第6話「ダストシュートの森」
キミが指差したマンションは比較的古めの小さなモノだった。駐車場こそついているものの、駐輪場はナシ。そして、なんと! エレベーターまでついていなかった…。
ん? てことは…もしかして。ボクは階段で、しかもキミを背負ったまま『503』まで行くってコト? まっさっかっね〜♪ あまりの衝撃に思わず歌い出しそうになる。
右手に手すり、左手にキミ。ところどころ剥げかかったペンキが妙に哀愁を誘うのは気のせいじゃないだろう。これだけ動いているにも関わらず、ぴくりともしないキミは大物だよ、ホント。
膝はガクガク、左手も痺れ始めた頃、ボクは『503』へと辿り着いた。
西野選手、やりました! ついについにゴール目前です! 小さいおっさんアナウンサーが狂喜乱舞の声を上げる。些か回しづらいカギを開け、部屋へと続くキッチン兼廊下を歩く。
カチャリ。
ドアの先はーーーまるで服のダストシュートのようだった…。
床にソファーにベッドにと散らばる服の森。掻き分けど掻き分けど、床面が見えてこないのは気のせいではないだろう。
開いた右手でベッドの上の服を払いのけ、ひとまず彼女を揺り起こす。
「…寝る」
え!? 今、なんと? ねえねえ、キミって、ホントにホントは幼稚園児? 人に何かしてもらったら、まずはありがとうって習ったよね?
「そこ」
唖然呆然のボクを尻目に、ベッドの中からキミはソファーを指差した。どうやらここで寝ろと言いたいらしい。
「いや、さすがに帰るし…」
との返答もすでに夢の住人となったキミには届かなかった。