第3章「ボクとキミの受難の朝」
あの日のキミは…とてつもなく酒癖が悪かった。と言っても、ボクの記憶が正しければ、の話だけど。いや、間違いなく、悪かった。ついでに言えば、ご機嫌の方も恐ろしく斜めだったんだけど。
タイミングがよかったのか、悪かったのか、彼女たちの喧嘩が終わってからというもの、店の客足は途絶えていた。ボクはと言えば、おかげさまであれほど耐えられなかった眠気もすっかり覚め、店長にオゴって貰った焼酎に舌鼓をうっていた。
横には奇しくもキレイな女の子。うん、朝まで飲んだくれるのも悪くないね、たまには、と心の中でこっそり呟く。
これまでに聞いた話をまとめると、麻美ちゃんは近くのキャバクラに勤める23歳。この店の所謂遅い(というか一般的には朝方の)時間帯の常連客というコトらしい。どおりで腕やら耳やら首筋やらがジャラジャラキラキラしてるワケだ。
ボクも大概呑ん兵衛だが、麻美ちゃんも負けず劣らずといった感じらしい。JINROのネックをみる限り、優に20本は超えている。先ほどよりは多少口調がゆったりとしているものの、酒のペースは変わっていない。きっとかなりの酒豪なのだろう、と店長に問うと、こう一言返ってきた。
「…西野さん、きっと後悔しますよ……」
……。そう、それから約1時間後。ボクは店長の予言を、身をもって体験するコトになった…。
「麻美ちゃん、麻美ちゃん! タクシー、どっち側から乗ればいいの?」
「知らなぁい。てかどっちでもい〜し〜」
西野巧26歳。今、猛烈にピンチです! なんて頭の中から禿げかかった小さいおっさんアナウンサーの実況中継が聞こえてくるとかこないとか。
…ボクの受難が始まったのは今からたった30分ほど前のコトだった……。