ。後ろでがたんと大きな音がし、振り向くと椅子が倒れていた。教室がどっとわく。おれの顔は見る見る赤くなる。大恥だ。講師がにやつきながらおれに「答えは?」と問う。おれはあんまり腹が立ったので知るもんかと叫んだ。叫んでから少し後悔した。おれが立ち尽くしていると、いつもの奴等がまた「阿呆の子先生がご立腹じゃ、逃げろ」と言ったので、教室がまたどっとわいた。

また腹がたったので、ふざけるな誰が阿呆の子だ黙れ愚か者がと言うと、襟首をつかまれて教室の外に追い出された。その後は校長室に呼ばれて散々だった。他の奴等が今日のおれと同じ事をしてもここまでは叱られないのに何故だと今日は思った。明日こそは奴等に一泡吹かせてやろうと思う。

閲覧ありがとうございます。

私の小説は縦読みにして頂けると嬉しいです。

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