突撃! 推しのお宅拝見!
「わわわわたしのお部屋ですか⁉
いえ、そんな、お気遣いなく!
全然、誰かに掃除してもらう必要なんてない清潔な空間ですよ」
わたわたと手を振り、あれだけ真っ赤だった顔を青ざめさせながら誤魔化そうとするカノンたん。
うん……バレバレな嘘をつく推しの姿もまた好!
その可愛さに騙されたい気持ちはあるが、しかし、そういうわけにもいかない。
俺の使命は推しを幸福にすること……言ってしまえば、推しのクオリティ・オブ・ライフを高めることにある。
他ならぬ推し自身がその妨げになろうとしているならば、苦言を呈さざるを得なかった。
「カノンたん……実はさっき、君が咄嗟に体で隠そうとした部屋の様子が、思いっきり見えちゃってたんだ。
本当、女性の部屋を覗き見るなんて、不可抗力とはいえどうかと思うけど」
「あうう……」
もじもじして、恥ずかしそうに顔を逸らすカノンたん。
あーっ! くそうっ! 可愛いなあ! もう!
「その上で言うよ。
――お前さんの部屋は、人間の住む場所じゃない」
「はうっ……!」
そんな彼女に、真顔で事実を突きつける。
「いいかい?
推しのグッズもしまって、綺麗にされたこの部屋をよく見るんだ」
「はうう……」
俺に言われるがまま、カノンたんが室内を見回す。
昭和からタイムスリップしてきたかのような畳部屋は、大家さんの管理がよかったこともあって、清潔の一言。
日本人なら、本能的にゴロゴロしたくなること請け合いの一室であった。
「カノンたん。
角部屋という違いはあるが、君の部屋だって基本的な造りは変わらないだろう?
今見ているこの状態こそ、君の部屋に本来秘められているポテンシャルなんだ。
それを踏まえて、今、君の部屋が置かれている状態は健全なものだと言い切れるかい?」
「で、でも……あれ……そう!
わたしにとっての、使いやすさを重視した状態になっていましゅので……!」
「(笑)」
「あうう……鼻で笑った」
「カノンたん。
角部屋という違いはあるが、君の部屋だって基本的な造りは変わらないだろう?
今見ているこの状態こそ、君の部屋に本来秘められているポテンシャルなんだ。
それを踏まえて、今、君の部屋が置かれている状態は健全なものだと言い切れるかい?」
「しかも、同じ内容を繰り返してきた……!
これ、『いいえ』を選ばないと無限ループするやつ……!
えっと……。
で、でも……あれ……そう!
わたしにとっての、使いやすさを重視した状態になっていましゅので……!」
「(笑)」
「また鼻で笑った……!
やっぱり、無限ループ……!」
いかんいかん、意外とノリがよいカノンたんも最高にラブリーだったので、ついついおかしなコントを展開してしまった。
同じネタこすっても仕方がないので、ここで少し台詞を変える。
「リモコンやら何やら、使いやすい位置に置いてるって言いたいんだろうけどさ?
一番使いやすい状態っていうのは、きちんと整理整頓した状態のことを言うんだ。
なんだっけ? 建築業界とかだと、5Sって言うらしいよ。
整理、整頓、清掃、清潔、しつけね。
前に店長やってた店で、お客さんたちが話してた」
んで、飲食店経営でも大事な心得だと思ったから、記憶に残ってたんだよな。
ひいては、日常生活においても大事な心がけだ。
心がけないとどうなるかって?
……目の前にいる推しみたいに、冷や汗ダラダラで見苦しく誤魔化そうとするようになります。
「で、でも……二海さんは言ってた。
わたしの幸せが大事だって……!
わたしにとっては、あの状態の部屋が、一番過ごしやすくて、幸福でしゅ……!」
「ははは、笑わせるなよ花岡さん」
「呼び方が、本名呼びになった……!
距離を詰められてるはずなのに、離された感じがする……!」
「花岡さん。
汚く散らかってる部屋っていうのはね。生活のクオリティを著しく下げるよ?
何しろ、視界に入る全てが汚れて散らかってるんだから。
気分だって、当然ヨドンでだらしなくなる。
それじゃ、キラキラ輝いたメンタルにはなりようもない」
「あうううう……」
もはや、言い訳の言葉も誤魔化しの言葉も尽きたということだろう。
完全に言葉へ窮したカノンたんが、人差し指をツンツンさせる。
うんうん、漫画で見たようなリアクションするカノンたんも可愛いよ♡
だが、その可愛さには騙されない。
俺はマシンだ。キカイだー。
良心の命じるまま、冷徹にミッションを完遂するのだ。
「掃除、するよ。いいね?」
「はい……」
そして俺は、カノンたんと共に彼女の部屋へと足を踏み入れた。
まさかの、推しのお宅へご訪問。
しかし、そんな甘酸っぱいシチュエーションでないことは、さっきカノンたんの肩越しに見た光景から、とっくに覚悟していた。
だというのに、実際に見たカノンたんのお部屋は……これは……!
「カノンたん。
一個聞いていいかな?」
「あう……なんでしょう?」
「失踪報道がされた直後からこの部屋に住んでる?」
「あう……そうです……」
「そっかぁー……」
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国民的アイドルグループ『ハニー・パレット』のセンター――カノンが失踪してから、半年。
彼女が潜伏している部屋は、ゴミ、洗濯物、諸々の生活用品が転がり、混 沌 を 極 め て い た !
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(俺の心が折れる音)
「あの……大丈夫ですか?」
「――ハッ!?」
ヤベーイな。
人間、立ったまま気絶することがあるんだ……。
いやはや、それほどまでに眼前の光景は――強烈。
俺の眼球にそんな機能があったなら、モザイク処理したいくらいの惨状である。
そりゃ、カノンたんがあれだけ掃除を固辞するわけだわ……。
こんな部屋、誰かに見せたいと思うはずもない。
そして、できれば俺も、こんな推しの生活空間は見とうなかった。
「やっぱり、掃除はなしにしますか……?」
「い、いや……」
正直、怖気づいてる自分はいる。
いかに散らかっていようとも、独身用のアパートなのだから、ほんの一時間か二時間でどうにかなるだろうとタカをくくっていた。
これはもう、気を引き締め直すしかない。
今こそ燃やせ! 心の火を!
俺はライオンだ!
百獣の王がごとき不屈の闘志をもって、ゴミというゴミ、汚れという汚れを徹底的にクリーンするのだ!
「カノンたん……。
君はそこのゲーム機持って、一旦俺の部屋に避難していてくれ。
とてもじゃないが、この戦いにはついてこれそうもない」
「あうう……。
わたしの部屋が、戦場か何かみたいな扱いされてる」
「いいから行くんだ!
冷蔵庫の飲み物とかは、適当に飲んでていいから!」
「はう……わかりましゅた」
促されるまま、Sw◯tch2を手にした推しが俺の部屋へと避難していく。
清掃!
分別!
廃棄!
一掃!
「これが俺の……祭りだアアアーッ!」
そして俺は、命をかけた戦いへと身を投じたのである。
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