病物語 やみものがたり
初めての短編です!
良かったらアドバイスなどをくれると嬉しいです!
『不幸』という言葉は様々な時に使える。
例えば財布を無くした。確かに不幸だし、誰かが死んだ。これも不幸だ。
厄介な目に遭った。これも不幸だ。
今三つの不幸を例に出したが、僕は三つ目の不幸に当てはまる人間なのかもしれない。
「さて、ここはどこなんだろう?」
僕は気がつくとピンク色のベッドカバーが着けられたベッドの上に手錠を掛けられながら目を覚ます。何故この女の子らしい部屋に僕は居るのだろうか?
何だか頭が痛い。ズキズキする。
どうなっているんだ……、窓からは光を完全に遮るカーテンが仕切られていて、景色が見れない所か部屋の暗さが僕の恐怖心を擽る。
「……ん、駄目だ。手錠は外れないか」
ガチャガチャと音を立てるだけで勿論外れるような気配は無かった。
ガチャリとドアが開く音が聞こえた。
ドアの方を見ると、そこには茶髪のロングな女の子がそこにいた。
「やっと起きたんだぁ、よーくん」
「君は……」
甘ったるい声色で僕をよーくんと呼ぶ女の子に僕は見に覚えがあった。
同じクラスの楠木伊美。クラス内でも、いや、学校内でもトップクラスの美少女である。
楠木さんは暗くて少しだけ見えないが、恍惚な表情は見えた。
そんな表情でこちらに近づき、ベッドに四つん這いで歩いていて、僕の顔に手を乗っける。
「よーくん、私の可愛いよーくん……」
「……な、へ?」
呆気に取られた僕を尻目に楠木さんは顔をズイっと近づき、いきなりキスをしてきた。
それも外国の恋愛ドラマで見るようなディープな。
舌を絡め、卑猥な音が部屋中に響く。
「ぷはぁ」
「……」
ようやくキスが終わったかと思えば、胡座にしている僕の上に乗っかって再び顔を障り始める。
「ちょっ、ちょっと! なんなの!? 君は一体……」
「君じゃない。伊美」
「……伊美さん」
「伊美」
「…………伊美」
怖かった。
なにがって、名前を呼ぶように促していた時の……伊美は僕の目を真っ直ぐに見て、有無を言わさないような目をしていた。
しかし、今はそんな事より知りたいことが有りすぎる。
「どうして僕はここに……?」
「拉致った」
「へ?」
「私が、よーくんを拉致った」
…………何だか思い出してきた。学校の帰り道、後ろから突然頭を殴られ、そこから記憶がない。『拉致った』と軽々しく言ったあたり、罪悪感は無いのかもしれない。
「どうして? 僕なんかを拉致したの? 君とは接点は無かったと思うけど……」
「覚えていないの?」
どこからともなく伊美はシャープペンシルを僕の指に刺してきた。
凄まじい激痛が身体中を走り抜ける。
「ぐぁぁぁぁぁ!! な、何を……!」
「覚えていないの?」
「あ、あ……うん、覚えてるよ」
自分の自己防衛本能が働き、とっさに嘘を吐いてしまった。小さい頃に嘘を吐くなと教育されていたが、こんな状況で嘘を吐く事は許されるだろうね。
「そう、今年の春。よーくんは道に迷った私を助けてくれた」
「……ぐっ!」
シャープペンシルを引き抜き、どくどくと血が流れる。
伊美が突然語り始めた事で何とか彼女との接点を見つけ出すことに成功した。
「とても優しいよーくん。いつも見ていた」
「……」
黙って話を聞く。
「よーくんが私以外の女の子と話す度に殺意が芽生えた。嫌だった。独占したかった。だから拉致した」
「……」
ヤバい……この女の子ヤバいな。
所謂ヤンデレって奴だろう?
それにシャープペンシルで刺された箇所からどんどん血が出ていてシーツが汚れていく。
「あのさ……」
「なに?」
「手錠外してくれない?」
「駄目」
「どうしてさ」
「手錠外したらよーくんは違う女の子と話す。よーくんは私とだけ話していればいい」
そりゃそうだ。
女の子と話さずに生きていくなんて無理だ。
「だから……」
そう呟いて、伊美は顔を耳に近づけ、僕の耳朶に甘噛みしてきた。
甘噛みしたまま、彼女はこう呟いた。
「私だけのものになればいい」
「……」
どうやら僕はここから逃げ出すことは不可能のようだ。