第8話『モーニングショット!』
微かに漏れる陽の光に誘われて目を覚ますと、すでに彼女は目覚めていた。昨日の夜(正確には朝だが)の出来事がウソのように、スッキリとした顔をして。一方、ボクはと言えば、深酒をした翌朝の恒例行事とも言える頭痛の真っ只中だったのだけれど。
いつの間にか化粧を落としたキミは、思っていたよりも幼な顔で。キャミソールからは手のひらサイズの胸が見え隠れする。…? ん? 胸!?
「男を前にその格好はないんじゃない?」
起きて一発めの言葉がこれとは情けない。
「あ、起きた? おはよ〜♪ ご飯作って☆」
前言撤回。発言だけは元のままだ。が、やると決めたが由良乃助。まずは目覚めの珈琲を…と薬缶を取り出し、火にかけた。
「珈琲いる?」
「いるけど、ないよ」
…。ない、というのはアレのことですかい? ひとり暮らしの必需品、インスタントコーヒーの素のこと? 一体、キミはいつもどんな暮らしをしてるのかね?
そしてボクは改めて、部屋と、部屋に佇むキミを見渡した。うん、部屋ごとキミごと粗大ゴミ行き決定! ってお茶目なコトは言いたくないが、陽に照らされた部屋は、かなりの軌道修正が必要な様子だった。
「…とりあえず買い物行こう。コーヒーと…きっと食料もないんでしょ?」
「はい」
菩薩の如く微笑みをたたえ、キミが手渡したのは、昨日の長財布。開いて見るとそこには何枚かの福沢センセー。あ、どうも、お久しぶりです。って違うだろ!
「あたし、お風呂入るから。ご飯、よろしくネ」
ウィ、ムッシュー! じゃなかった、マダム!! じゃなくて!
「スーパー、どこ?」
「あっち」
簡潔かつ簡単なお答え、ありがとう。ボクは自分の素晴らしい適応力に拍手を送りつつ、寝癖でボサボサの髪を軽く整えると、キミの笑顔に見送られ、スーパーへと旅立った。