第7話『月とスッポン。そして…』
とりあえず『あっち』と言われたソファーに寝ようと居場所を確保するものの、立派な成年男子が足を伸ばして眠れる程のスペースがとれるハズもなく。ボクはキミの眠るベッドへと『移住』したワケで。誓ってもいい。そこにエロスのエの字もなかったコトは! …その瞬間には……だけど。
バチンッ!
突然の衝撃にボクは慌てて飛び起きた。…? あれ、ここってどこだっけ? 顔をしかめながら辺りを見渡すボクをキミは構いもせず、相変わらずの口調でこう告げた。
「悪いんだけど彼氏ならいるから、触るの、お断り。ほかで抜いて」
はい? てコトは、さっきの衝撃は…キミのビンタってコトですか?
「ごめんね〜寝ぼけてたみたいで」
と送りオオカミさん。
「寝る。邪魔しないで」
とお姫さま。
この状況、考えてみたら、ホントはかなりマズいんじゃ? 今、彼氏がいるとかなんとか宣ってましたよね、アナタ。
「ごめん、寝てるとこ、悪いんだけど…」
目をこすり、限りなく幼稚園児に近い機嫌の悪いキミから話を聞き出す。
結果、なんとか理解できたのは、以下の3つのコトだった。
1.麻美嬢には彼氏がいる。しかし、彼氏はIT屋さんだかなんだかであまり会うコトができない。
2.彼氏には操をたてているため、例え、オトコ(主にボクのコトだろうけど)が泊まっていようとも、住んでいようとも、そういう関係にはならない。
3.よってボクは純粋に家政夫として囲われる。
はい。了解しました。…。あ、の、ねぇ? 男を舐めるのもいい加減にしろよ、と怒鳴りそうになったところで、ボクの僅かに残った理性と打算が囁きかけた。
まあ、カラダにはよくないかも知れないけど、ここにいれば、食費と光熱費は安くあがるぞ? 暖房もあるぞ? −1+3=2。プライドの分を差し引いても1余る。
背に腹は変えられぬ。無職のボクの預金通帳とキャバクラ嬢の彼女の預金通帳。それは比較するまでもなく、月とスッポンの関係なワケで。…まあいっかな。不覚にもボクは、見返りのない労働をキミに捧げるコトを自ら選択してしまったのだ。